第3話 謎の敵の襲撃
黒髪の女から出された男用の下着、ズボンと靴を急いで履きながら納屋のガラス窓越しに外をヒルダ達と共に見る。
フロールヴの予想通り、辺りは夜だった。目の前には開けた土地の周りに用意された木の柵、家畜小屋と隣接している豪農が住みそうな煙突のついた大きな家、馬小屋、その家の周りには既に刈り入れを終えた小麦やら野菜やらの耕作地が見えた。ここは富農の農場か何かだろう。
よくみると大きな家を守るように屋根には弓矢で武装した男達が、家の入口には槍や斧で武装した男達が集まっていた。その中心には防具と鞘に収められた剣を身にまとった30代くらいの角刈り頭で髭を剃った顔の四角い頑健そうな男が男達に何か大声でいうと槍と斧で武装した男達は一目散に一方向に向かっていった。
「あの人たちがあんたの味方よ」
ヒルダがフロールヴに古ノルド語で囁く。
「どいつもこいつも心もとないな。で、お前の敵は?」
武装していた男達が向かっていた柵から突如馬が何頭も飛び越えて来た。それぞれの馬には男達がまたがっており、ほぼ全員が鎧と兜をまとっていた。騎馬隊に続いてぞろぞろと武装した男達が次々と農場の柵を跨って行こうとする。跨ろうとする者の中には既に味方とやらの弓矢に当たって叫び声を上げる者も何人かいたが多くは農場の中へと侵入してきた。
「あれがアタシの敵。」
ヒルダが忌々しく呪った。
10騎程の騎兵と30名ほどで構成された敵の集団が10数人程しかいない味方の歩兵集団に向かって突進していった。
「やばいぞ、あれ。やられちまう!」
突進してきた敵騎兵は勢いよく歩兵に細い槍で味方歩兵を突き刺している。馬上の敵を突き刺す手練れといえる者も何人かいたがほとんどの歩兵は怯えて動けなくなったり、騎兵に突き刺されたりしていた。家の上から弓兵が矢で敵の歩兵に当てる事が出来たが馬で素早く移動する騎兵には中々当たらない. このままでは味方の集団が負けそうだった。
「フロールヴ、敵を倒しなさい」
「俺を転生させた理由はこれか。つまりタダ働きの傭兵って事か。最悪だな。」
ヒルダの命令にフロールヴは悪態を吐くが、不思議と顔は高揚感で笑みを浮かべていたのがガラスの反射で分かった。
すでに何かの魔法によって本人の意思に反してもヒルダの命令にとりあえず従うしかなかった。
「ちっ、加勢してやるよ。で、武器はあるのか。まさかその女の短剣だけじゃないよな?」
「武器なら一応用意してあるわ」
ヒルダが指さした先は納屋の扉の近くにおかれていた薪を割るための両手斧と藁を集める時に使う鍬だった。どちらも戦う為に作られておらず明らかに作業用なのは見て分かった。
「ないよりましか。おいヒルダ、俺をここへ転生させた事、後悔はさせないぜ。」
短剣を地面から拾った後、納屋の扉まで急いだフロールヴは両手斧の方を選んで扉を開け、外の戦場へと急行した。
次回いよいよ戦闘回です。評価のほど、よろしくお願いします。