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【第5章】藍の迷宮と羊の夢_010

「ここだよ」


 店を出たローラッドがファレニアに案内されたのは、やや小ぶりだが人でにぎわう『精霊聖教』の教会だ。


 ここら一帯でいちばんデカくて立派な教会は『学園』にあるが、こちらの教会は『学舎通り(ビヤスト)』に設置されているのもあって何かと現代(いま)風だ。

 伝統的な建築様式にこだわる『学園』の教会に対し、こちらは全体的なサイズこそ小さいものの、装飾などはさりげなく流行を取り入れており、季節ごとに飾り付けが変わったりする。

 さらに教会敷地内にすら『精霊聖教』の組合をはじめとする売店が出ており、軽食や礼拝の際に使える道具が売られている。


 それらも装丁が現代風になった『精霊書』に代表されるように色々アレンジされていたりして、要するに、何かとガチっぽくない、カジュアルな教会なのだった。


「なんかジタリーが好きそうな感じだな……」

「なにか言った?」

「いや、なんでも」


 ローラッドはそこいらではしゃぐ女子学生たちにケンタウロスの女リーダーのような雰囲気を感じつつ、開け放たれた扉からファレニアに続いて教会の中へと入る。


「うわお」


 そして、入った直後に思わず声が漏れた。


 礼拝堂の奥の方、ステンドグラスの下で向き合うドレスの男女、その横に立って何かを読み上げている牧師に、脇で音楽を奏でる演奏家、そして参列している老若男女。

 そう、(おそらく)結婚式の真っ最中だったのだ。


「『祝福』は右のほうだったはず」

「おいちょっと待てファレニア。俺たちが入って良かったのか?」

「なにが?」

「いやあそこでやってんの結婚式……だよな?雰囲気から察するに。俺ら思いっきり部外者だけども」

「ほかのみんなも出入りしてるじゃん。ビヤストの教会はいつもこんなかんじだよ。はいってきてほしくなかったらそう言ってるんじゃないかな」

「そ、そうなのか……」


 ローラッドが仕入れていた『精霊界』の知識では、結婚式というのはもっとこう、厳かにというか、真剣に催されるものだという話だったが。

 自分の知識が間違っているのか、それとも『学舎通り』流なのか……羊角の少年には判断しかねたが、とりあえずファレニアの用事をさっさと済ませるべくそれ以上の追及は辞めておくことにした。


「こんにちは、本日はよく晴れていて気持ちがよいですね。本日はどのようなご用件で?」

「もちものを『祝福』してもらいにきた。プレゼントするから」


 通路を進むと扉があり、受付らしき女性が立っていた。

 ファレニアとにこやかにやり取りする彼女は、言動と恰好からするに『精霊聖教』の修道女。

 だが、化粧の華やかな感じなど、『学園』内で見かけるのとはやはり違っている。


「まあ!すてきですね、あなたとあなたの大切な人に幸多からんことを……そちらの方はおつっ、お連れ様、ですか?」


 胸の前で手を組み藍色の少女のために軽く祈った修道女は、少女の後ろにいる羊角の少年を見て少しだけ顔をひきつらせた。


(まあ視線は感じていたが……)


 さすがに教会の中ともなると、ローラッドの角はかなり目立った。

 流行り廃りの激しいビヤストと言えど、『精霊聖教』に描かれる『悪魔』そのものの角など好んでつけている者は少ないらしい。

 ローラッドは、特に修道女の皆様から疑問に満ちた視線を頂いていた。


「こいつはわたしのにもつもち。だからいっしょに入るよ」

「そ、そうでしたか。では、この札をどうぞ。順番になっていますので」


 ファレニアの言葉にハッと気が付き、修道女は木でできた番号札を少女に渡した。


「よし。はいるよ、にもつもち」

「どうも……」

「……」


 ファレニアに続いて部屋へ入る際、ローラッドは軽く頭を下げて修道女に挨拶した。

 が、やはり悪印象はぬぐえなかったようで、ローラッドは『祝福』の順序を待つ客たちでいっぱいの待合室に入ってからもしばらく、自らの頭部に注がれる視線を感じていた。


 待合室は『祝福』を授ける修道女たちがいる半個室のブースが4つに、その前に並べられた長椅子で構成されている。

 さらに番号を読み上げる係が居て、ブース内で目当ての『祝福』が終わった客はブース奥から外に出て、空きが出たブースに読み上げられた番号札を持っている客が入る仕組みだ。

 ルール化・効率化が徹底しているその様は想像していた宗教施設とは全く異なっており、正直ローラッドは四方から視線を注がれるよりも面食らっていた。


「わたしたちが呼ばれるのはわりとすぐかも……どうしたの?なんかボーっとしてるけど」

「いや、まあなんていうのかな……」


 長椅子に座り、隣にいる自分の顔を心配そうに覗き込むファレニアに、ローラッドは何とか返答を絞り出す。


「もうちょっとこう、結婚式もそうだけど、『精霊聖教』ってなんかもっと、ロマンチックなものかと思っていたから……」

「にもつもちはあんまり『精霊』のおしえがない地域のひと?『根源資質』もなんか『悪魔』っぽいもんね」

「……まあ、うん」


 ファレニアはどうやら少年の角や目を出身地の地域性によるものだと納得したようだった。

 間違ってはいないが、その純粋さを利用して欺いているようでローラッドはちょびっとだけ心が痛かった。


「『精霊』のおしえはここらへんだとみんな知ってるよ。あんまり守ってないけど」

「あんまり守ってないんだ?」

「にもつもちもショックをうけていたでしょ。おしえのない地域から来た人が思っているより、『精霊聖教』はテキトーに信じられているんだよ」


 あにさまだっておとぎ話だと思っているくらいだし、と小声でつぶやきつつ、ファレニアは続ける。


「わたしはもっとみんな『精霊』のおしえを聞いた方がいいって思うけどね。でもまあ、まったく信じてないよりかはマシなのかなってかんじ。じょうしきとかそういうのは、『精霊』のおしえが由来のものがおおいよ」

「道徳とか社会規範とか、そういうのの元ネタになってんのか」

「らんぼうに言うとそんなかんじ」


 何でもない風に言う少女だったが、ローラッドから見てファレニアはやや不満そうだった。


(あの話を聞く限り、ファレニアの元の家は結構熱心な信者だったみたいだしなぁ……)


 人は現在暮らしている環境より、その出自に縛られるものだ。

 ローラッド自身が痛感しているように。


「番号121番の方~?」

「あ、呼ばれたよ!」


 と、ローラッドの思考はサッと立ち上がった少女の嬉しそうな声で中断された。

 羊角の少年が椅子から立ち上がる頃には、少女はもう係のところまで行っている。


(さっきまであんなに泣いてたのに元気なやつだな……)


 あきれ半分でローラッドがその後を追うと、少女は振り向き、目を輝かせて言った。


「結婚式がもうおわるから、その『祝福』を分けてもらえるんだって!にもつもち、これはものすごくラッキーだよ!」

「あ、そうなの……?」


 よくわからないが、興奮するファレニアの主張にとりあえず頷いておくローラッド。

 係の案内に従ってブースを通り抜けるとずらりと人が並び、礼拝堂を出る花嫁・花婿両名が通るための道ができていた。


「ここをあのひとたちが通るときに、『祝福』を分けてもらえるんだよ!」

「へ、へぇ~?」


 何やらよくわからないまま頷くローラッドは気づかない。

 右手の薬指で、紅い瞳がカタカタと震えていることに。

読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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