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レイズアップ・シンフォニー  作者: 紫電
始まりの夏
16/48

きゅうり

「星南が初戦で消えたか…。」


紅葉高校、ピット内。

15周コールドで初戦を突破した直後。

試合後の選手たちは片づけをしながら、手元の端末で好敵手の敗北を知った。


「去年の二年生以下は粒がそろってたし、今年は負けかねんと思っていたんだが…惜しいな。…玖利(ひさとし)、お前にも見せてやりたかったよ。夏の夜空に輝く、アンタレスってやつを。」


「大丈夫ですよ!晴れた日ならいつでも見られますので!」


「いや、そういうことじゃなくてね…。」


今日のレースで、紅葉高校の頭を張っていたのは彼だった。


(あずま)玖利。


若松と同じく鈴鹿の常連校である紅葉の、一年生エースということになる。

玖利は帰り支度を終えたチームメイトから一足遅れてピットを後にする。

扉からピットの外へ出ようとする、その瞬間。

立ち止まり、コースの方を向き直った。


「朔也くん、遼さん。」


正午を回り、気温がピークに達している。


「必ず、また会いに行きますからね!」











『西の紅葉がコールドゲームで初戦を突破した5分後、東の若松も15周コールドで二回戦を突破。今年もこの二校の鈴鹿決戦となるのでしょうか。』


端末からイヤホン、そして俺の耳へと音声が流れていく。

今日は良い走りができた。

若松のエースとして、しっかりと働けている実感がある。

結果だけ見ればコールドゲームだが、相手も一筋縄ではいかない者ばかりだ。


三回戦からは更に厳しい戦いになるだろう。

最強と呼ばれるこの学校の、全てを背負って行かねばなるまい。

さて、この後は朱莉のお見舞いに行って…。


なんか果物でも買って行くか。

梅雨も明けたし、そろそろ小粒のぶどうが出てくるころだ。

あいつぶどう好きだからな。


病院までの通り道にあったスーパーに、ふらっと入ってみる。

青果コーナーは入ってすぐのところにあった。

夏の色が出てきた果物類を物色していると、隣にある飲み物の棚に集まっている学生の集団が目についた。


あの校章は…紅葉高校か。


…ん?

あれ?

あの快活そうな特徴的茶髪は…。


そんな事ってあるのか?


まさか、こんなところで出くわすとは…。


「きゅうり!きゅうりくんじゃないか!」


なんの捻りもないあだ名で呼んだ俺の声に、玖利はいの一番に振り返る。


「あぁ、遼さん!いや、まさかこんなところで会うなんて!」


本人は笑顔でこちらに駆け寄ってくるが、後ろの紅葉高生が騒がしくなった。


「…星野遼…?」


「本物か?」


「きゅうりって言ったぞ…」


そんな仲間たちなど見向きもせず、玖利は無い尻尾をブンブン振って俺の顔を見上げている。


「きゅうりくん、こっち(日本)に来てたんだな。」


「せっかく高校生の大会があるなら、出ない択は無いと思って!遼さんや朔也くんとも戦いたいですし!」


相変わらず、目ぇキラッキラさせて話す子だなぁ。

話しててとても気分がいい。


「あー…ウチの玖利に用か?鈴鹿ぶりだな、星野」


「お久しぶりです、紅葉のキャプテンさん。いや、見かけたので声かけただけですよ」


いきなりこちらに飛び出してきた玖利を追いかけて、紅葉の集団がぞろぞろとついてきた。


「…きゅうりってナニ?玖利くん」


「ぼくのあだ名です!玖利を音読みにするときゅうりになるので!」


解説ありがとう、きゅうりくん。


「胡瓜好きだっけ?」


「胡瓜きらいです!」


「嫌いなんかい」


「でもあだ名は気に入ってますよ!かわいいので!」


「かわいいか…?」


いつの間にか紅葉の先輩の両腕にすっぽりと収まっている玖利。

可愛がられてるなぁ。

良かった。旧友が大事にされていて、俺も嬉しい。

ま、玖利はどこに行っても可愛がられるとは思うが。


「玖利、お前星野と面識あるのか?」


紅葉のキャプテンが玖利に問う。


「もちろんです!遼さんにはお世話になりました!」


屈託のない笑顔で言い放つ玖利。

こういうことを素直に言ってくれるの、ホント良いよな。


「俺と玖利は、ヨーロッパで一緒にレースやってたんですよ。」


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― 新着の感想 ―
新しい仲間?好敵手?が登場かな!(*'ω'*) 玖利くんは後輩タイプの素直で可愛い印象ですね。 ヨーロッパで一緒にレースをしてたくらいだから、きっと実力はすごいはず! これは対決が楽しみです(*´ω`…
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