召喚者ヒルダ
魔法円の中で裸で突っ立っていたフロールヴの目の前で短髪の黒髪の女が長髪のオレンジ髪の少女をヒルダ、ヒルダと少女の名前らしき言葉を連呼しながら自分には分からない言語を話しつつ、地べたで横になりそうな彼女を後ろから支え彼女を介抱していていた。
オレンジ髪のヒルダと呼ばれた少女は汗を流しつつ彼女に優しそうに返答しているように見えた。ヒルダの言葉もフロールヴにはさっぱりだ。ヒルダの右手の金の指輪は黄金の輝きを徐々に失い、自分を呼び寄せた儀式か何かが終わったのだろうと彼は考えた。
フロールヴはゆっくりとヒルダに近づく。裸足というか真っ裸だが納屋が綺麗に掃除されていた為か小石一つなく痛みを感じない。フロールヴに気づいた黒髪の女はヒルダを介抱しつつ大声で彼に何かを叫びつづけた。止まれ、とでも言いたいのだろうと彼は理解していたが分からないふりをしてどんどん近づいていき目と鼻の先まで近づくとフロールヴは荒々しくヒルダの服の襟を両手でつかみ上げ黒髪の女からヒルダを奪った。
ヒルダの体重は軽くはなかったが無理やり立たせるには十分だった。掴んでいた手は困惑と怒りでいっぱいだった。その感情がさらに腕に力としてこもり、小さいヒルダの体を宙に浮かせていた。デーンの言葉《古ノルド語》でフロールヴはヒルダに問うた。
「名はヒルダといったな?俺の言葉が少しは分かるだろ?俺の質問に答えろ!」
叫び声が聞こえた。ヒルダの後ろで黒髪の女が短剣を両手で持ちながら自分に向けているのがフロールヴには見えた。先ほどの叫び声は威嚇のつもりなのだろう。寝巻姿の彼女が震えながら必死にナイフを構えようとする仕草はフロールヴには滑稽にしか見えなかった。武器の構え方がまるでなっていないし第一彼女からは殺意をまるで感じられなかった。むしろ恐怖心が丸出しの彼女の目は常にヒルダの方向に向かっていた。彼女が殺されるかもしれないと考えているかもしれない。
「ヒルダ、何故俺を蘇らせた?戦士をヴァルホルへ行かせないとは俺を愚弄する気か?」
「く!わ・・・アタシを・・・離して!」
デーンの言葉《古ノルド語》でヒルダは弱弱しく呟いた。その言葉がフロールヴの脳に響く。それは命令にも聞こえた。どういう訳かフロールヴはヒルダのいう事を聞くしかなかった。言われた通りにフロールヴは掴んでいたヒルダの襟を離して下ろすが嫌がらせの様に後ろに突き放した。「丁寧に下ろせ」とは言われなかったからだ。黒髪の女が短剣を捨てて慌ててヒルダを支える。
「離してやったぞ、小娘」
「フフ・・・やっぱり術は効いている。」
支えられつつヒルダはまた悪戯っ子の様な笑みをフロールヴに見せていた。その笑みが彼をいら立たせていた。
自分の意思も関係なく異世界に転生させられた上に何か服従の呪文すらかけられていたようなのだ。屈辱だ。この世界の人間はこういう風に他世界の人間を使役するつもりなのだろうか。自分の世界では奴隷すらまだ自由と権利がある。
フロールヴがそう考えているとヒルダが笑みを浮かべたまま拙いデーンの言葉《古ノルド語》で口を開いた。
「アタシはヒルダ、この世界にお前を転生させた者。この術であんたを使役する」
「ふざけるな!俺はお前に仕える事に同意してない!奴隷商人の様に無理やりこの世界に連れてきやがって、何様のつもりだ!俺は・・・」
フロールヴがそう言いかけると納屋の外から女の叫び声が聞こえた。
ヒルダとは何者か?彼女の目的とは?
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