最強の先鋒
『『遼とセラフの一騎打ちだ!並んだまま最終コーナーに入っていく!!!』』
『『まだ並んだまま…あーっ!!!接触したっ!!!』』
『『両者コースオフ!!!その横を悠々と朔也が抜けていくーッ!!!』』
「そうか…セラフがねぇ…。」
試合を終えた遼兄と合流。
事の顛末を説明する。
玖利くんは横で朱莉の肩を借り、慰められている。
役得だね。
「決勝、どうなるかな。」
「分からん。だが一つ言えるのは…。」
まだ準決勝第二試合は始まってすらいないというのに、既に決勝の話題になっている。
そして、それは僕を含めてなんの違和感もない会話であった。
「アイツは先鋒で出てくる。」
「セラフくん、今日から勝ち抜き戦だ。私としてはキミを大将として起用したいと思ってるんだけど…どうかな?」
黄鷲高校、ミーティング。
ウォーミングアップを終えたセラフに、キャプテンが声をかけた。
被っていたタオルを己の手で引きはがすと、逆立った金髪が姿を現す。
鋭い眼光は、ギラギラと焼け付く夏の太陽のようである。
「…それにはおよびませン。」
セラフはキャプテンの言葉に、ゆっくりと横に首を振る。
既にヘッドセットの装着を始めていた。
「みなさまの手は煩わせませんヨ…センパイ。」
「アイツはただのレース中毒だ。」
遼兄は呆れたようにそう呟く。
「大将になんかなっちまえば、自分の出番がないまま試合が終わっちまうかもしれない。」
セラフさんは、自分の手で相手チームに引導を渡す。
自分の手で。
自分、たった一人の手で。
「今期の黄鷲に当たった高校は悲惨だな。先鋒にパーフェクトゲームをカマされてしまう。」
「じゃあ、若松も?」
「さあな。やれるもんならやってみてほしいね。」
「朱莉さん、申し訳ないです…不甲斐ないところをお見せしてしまって…」
「大丈夫。相手がバケモンだっただけだよ。胸張りなー。」
これで遼兄は二年連続の決勝か。
朔也と並んで歩く遼兄の後ろ姿を、ぼーっと眺めてみる。
ずいぶんとまあ、凄い人になったもんだね。
朔也はアレに勝つ気でいるんだ。
常人ならあきらめると思うけど。
常人じゃないんだろうなぁ。この世界に居る人は、誰だって。
朔也に勝った玖利くんも、こんなにボロボロにされちゃったけれど。
遼兄に…若松に。
勝てる相手はいるのかどうか。
決勝が終われば、その答えがハッキリする。
遼兄が勝ってしまえばそれまで。
来年まで待つしかない。
来年は、来年こそは。
私も鈴鹿のグランドスタンドで、演奏してみたいもんだねぇ。
「玖利くん。」
「はい?」
肩で息をしている玖利くんに、ちょっと意地悪な要望。
「来年はウチに勝たせてくれない?」
「いくら朱莉さんのお願いとあっても、それはムリです!」
そっか。
だろうね。
やっぱり、何事にも情熱を燃やしてる人ってのはカッコいいね。
「私も、頑張りますかね。」
後にした鈴鹿サーキットから、今一度爆音が響きだす。
楽器の音色、エンジン音。
第二試合が始まったみたいだ。




