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遼の策略

第三試合、開始。

その最初の0.1秒から、第一、第二試合とは展開が異なっていた。

先手を取ったのは、黄鷲高校先鋒。


セラフ・ゲールティエス。


「黄色の人、この試合はスタートめちゃくちゃ速かったけど…なんで?」


「セラフさんのこと、黄色の人って呼んでるの???」


確かに彼は髪も目も黄金で、まるで砂漠に佇む鷲のようではあるのだが。

愛称がチープすぎやしないか。


しかし…そうだな。


「恐らくセラフさんも、遼兄がそう簡単に抜かせてくれる相手ではないってことを分かってる。さっきみたいに勝負どころで、一撃で仕留められる相手じゃないんだって。」


前に出ることが困難なら、最初から前にいればいい。

5周という短いレースなら、合理的な手段だ。

プレッシャーによって体力と精神力が削られたとしても、たった15分そこそこを耐えきれば済む話。

遼兄とて、セラフさんほどの人物を相手にして余裕でいられるわけはない。


「遼兄が前に出るとしたら、どこなの?」


これまた難しい質問だ。

この前やった『予言』と大差ない。


「今までの試合を観ている感じ、セラフさんのマシンはストレート特化のセッティングを取ってるみたいなんだ。」


この鈴鹿は、3つの長い全開区間を有している。

ホームストレート以外の全開区間が、コース後半に集中している。


「コース前半のテクニカルなS字区間なんかは、追い抜きのポイントになると思うけど…。」


仮にコース前半で遼兄が前に出たとしても、後半の全開区間で差が詰まり、抜き返されることが想定される。


「前に出たとて、なんだよなぁ…。」











「ここだ…!!!」


S字区間の最後、次なるセクターへと向かうその時。

右コーナーのアウト側から追い抜きをかける。

次のコーナーは左。

インとアウトが逆転し、俺とセラフは完全に並んだ状態に。


1周目で、相手とのストレートにおける速度差はチェックした。

2周目のこのタイミングで追い抜きをかけたのにはワケがある。

バックストレートに入れば、セラフのマシンの方がノビがある。


だが…!












「ローダウンフォース仕様ですか?」


「ああ。完全にストレートに特化させるんじゃなくて、少しはコーナーで優位に立てるような…そんな絶妙の塩梅を探してるんだ。」


若松のメカニックも担当してくれている由紀に、そんな無理難題を押し付けた。

苦労させたと思う。申し訳ない。


「うーん…難しいですけど、やってみます。遼先輩の頼みとあれば!」


「ありがとう、頼んだよ。」












「想像以上だ、由紀…!」


低速区間でもしっかりグリップする。

バックストレートで追い抜いていったセラフのマシンにも、風よけがあればついていける。

それどころか…。


「これなら、あの作戦でいけるな…!!!」


セラフのマシンに、ストレートエンドで追いすがることができる。

それすなわち…。


「ストレート直前でヤツのすぐ後ろに付いていれば、直線の間に前に出られる。」


バックストレート後に控えるのは、低速のシケインのみ。

後に待っているのは、コントロールラインだけ。

バックストレートで前に出られれば、それはその周をトップで終えることができるのを意味する。


ここで、今の状況を整理する。


2周目前半、俺が前に出た。

2周目後半のバックストレートで、セラフが前に出るだろう。


3周目、俺は後半までセラフの至近距離ギリギリで待機する。

すると3周目のバックストレートで、俺が前に出られる。


これを続けていけば、


4周目のコントロールライン到達時、前にいるのはセラフ。

5周目の…すなわちフィニッシュの時に前にいるのは…。


そう。


俺だ。


ただし、問題は…。


「俺がこの通りに動けるのか…そして…。」


2周目のバックストレートが近づいてきた。


「セラフがこちらの策略に気づかず、思った通りにやられてくれるのか、だ…!!!」


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