ピンチ、あるいは…?
『お姉ちゃん!振り切れないよ!!!』
第二試合、5周目。
その試合は、まるで私の試合をコピーしたような展開だった。
「落ち着いて!あなたはまだ前に…」
その時、無線から沙紀のマシンとは違う周波数のエンジン音が響く。
私は直感した。
並ばれた…!!!
すでに両者はバックストレートに入っている。
残りコーナー数は、僅か3つ。
このノビだよな。
ストレートでグングンと、相手との差が縮まっていくこのノビ。
まるでクラス違いの車両を追い抜いているかのような気分だぜ。
深緑色のマシンを抜いていく。
このドライバーは中堅。
つまり、次に現れるのは…。
コントロールラインを通過するとき、横目でピットレーンを眺める。
そこには、確かにヤツの姿があった。
「『とっとと出て来いよ、大将。』」
遼。
決めようぜ、この夏…どっちが一番速いのかを。
『第二試合勝者。黄鷲高校先鋒、セラフ・ゲールティエスくん。』
さぁ、追い込まれたぞ。
これから俺が挑むのは、大将戦でも何でもない。
相手の先鋒に二枚抜きされ、大将である俺が引っ張り出された構図。
傍から見れば絶体絶命のピンチ。
…本当にそうか?
今一度、考え直そう。
「遼先輩、すいません…わたし…」
「気にするな。待っていろ。」
双子の目には涙が浮かんでいるように見えた。
なぜそんな顔をする?
大丈夫。
俺は、星野遼だ。
『まもなく、第三試合を開始いたします。』
さあ、こっからだぜ。
骨が折れる相手だってのは分かってる。
オレが先鋒を選んだ理由。
表向きには、センパイたちの手を煩わせないためとしてる。
本当の理由は、二つある。
まず第一に、一番多くの相手と戦えるから。
相手の先鋒から大将まで、くまなく対戦することができる。
二つ目。
これはあまり口にはしたくないんだが…。
グリッドについたオレのマシンの後方から、高回転域までエンジンをカチ回している音が聞こえてくる。
最後にして、最強の敵。
五年前も随分と手を焼かされた。
遼がグリッドに着いた。
スタートの時が迫る。
頭上のシグナルが、一つ。また一つと灯っていく。
そう。
オレが大将として遼と対戦することを避けた理由。
この大会のルールとして、大将戦のみ10周のレースが行われることになっている。
それ以外は5周と、半分にしか過ぎない。
「『…チッ。』」
本当に、世話の焼ける相手だよ。
オレじゃなきゃ務まらねぇくらいにな。
そうだよ。
俺はあの怪物を、10周抑えきれる自信がないんだ。




