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【第5章】藍の迷宮と羊の夢_013

「今のサマエラを止めるとしたら方法は2つ……ファレニアの身体ごと気絶させるか、『夢幻夜行』でサマエラから主導権を奪い返すか」


 ローラッドは背中に翼を展開し、強化した脚力と合わせて街を駆け抜けていた。

 塀や家屋があっても関係なく、軽々しく飛び越え、蹴り、飛び降りる。


 もちろんただやりたくて困難な道(パルクール)を駆けているわけではない。

 彼が並走する大通りの方からは、悲鳴と破壊音が絶えず聞こえていた。


「クソッ!サマエラの移動スピードが速すぎる!」

「それでさご主人、結局その方法とやらはどっちにするんだ?」


 屋根から屋根へと飛び移る羊角の少年の影からブラッディが問う。


「あの指輪野郎が乗っ取った女は、身体だけ見ればかなり貧弱だ。隙をついてぶん殴ればたぶん普通に意識を飛ばせるぜ」

「……いや、俺たちが目指すのは後者の方法だ」

「オイオイ、指輪野郎は仮にもリリスの眷族だ。ゴーレムの時の比じゃないくらい『夢』を見せるのは困難だ。『手段』は選ばないんじゃないのか?」


 からかうようにケケッ、と笑う使い魔。

 今日の半日放っておかれた腹いせなのか、主人が苦悩しながら回答するのを期待しているのだ。


「『手段』は選ばない、だからこそだ」


 それをわかっていて、ローラッドは使い魔の問いへ真摯に応える。


「ファレニアはすでに俺たちの大事な『手段』だ。あいつを懐柔しない限り、マリュース・アダミスキーが俺たちに協力する望みは薄い。それをこんな形で掻っ攫われてたまるか」

「そういうことにしておこうか、『ご主人サマ』。直接殴らなかったからって、ご主人があの女が抱える苦しみに加担した罪悪感は消えなさそうだけど」

「わかってるよ……」


 少年は悔恨を噛み締め、奥歯がギリ、と鳴った。

 使い魔は「冗談だって」とテキトーにフォローしつつ、影から顔を出してファレニアが突き進む通りの方へ耳を向ける。


「でもまあ実際問題、あの状態のファレニアにぶん殴れるほどの隙は無さそうだしな。文字通り致死性の濁流に直接突っ込むようなもんだ。だからどのみち、隙を作るどころか根本的に進行を止める必要がある。ご主人、そっちの方法はどうするんだよ」

「それなんだが、俺にひとつ心当たりがある」

「ほう」


 偉そうに相槌を打つ使い魔に、ローラッドは進行方向を指さす。


「だけどファレニアがあそこにある広場に到達する前に準備しないと意味がないんだ。このままじゃ間に合わない」

「あーはいはい、だから力を貸せってことね?」


 桃色のコウモリは肩の上から少年の顔をニヤニヤ笑いながら眺める。


「でもいいのか?割と言い逃れできなくなる感じになっちまうと思うけど」

「これだけデカい騒ぎになった以上、もう今更だ。協力してくれ」

「はいはい」


 答えの分かりきっている問いに欲しかった返答を貰った使い魔は呆れたように言いつつ、影から這い出てその桃色コウモリの身体を主人の肩の上に横たえた。

 ローラッドはそれを掴み、獣の瞳でその目を覗き込む。


「やるぞ」

「いつでもこい」


 見つめ返す桃色の瞳が閉じる前に、ローラッドはすぅ、と息を吸いこんだ。


「『生気簒奪(マナドレイン)』!」


 淫魔の十八番であり、少年が最も嫌いな遺伝(ちから)のひとつでもある『生証簒奪(ライフドレイン)』。

 対象となった者の生命力だけでなく、使用者がそれに足る力を持っていた場合、記憶や経験といった、()()()()()()()()()をも奪ってしまえる魔の力。


 ローラッドが使用したのは、威力を抑えたその()()()()版だ。


 唱えた直後、様々な変化があった。

 ローラッドの右手に握られていた桃色コウモリの使い魔は色褪せ、縮み、ゆっくりと目を閉じて主人の影へと溶けるように消える。


 それを見届けた獣の瞳が、桃色の月(ブラッディムーン)のように輝いた。

 一時的に借り受けたブラッディの生命力が、ローラッドの姿を変えていく。


 少年の背中にあったコウモリの翼はさらに禍々しく変貌し、その数は3対6枚。

 隠していた尾が露出し、鋭く、そして妖しく揺れる。

 こめかみの角はさらに肥大化し、さらに捻くれて硬質化した。


 その見てくれはまさに、言い訳のしようもなく、『悪魔』。


「……やっぱこれじゃ、『精霊界(こっち)』の世界に溶け込むなんざ到底無理だよな」


 諦めたように呟くと、ローラッドは翼を広げ、音もなく高速で飛行する。

 ついさっきまで並走していた『悲鳴』をあっという間に抜き去り、目論見通り、『藍色』の波が到達よりも前に広場へと着地する。


「さてと、あいつがまだいるといいんだけど」

「なっ、ななななななんですかあなたたちはっ!?」

「っ!」


 ローラッドは悲鳴がした方を見る。


「こここっ、この店はじじ自分の大切なシェルターなんですあなたたちのような野蛮人を入れるような隙間はないんですこれ以上近づくならこの『触手ちゃん』たちで……」

「うるせえ!つべこべ言わず俺たちを中に」


 ローラッドは軽く飛んでそのまま、激しく動揺する女を囲んでいた男たちの背後に着地した。


「どけお前ら。俺は急いでるんだ」

「なっ、がっ!?」


 悪魔の手が触れると、男たちはすぐさま立っていられなくなり、その場に崩れ落ちた。

 そして、動揺していた女は現れた影を見つめ、ぽつりと呟く。


「で、デーモンロード……様……ほんもの……の?」

「何でもいいだろ。あんたの力を借せ、時間がない」

「ぶはっ」

「おい倒れるな!時間がないって言ってんだろ!?」

読んでいただきありがとうございます!

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