謎の敵の撤退
「くそ!撤退だ!態勢を立て直す!」
敵部隊の副官と思わしき馬上の男が周りに叫ぶとまず騎兵達が馬でいそいで農場から逃げようとし、その後を重い甲冑のままのろのろと歩兵達があとを追っていった。
逃げようとする敵を追撃すればさらに敵に被害を与えられる。だがそのための味方が足りなかった。すでに10人が地面に死体として横たわっており、残った数人の味方も地べたに座り込んで疲れ果てている様で屋根に陣取っていた弓兵も矢を撃ち尽くしている様に見えた。
「とりあえず戦いは終わりか。」
気がつくとフロールヴは倒した敵の返り血で顔が真っ赤だった。とりあえず腕でそれをふき取ると地面に横たわっていた農場の主と思われる男に近づいた。とりあえず生きてはいた。
「あんた、ここの主か。深い傷はないな?」
古ノルド語で話しかけても異世界人のケビンにはさっぱりだった。ただケビンにはそれが義理の娘のヒルダが儀式で使う妙な言葉だという事は分かった。
フロールヴは起きようとするケビンに手を差し伸べ、立つのを手伝った。農場の主の安堵した表情に自分が味方という事が分かった様で何よりだとフロールヴは思った。
戦いが終わったと分かると納屋からヒルダと黒髪の女が農場の主の所に向かい互いに抱き合った。言葉は分からないが涙を流しあっていた所を見るとお互いに安否が確認できて安堵しているのだろうとフロールヴは悟った。ふとこちらを見ているヒルダの顔がやや赤い事に気づいたが、あれだけの戦いに動揺しているのだろうとフロールヴは考えた。
自分を転生させたヒルダとその味方が何者かは分からない。さっきまで戦っていた敵もどこから来たのかも分からない。そもそもここがどこかも分からない。
フロールヴは抱き合っていた3人に近づいた。自分に気づいて見ている3人の顔が困惑の表情で溢れているのが見て分かる。
「おいヒルダ、まだ夜だし俺は疲れをとりたいから一旦寝る。また敵が来たら起こしてくれ」
それだけ彼女に言いつつフロールヴは近くの干し草の山へと行きその柔らかい山に身を任せて目をつむった。目を閉じながらこれまでの事を考えた。これまで行った来た国々、これまで仕えてきた王達の事。一度死んだ自分はもうそこには戻れないと悟り深い眠りへとついていった。
戦闘はひとまず終了。
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