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ストレートの速さ・ダウンフォース

『今年度から参戦の留学生、セラフ・ゲールティエス!!!なんと、なんと準決勝で三枚抜き!!!』


「ほら見たことか。」


電車に揺られながら、遼兄の個人用端末をみんなで覗き込んでいる。


「へぇー。ホントに強いんだね」


「さっきから何度も言ってるだろ。」


リニアを降りた後、帰りの電車は、試合を観ながらだと随分と早く感じた。

流れゆく景色は大して速くないのに、不思議だ。


「今回ばかりは俺も勝てるか分からん。」


「すいません!それってぼくには勝てるだろうって思ってたってことですか!?」


冗談めかして笑う遼兄に、食って掛かる玖利くん。

夏の長い陽も、そろそろ傾いてくる頃合いだ。













「由紀と沙紀には申し訳ないが、できる限りセラフを消耗させてもらうしかないな…。」


就寝前。

俺は自室にて、コース図とにらめっこしていた。

きつく腕を組み、胡坐をかいた脚を貧乏ゆすり。


これほどまでに自分を追い詰めて考えたことは、未だなかった。

指でコース図をなぞり、レースの情景をシミュレーションしてみる。


「コース内に3か所ある長い全開区間…。」


ホームストレート、ヘアピン後の緩やかに曲がる全開区間、バックストレート…。

ふと目についたのは、それらのアクセルをベタ踏みにする場所たちだった。












「クソ…ッ!!!ストレートで置いていかれる…!!!」


X1-Jr.GPにおける、セラフの牙城は絶対的なものだった。

古くからモータースポーツが盛んであるドイツ出身で、地元のレースでは狂気じみた人気を博していた。

ヨーロッパが主戦場である同グランプリでは、俺はいつもヴィラン役だった。


「『セラフのマシン、ストレートのノビが良すぎる!何か不正をしてるんじゃないか!?』」


思わず無線にそんなボヤキを送った。

返ってきた答えは、至極真面目なトーンで。


『『セラフのマシンは、ダウンフォースを抑えてあるんだ。だからストレートが伸びる。』』


そんなバカなことがあってたまるかよ。

確かにコーナーじゃギャップが詰まるが、微々たる差だ。


走行する車体表面を流れる大気。

それを利用し、スポイラーなどのエアロパーツで車体を下へと押し付ける力。

これを、ダウンフォースと呼ぶ。


ダウンフォースが強ければ安定感が増し、コーナーを速く抜けることができる。

その反面、ストレートのトップスピードが伸びない傾向にある。

セラフのマシンはその真逆の傾向だった。


コーナーの速さを犠牲に、ストレートを取ったセッティング。

って。


「犠牲になってねぇだろうが…!!!」


速すぎんだよ…!

俺をこんな気持ちにさせたのは、現時点では後にも先にもセラフただ一人だ。












「セラフくん、お疲れ様。私たち出る幕ないよ~。」


「ありがとうございマス。」


ストレートで踏むだけならバカでもできる。

オレはそんな誰でもできるようなところで負けるのが許せねェんだ。

ベタ踏みでハンドル真っすぐにすれば、それ以上速く加速することはできない。


コーナーの速さは自分の実力でどうにかできる。

でも、ストレートの速さは実力以外の部分が大きい。

そんな、『実力以外』の部分で負けないように。


オレは、ダウンフォースを削りに削って試合に臨んでんだ。


「決勝でも、オレは先鋒でつかってくださイ。」


「正気かい!?相手はあの若松だよ…!?」


実力だけで勝負ができれば、オレが勝てない相手はいない。

これまでも、これからも。

そう信じている。


相手が誰であろうとも。


「知ってマス。」


体力の温存とか、相手の消耗とか。

それらは全てどうでもいい。


それを考えるのは、『相手に勝てないかもしれない』と少しでも考えているからだ。


ただ、オレが三人倒せばいいだけ。


そう。


「オレが、星野遼を倒せばいいだけですかラ。」


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