体育会系のノリ
ホームストレートを、トップの二台が絡み合うようにして通過していく。
宙に浮いたマシンを操り、前走車の陰に隠れて風を避ける。
かと思えば、フェイントをかけるように一瞬だけミラーへ映りに行くような動きを見せたり。
この二台の中では高度な心理戦が行われていた。
「玖利くんはハードブレーキングで一瞬ふらつく…低速コーナー前で並ぶのは危険だな…。」
「朔也くん、インクリップが若干甘い。もう少しで突けそうな隙なんですけどね…!!!」
現在一位を走行中は笹井高校、西条朔也。
追う紅葉高校、東玖利。
この二台のトップ争いはレースが終わるその時まで続くだろうと、その場にいた選手、観客、テレビ越しに見ていた者も誰しもが思っていた。
この時は、まだ。
「ぶちょー!!!6位以下の集団が追い付いて来てるぞっ!!!」
『当然だ…争ってれば、こちらのペースも下がる。』
くそぅ…この3位を走るドライバー、粘り強すぎる…!
まるで突破口が開ける気がしないねぇ…!!!
一時は3位~5位で集団を形成していたものの、今では最後方10番手までが数珠つなぎの状態になっている。
これじゃあ万に一つも朔也クンの援護なんてできるわけがないね…。
既にトップツーはオレたちから10秒前方にいる。
レースが開始されてからもう15周が過ぎている。
後半戦だ。
ココからは集中力、忍耐力。
つまるところ気合と根性…!!!
いつの時代も青春の象徴ってのは、体育会系のノリなのさ…!!!
おっしゃ!!!なんか気合入ってきたぞ!!!
「ぶちょー!!!もう一回!もう一回やるぞ!!!」
『そう来ると思ってたよ…!車体を真っすぐに保て!!!』
ぶちょーがすぐ後ろに付いた。
レイズアップシンフォニーが起動する。
車体がゆっくりと上昇し…それと同時に、軽い衝撃が背中から伝わる。
もう一度、仕掛けて見せる。
加速が楽になった。
窓から手を出し、ぶちょーに向かって親指を立てる。
フゥー!
凄い風圧だ。
まだ車速は200キロに満たないが、腕が持っていかれそうになった。
改めて自分が、ものすごい限界領域で戦っていることを自覚させられる。
グングンと近づいてきている集団の先頭。
アウト側から並びかける。
「ぶちょー、今だッ!!!」
前回仕掛けたときと比べて、敵車よりもオレの方が前に出ている。
現時点でのラインの優先権は、オレにある。
ならば。
「アウト側はブロックしておく!そのまま…!」
抜き去れ、ぶちょー。
あんたなら仕留められるはずだ。
『すまん、玖利。笹井の二台にポジションを奪われた。1位を目指してくれ。』
キャプテンからの無線が飛んできた。
現状3位とのギャップは12秒と少しか…。
ちょっとやそっとのトラブルじゃあ縮まりようがない差ですね。
…この試合、ぼくがどう走るかにかかってるみたいです。
ねぇ、朔也くん。
お互いにあの時よりも速くなりましたよね。
あんなに仲良く話してた、ぼくたち三人の中で。
一番初めに有名になったのは、遼さんだった。
有名になればいいってもんじゃないと思うけれど、やはりそれは一つの指標としては間違いのないものだと思います。
取り残されたぼくたちは、どうやって付いていこうか。
二番目の切符を懸けた戦いが、今です。
これからどうする?
鈴鹿で戦って、その後は?
みんなでまた、ヨーロッパで走りましょうか。
そんな想像をするのも、楽しいですよね。
地区大会の決勝です。
西東京の高校ドライバー全員の憧れの舞台に、ぼくたちは立っています。
そして、それは全国区の憧れの舞台へと続く道でもあります。
「了解しました、キャプテン!」
朔也くん。
「必ず1位を奪い取ります…!」
次の周、行くよ。
ぼくはパチパチとパッシングをし、戦いが近いことを示す。
さあ、覚悟の準備を。
お互いに、だけどね。




