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見守り隊

『次は、鈴鹿で行われている全国大会です。』


今日のところは勘弁してやる、とばかりに、気温はピークを過ぎて和らいでいく。


『準々決勝第二試合、若松対大雪の注目カードは、両チームのエース同士が接触するトラブルもありましたが、若松が辛勝。』


傾き始めた太陽は色を変え、サーキットに長い影を落としていく。


『既に準決勝進出の四校が出そろっており…』


夜となれば、誰も居なくなったサーキットは、次の試合の暑さを待ち遠しく思う。







『準決勝第一試合は、若松高校対紅葉高校です。』













08:12朔也『配置についたけど。』

08:12遼 『同じく。』





チャットで会話するのはあんまり慣れていない。

今日は試合がない、いわば休憩日だ。





08:13遼 『動いたぞ。追え追え。』





それでまぁ、なんで僕たちはこんなスパイみたいなことをやっているのかと言うと。


「私この辺全然わかんないや。玖利くん案内おねがーい。」


「まっかせてください!!!!!!!」


こちらにも、声がかすかに聞こえてくる。

そう。

僕と遼兄は、朱莉と玖利くんとの初デートの見守り隊をやっている。









二人が動き出した。

二人とも…特に玖利くんは距離感を探り探り。


初々しいと言えば聞こえは良いが、挙動不審とも言い換えられる動きだった。

明らかに真っすぐではない足跡をたどっていく。


街中は朝のカラッとした陽気で、過ごしやすい。

夏場に出かけるなら朝早くが良いと、僕は思うね。






08:16遼 『おいおいウソだろマジか』

08:16朔也『玖利くん!!!それは流石に自殺行為だッ!!!』

08:17遼 『初っ端からか…』






案内を任された玖利くんが、真っ先に向かったのは。


「へぇ~!こんなところに楽器店なんかあったんだ。」


「そうなんです!朱莉さんに楽しんでもらえるんじゃないかと思って!」






08:18朔也『確かに朱莉は楽しめると思うけど!!!』

08:18遼 『玖利…キミが付いていけなくなるぞ…?』






僕たちには止めることができなかった。

諦め、二人が消えていった楽器店に向かって手を合わせる。


「は~。ご愁傷様。」


自分の持ち場を離れる。

そろそろ人の通りも多くなってくる。

怪しい動きをしていたら補導されかねないからね。


僕とは別の物陰に隠れていた遼兄の肩を叩き。


「お茶でもしない?どうせ長くなるでしょ。」


楽器店から道路を挟んで向かい側にある、カフェへと向かうことにした。









「遼兄も玖利くんも、明日試合でしょ?こんなことしてる暇あるの?」


「俺は休む日はとことん休む主義でね」


この悠長さでバカみたいに速いんだから、イヤになるよ。

遼兄はこれから暑くなるってのに、ホットコーヒーを啜っている。


「玖利もよくやってるよ。準決勝まで来るとは正直思っていなかった。」


そんな事言う?

五年前のあの時の時点では、少なくとも僕より速かった。

玖利くんが勝ち上がるのは、想定内だと思ってたんだけど…。


「問題はあいつの性格的なところなんだ。どうしてもムラッ気が多いというか、気になったものにすぐに飛びつくフシがある。」


大方、朱莉のことを言っているのだろう。

一目惚れするくらいだから、遼兄の主張は合っていると言って差し支えない。

遼兄は啜っていたコーヒーを机に置き、ニヤ付いていた表情を真顔へと戻した。


「俺は考えてたんだ。」


店内は空調がガンガンに効いており、熱かったコーヒーを徐々に冷ましていく。


「俺が明日、玖利に負けるとしたら…その要因は何であるかを。」


いつになく弱気に見えた。

いつもの遼兄は、負けることなんか一切考えないようなヒトだった。


「あいつが準決勝にまで上ってきたのは、まず間違いなく、明らかな上振れだ。」


上振れ…。

そして、それはもっと大きな視点で見れば、『流れ』という言葉に集約される。


「今の玖利には、何らかのバフがかかってる。それは朱莉の存在なのかもしれないし、何か別の要因があるのかもしれないが…」


いわば、ゾーンに入りっぱなしのような状態で日常生活を長期にわたって送っているということなのか。


「明日は大将戦に持ち込まれるだろう。こういう事は言いたくないんだが、沙紀や由紀ではまだ玖利には勝てない。」


情けや容赦を全て捨て去った、闘う顔。

そんな表情をした、遼兄がそこには居た。


「…おっ。」


その闘う顔は、一瞬で元の表情に戻った。

なぜなら、僕や遼兄の視線の先に居たのは。


「…回収するか。」


「りょーかい。行こう」


足がもつれ、疲労困憊の玖利くんと、その横で満足げな表情を浮かべる朱莉の姿だった。


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