表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/48

煙たい1コーナー

野太いエンジンからの音と、甲高いトランスミッションからの音。

それらが同時に耳へとなだれ込む。


並ぶ。並ぶ。

並んでいる状態が当然であるかのように並び続ける。


成長甚だしいのは、俺以外の誰もかれもだ。

それが遅かれ速かれ、みんな高みへと昇ってきている。


「見違えたじゃないか、白石さん…!!!」


少なくとも去年のあの時に比べたら、とんでもない進歩だ。

俺は自分の速さに、それなりの自信は持っている。

そんな俺に、ここまで食い下がられちゃぁ…。


…良いねぇ…!

面白くなってきた…!!!











「…くっ…。」


攻略できない…!

さっきから自分の中では完璧なコーナリングを連発しているのに…!


あと100分の1秒、鼻先10センチの伸びが足りない…!

せめて、この場に居るのが私一人じゃなければ…。

せめてあと一人、私の援護に来てくれる人が居れば…!!!


「…すみません、援護を…応援をお願いします…!!!」


か細い声質ながらも、懸命に無線で呼びかける。

チームメイトが、救いの手を差し伸べてくれることを信じて。

私の悲痛な叫びは、確かにチームメイトの元に届いた。


しかし。


『そうしたいのは山々なんだが…』


返ってきた声もまた。


『3位4位の守りが堅すぎて、そっちまで行けねぇんだよ…!!!』


悲痛、そのものであった。













「沙紀!右から一台来てるよ!!!」


「は~い…!お姉ちゃんの方は大丈夫そうだね~」


堅牢な3位、4位ライン。

またの名を、河野シスターズ。


「お姉ちゃん、遼先輩たちは随分先まで行っちゃったみたいだけど…どうするの?」


コース後半の全開区間。

二台は後続を引き連れながら、最終シケインへと飛び込んでいく。


「私たちがこのポジションを守り切れば勝てるわ。」


由紀たちから遼までは、既に5秒以上のギャップが存在する。

万に一つ、遼がバトルに敗れるということがあろうとも、3位と4位のポイントがあれば勝利に大きく近づく。


遼から賜った作戦は決行できそうにもないが、勝てばいい。

由紀の中では、既にプランBが固まっていた。


ホームストレートに入る。

レースは15周目。

折り返し地点へと差し掛かっている。


「沙紀、私の後ろに着いて!風よけでペース上げるわよ!!!」


「りょ~かい~!!!」


時速200キロに迫ろうかという速度で、ホームストレートを駆ける。

未だに鳴り響き続ける『冬』が、各車を路面から引き離し。


宙を舞ったマシンたちは、そのスピードをより一層向上させる。

現状、トップ二台が突出しており、3位以降は数珠つなぎの様相を呈している。


1コーナーは高速コーナーであるがコース外にはグラベルが広がっており、速度の目測を誤って突っ込むと、コースに復帰してくるのは困難である。


そんな1コーナーに飛び込んだ、由紀が見たのは。


「…先輩ッ!!!!!」


やけに煙たい、1コーナー。

タイヤとアスファルトの摩擦から巻き起こったものと、砂埃。


その先にゆらりと現れたのは、もつれて絡み合い、コース外へと飛び出した二台の車影。

由紀と沙紀が、トップツーに浮上する。













「マズッたなぁ…!」


1コーナー、並んだまま突入。

続いていた集中状態が、張っていた糸を切るように途切れた。

長らく俺の耳には届いていなかった無線が、聞き取れるようになる。


『先輩ッ!大丈夫ですか!?!?』


トップから俺までのギャップは、既に15秒以上になっている。

グラベルから抜け出すのに手間取った。


流石にここからトップは狙えない。

フゥ…。


頼んだぞ。由紀、沙紀。

ここから先は、おまえたちにかかってる。


「大丈夫だ。」


俺と白石さんは、ほとんど同時にコースへ復帰。

最後方から追いかける。


「おまえたちの、力を見せろ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あぁ、遼さんと唯華さん二人一緒にグラベルへ出てしまった! 朔也さんとキュウリくんの時も接触して朔也さんが飛ばされちゃったし、ただ速ければいいというわけでもなく、ちゃんと戦術を考えて内側や外側、ラインな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ