第7話 朝食への招待
結局敵がその夜、また襲って来なかったのは眠れてすっきりした事から分かった。起きて最初に目に入ったのは最初に納屋であった黒髪の壮年の女だった。
「わたし、ブリジット、ヒルダの母、よろしく」
たどたどしく自分の世界《古ノルド語》の言葉で挨拶してきたブリジットにフロールヴも言葉を返した。
「おはよう、ブリジット殿。結局敵が来なかった様で何よりだ。ところで朝飯は?腹が減っているんだが?」
「まずこれ、読んで」
何かの教育本の様だった。この世界の言語を覚えろという事だろう。パラパラとページをめくると絵に文字が書かれてあった。文字はルーン文字やラテン文字とも微妙に似ていて覚えるのは難しくなさそうだとフロールヴは思った。
「これ着て、朝ごはん、あの家の中に用意してある」
本とは別に古びた赤いチュニックを手渡してブリジットはあの大きな家へと走って行った。
渡された赤いチュニックをじぃっと見つめたフロールヴは独り言をぼそっと呟く。
「上半身裸のままだとこの農場の主に挨拶出来ないもんな」
長袖の赤いチュニックを着ながら辺りを見渡すと納屋の方に既に味方と敵の死体とで区別の作業がついていたようだ。味方の死体は丁重に顔に布をかけられて安置されていたが、敵の死体は適当に集められその死体から鎧や武器が漁られ山の様に無造作に積まれていた。長い金髪の髪を適当な糸で急いでトップノットにするとフロールヴはその山から片刃の短刀と戦に使うための戦斧を取り出し自分のものとした。
「悪いな。この武器が俺に合うんだ。」
申し訳なさそうに敵の死体の一人に独り言をいうとフロールヴは農場の主の家へと歩んだ。
家の真ん中のダイニングには4人用の四角いテーブルと4つの椅子があり、入口側の席にヒルダとフロールヴが横並びに腰掛けていた。そのテーブルの周りのダイニングの隅に既に手あてを受けた兵士達数名が地べたに座り込んで置かれていた食事を見つめていた。
黒パン、塩漬け肉のスライス、豆と野菜を煮込んだスープは客人をもてなすには豪華とは言えなかったが昨日の戦いで消耗した体力を回復するには十分な食事だった。
「昨日と違って髪型を変えたのね?サイドを剃ってトップだけ長めにするとそんなヘンテコな髪型になるのかしら。」
「うるさいな。俺は格好いいと思っているの。」
着席早々ヒルダとフロールヴが異世界人には理解しがたい古ノルド語で喋る始めるので目の前に座っていたケビンが咳払いをして二人の注目を集めた。
おはようフロールヴ。朝メシです。
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