表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/48

異次元のふたり

『久しぶりだなァ…よく覚えてるよ、この感覚…』


無線越しに遼先輩の独り言が断続的に聞こえてくる。

先輩が私の声に反応したのは、さっきの一回きり。

集中してるのか何なのかは分からないけれど…。

昂揚…というよりかは、ハイになってるって表現の方が合ってるかも。


『朔也…見てるかァ…?あの時以来だ…これだけ長い時間、サイドバイサイドを続ける羽目になったのは…』


私が遼先輩の言葉を聞き取れたのは、そこまでだった。

と、言うのも。


「…速すぎる…ッ!!!」


声を聞くのに神経を持っていかれると、確実に置いていかれる。

二台はバトルしてるっていうのに、クリーンエアの私よりも確実に速いペースでコーナーをクリアしていく。


異次元だ。

戻りかけていた自信が、みるみるうちに崩れ去っていくのが分かる。

ここまでの領域で走らせる人が、私の手の届く範囲にいるはずがない。


離れていく…。












「…凄いね。遼兄と争ってる人、1周近く並んだままだ。」


最終コーナーを立ち上がる音が聞こえた。

まだ、まだトップ二台の勝負はついていない。

しかし…これは…。


「…危ないよ。」


「え?」


五年前のあの時と同じだ。

僕はすぐ後ろで見てたから分かる。

全く同じ挙動をしている。


「このままだとトップ二台、そんなに経たないうちにクラッシュする。」


「はぁ…遼兄といい、予言流行ってるの?地球は滅亡しないよ。」


噂に聞くとその予言は当たったらしいじゃないか。

当事者が言うのもアレだけど。


「とにかく、状況が同じなんだ。…五年前の、X1-Jr.GPと。」












五年前、ドイツ。

ニュルブルクリンクGPコース。


X1-Jr.GPは、全世界の15歳以下のドライバーを選抜して行われる。

青少年へのモータースポーツ促進活動の一環として開催された本大会に、トライアルを突破した新たな挑戦者が現れた。


その二人の日本人は、今回のレースにおいて強力な壁にぶち当たることになる。

地元ドイツの同世代最強ドライバーとして名を立てていた、当時12歳。


セラフ・ゲールティエス。


遼と同い年であった彼は、二人が今まで対峙した誰よりも速く…強かった。











「三位表彰台が関の山か…遼兄とトップが争ってくれさえすれば…。」


…いや。

それでも無理だ。


並んだまま1コーナーに突っ込んで行った両者を見て、悟る。

明らかに僕とペースが違い過ぎる。

レースは既にファイナルラップ。


トップツーのミスを、トラブルを、願ってしまった自分が居た。

そして、その願いは皮肉にも叶えられることになる。


最終コーナーの立ち上がり、並んだままの二台。

イン側に陣取っていた遼兄のマシンが、ブレる。


スキール音を響かせ、路面にブラックマークを残しながらリアがスライドする。

そのすぐ外側にいたセラフさんのマシンに、接触。


両者はそのまま遠心力に従い、コースの外へと弾き飛んでいった。

結果的に僕はその試合でトップチェッカーを受けることになる。


試合後、僕はクラッシュの現場に急行した。

万に一つでも怪我なんかしてたら大変だから。


でも、そこに居たのは…。


「『どう見てもオレがラインの優先権を持ってただろうが!!!』」


「『だけど、仕方なかっただろ!レーシングインシデントだ!』」


言い合いをする遼兄とセラフさん。

大柄な二人だったから、止めようにもどうしようもなかった。

僕がその場であたふたしているうちに、係の大人の方たちが二人を回収。


あたふたしていた僕だけが、その場にポツンと残された。












「そんなわけで、今の遼兄の状況は非常に危険で…」


「キミ、なんもしてないじゃん。」


「はい?」


「棚ぼたで優勝掻っ攫って、あたふたしてただけじゃん。」


「はいぃ…」


手厳し~。

いつものことだけど~。


…ハッ。


そんなことはどうでもいいんだよ!

トップの二台はどうなった…!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
5年前のドイツでは内側にいた遼さんの車がブレて外側にいたセラフさんの車に接触してしまったということですね! 遼さんとしては同じような状況を5年前に経験しているわけで、今回は接触しないようになにか対応を…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ