表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

星南高校《紅き南の星であれ》

「あ、ぶちょーおかえりー。」


「抽選会の結果、どうなりました?」


「…。」


今日は予選大会の組み合わせ抽選会だった。

部長さんは帰ってくるなり、僕たちから目を逸らし始めた。


「ぶちょー?どうしたー?」


心なしか冷や汗をかいているようにも見える。

僕は、察しは悪くない方だ。

何が起きているのかは想像に難くないが、彰先輩はそうでないらしい。

部長さんの肩をゆさゆさと揺さぶる彰先輩。


「部のグループチャットに…トーナメント表送ったから…見てみて。」


手持ちの端末を指差しながら力なく答える部長さん。

その言葉通りにグループチャットを開いてみると…。


「うわッ!初戦の相手、星南(せいなん)じゃん…」


確かに、笹井の横には星南の文字が。

お二人の反応からするに、メチャクチャ強いのだろう。

でも、確か去年の鈴鹿には出てきてなかったような?


「去年の地区大会決勝、星南はたった1ポイントの差で鈴鹿行きを阻まれたんだよ。」


もうそれほとんど鈴鹿出場校じゃん。

いやはや、とんでもない学校が相手になったものだ。

でも。


「鈴鹿を目指すなら、いつかはどこかで当たる相手ですよね。」


僕のその言葉で、二人の目の色が変わった。

彰先輩は目を閉じて身体を伸ばし、部長さんは首を鳴らして回す。

やる気スイッチが、しっかりとONの状態で固定されている。


「良いこと言うね。」


部長さんも、今までの自信なさげなムーブメントはどこへやら。

戦う目をしていた。


「それでこそ、朔也クンだよねぇ。偉いぞっ」


彰先輩はポンポンと僕の頭を叩き、今まで作業していたマシンの方へと歩み寄っていく。

車窓に頭を突っ込み、何をするのかと思えば。


「模擬戦、しようよ♪」


エンジンがかかったマシンと、僕ら。

辺りに轟音が響いた。











「初戦の相手が決まった。笹井高校だ。」


「前大会ベスト8、油断できないですね。」


「当然、我々もベストメンバーで迎え撃つ。」


私たちは、決勝の地に忘れ物をしてきた。

たった1ポイント。


鈴鹿行きの切符を買うのに、1ポイントだけ所持金が足りなかった。

チャージされたICカードなんて持っているはずもなく。

泣く泣く出直すしかなかった。


私たちが乗るべき鈴鹿行きの電車は、年に一度しか運行しない。

今度こそ、乗り遅れることが無きよう。


この一年、万全の準備をしてきたつもりだ。

私たちの無念、先輩方の悲願。


その全てを乗せて、私たちはサーキットへ立つ。

この初戦は前哨戦ではない。


鈴鹿へと繋がる、確かな一歩である。








「西条朔也…。」


「お、相手さんの研究か?」


雑誌を開く私の肩越しに、後ろから話しかけてくる戦友。


「ああ。相手の予告出場選手に、一年生が居てな。」


鈴鹿の予選大会は、年度が始まってからすぐに開催される。

一年生が出てくるとなると、情報があまりにも少ないのだ。


「ふーん。例によって、人数が少ない笹井だ。特に気にする必要はないんじゃないか?」


普通に考えれば人数合わせ…。

だが、何か引っかかる。

この顔、どこかで見たことがあるような…。


「おいおい、若松がまたコールドで勝ってるぞ…東東京はもう決まりじゃないか?」


私の後ろで、端末を開いているであろう声が聞こえる。

去年の覇者は、また派手に暴れてくれているようだ。

私たちもそこに飛び込んで行かねばならない。


しかし、若松か…。

…待てよ?


私の古い記憶の中で、何かがリンクした。

その仲介を担ったのは、現時点での高校最強。

星野遼の存在だった。


10年に及ぶ星野遼のモータースポーツキャリアの中で、たった一度の黒星が存在する。

それは彼が遊びで参加した、ただの体験教室だった。


同世代の、この辺りでクルマを転がしている連中は、大抵その体験教室に参加していた。

あの二人のバトルは、私の脳内にも焼き付いている。


そうか…。


あの時、星野遼をオーバーテイクしたのが。

最強に、後塵を拝させた唯一の男が。


「西条朔也…か。」


覚えておいて良かったよ。

理論上で言えば、星野遼に勝ちうる唯一のドライバーと、こんなに早く戦えるなんて。


「まずは初戦、勝つぞ。」


「あたりめーだろ?」


相手にとって不足はない。


「私たちは夏の空、南に輝くアンタレスだ。」


一等星の輝きをかき消すのは、そう簡単な仕事ではないぞ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ