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【第5章】藍の迷宮と羊の夢_014

「アハハッ!久々のリアルな身体、すっごく楽しい!」


 一般的な家屋の二階ほどの高さがある『藍色』の波と一体化し、サマエラは大通りを逃げ惑う弱者を追いかける。

 ある瞬間は高速で流れ下る濁流のように、またある瞬間は瓶の口から垂れる蜂蜜のように。

 必死に走る背中にギリギリのところで追いつかないように速度を調節しながら、少女の姿をした魔性はその悲鳴に耳を傾けていた。


「いいね、いいね!もっと頑張って走りなよ、おじさん!」

「ひぃ、ひぃっ!!」


 どこかの店の主だろうか。

 贅肉で膨れた身体から汗を飛び散らせながら、体重に押しつぶされそうな膝に鞭を打って必死に走るその背中は滑稽を通り過ぎて気持ち悪くすらある。


 だが彼からはだくだくと溢れてくるのだ。

 金銭欲、名誉欲、性欲……そして生存欲をぐちゃぐちゃにかき混ぜて生温かく泡立った『夢』のカクテルが。


「ああ、すごく気持ちいい!『夢』がどんどん流れ込んでくる!」


 男の『夢』を啜り上げたサマエラは満ち足りた恍惚の表情を浮かべ、それでもなおその口からは貪欲に『藍色』の(よだれ)がこぼれる。


 まだだ、獲物はまだ殺さない。

 サマエラは移動スピードをかなり落として、男の背中を追いかけ続ける。

 絶望して、何の『夢』も出てこなくなるギリギリまで搾り取る。


「アハハハハッ!おじさんみたいなザコオスからでもこんなに『夢』が出てくるなんて、やっぱり『精霊界』は楽しいね!『完食』する日が待ちきれない!」


 今まで指輪に封じ込められていた魔性の野望は、逃げ惑う人々の『夢』を吸い上げて次第に肥大化していた。


 リリス(おかあさん)の『指輪』としての役割は、溜めこんだ『夢』を使ってさらに多くの分身を生み出すこと。

 けれど、これだけの『夢』をもし、リリスではなく自分のために使えたら……?

 

 逃げる男とわざと離した距離を、サマエラは興奮のままに詰め始めた。


「ボクはつくづくラッキーだ!」


 魔性は強大な『藍色』の力を弄びながら、最高の将来を『夢』見て笑みを浮かべる。


「この便利な身体で『精霊界』中の『夢』を食べまくって、最終的には『魔界』も全部食っ!?」


 だがサマエラの妄想は、がくり、と落下する感覚によって中断されてしまった。

 大通りを抜けて広場に出る瞬間、『藍色』の波が何か大きなものにぶつかって『消波』されてしまったらしい。

 さながら、港町に築かれた堤防に砕ける海のような形で。

 おかげで波の高さが一気に削られ、そのせいで上に乗っていた彼女の位置も下がったのだ。


「チッ……あんま前を見てなかったからな。でも一体何にぶつかったんだろ?」


 男を取り逃がしてしまったようだったが、魔性はからりと切り替えて自らが流れてきた背後を振り返る。

 見れば、広場からいくつも伸びた大通り、その接続口を塞ぎ切ってしまう形で緑色の触手のようなものが高い壁を作っている。

 そして軽く見渡すと、すべての通りが同様の触手で塞がれていた。


「広場を塞ぐバリケード……てことは」

「そうだ。流石に無理かと思ったが、そっちが途中からちんたらしててくれたから間に合った」


 サマエラは声のする方向を見下ろす。

 立っているのは、異形の角を持つ『悪魔』。

 その姿をひと通り眺めまわし、サマエラは借り物の顔で邪悪な笑みを浮かべる。


「てめえをこれ以上野放しにする気はない。ファレニアはここで返してもらうぞ」

「アハハ、こわーい。お兄ちゃん、見ないうちにだいぶ吹っ切れたんだね。いまの方が断然カッコいいんじゃない?」

「てめえの評価なんか要らねえよ、指輪野郎」


 乱暴な口調で言い返しつつ、ローラッドは傍らに立つ女に「おい」と声をかける。


「イバラはひとまず大丈夫だ、ありがとう。ここは危険になるから離れて、さっき言った通りに動け。分かったな?」

「ははははははいっ❤おおおお仰せのままに、デーモンロード様❤ああなんてお優しいのでも自分のようなブタはもっと罵っていただいてもいいというかその方がいいというか❤」

「だからさっさと動けって!死にたいのか!?」

「あひぃんただいまやりますやらせていただきますぅ❤」


 ようやく駆けていった女の背を見送り、ローラッドはため息を吐く。

 同時に、魔性はケタケタと嗤った。


「すごい人だね、頭の中ぜんぶ煩悩で出来てるのってくらいの『夢』の量だった。あんなのに頼って、お兄ちゃんはどうするつもりなの?」

「てめえをその身体から追い出す」

「どうやって?言ってるだけで何もしないんじゃ、そこらのザコオスと一緒だよ?」

「どうやってだと?」


 少女の身体を操る魔性は余裕の態度を隠さず、露骨に挑発する。

 それを分かったうえで、淫魔の血を引く少年は六枚の翼を広げ、地面を蹴った。


「今からぶちのめす相手に、手の内なんか明かすわけないだろうが!!」


 ローラッドは混沌とした怒りの爆発に任せ、吠える。

 対する魔性はさらにケタケタと嘲笑(あざけわら)った。


「その『手の内』が真っすぐ向かってくること?お兄ちゃんはホントにバカだね!!!」


 少女の形をした魔性から、借り物の『藍色』が溢れ出す。

 そして飛行する『悪魔』を呑み込むべく、腐食毒の大波が荒れ狂った。

読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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