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【第5章】藍の迷宮と羊の夢_005

「しちゃくの時間だよ、にもつもち」


 彼の反応が鈍かったからか押し黙ってしまった店員との間に漂う気まずい空気に羊角の少年が耐えられなくなってきたころ、両手に大量の服を抱えたファレニアがふらふらと歩きながら戻ってきた。


「あっ、じ、じじ自分の方でいったんもっ、持ちます!」

「よろしく」


 藍色の少女は抱えていた服の山を店員にドカッと渡しつつ、ふむ、と呟いてローラッドの全身を眺めた。


「やっぱりあにさまよりはちいさいけど、たいかくはわりと男みたいな感じだな」

「男だからな」

「あとつのが邪魔かも」

「邪魔って言われても、俺だってできれば取りたいくらいだが生えてるものはしょうがな」

「いいいいいいえっ!すて、すてきですよそのつっ、角!」


 何かと文句を言うファレニアを食ってしまう勢いで、それまで大人しくしていた店員が興奮気味に喋り出す。


「まるでおと、おとぎ話に語られるデーモンロードみた、みたいで、か、か、かっこいいですよ!じじ、自分がここに用意している服は実は半分趣味みたいなもので、悪魔が現実に着るならどんなのかなーっておおお思って各地から取り寄せていて、あなたみたいな悪魔っぽい人がつけたらすごく似合う気がしているんですよね、『魔界』から転生してきた堕天使……いや堕悪魔?悪魔が現実に『堕ちる』って興奮しませんかしませんかもですねえへへ」

「ファレニア助けてくれ。こいつは何が言いたいんだ」

「にもつもちが『悪魔』っぽいってことだけはわかったよ」


 ふん、と鼻から息を吐き少女は店員の方へ向き直る。


「なんでもいいけど、ひまならしちゃくをてつだって。そこの服を男ににんきのくみあわせにしてよ」

「もも、ももっちろんやらせて、い、い、いただきますとも!さあさ、こちらへ……!」


 えへえへと気味悪く笑いながら店員がカーテンで仕切られたブースに手招きしている。

 嫌な予感しかしないが、これも『策』のため、とローラッドは意を決してその中へと入る。


 カーテンが閉められ、四角形に小さく区切られた空間に佇んでいるとカーテンの外からにゅっ、と服を何着か掴んだ細腕が中に飛び込んできた。


「まま、まずはこれでお試しを……!」

「はいはい」


 何故かプルプル震えている店員の腕から服を受け取り、ローラッドは着ていた制服を脱ぎ始めた。


「きき、着替えは絶対にのぞ、覗かないのでごごご安心をっ」

「わざわざ言われると逆に不安になるんだが?」

「そ、そそそうですよねすみません自分はいつも空気の読めないことばかり言ってしまって……」


 最初は言葉に詰まり、少しすると洪水のように言葉を浴びせてくる独特の喋り方にも慣れてきたかとローラッドは思っていたが、服を脱ぎ始めたからなのかより一層キモい感じがする。

 最悪なことに、『指輪』もカタカタ震えていた。


(いったいなんの『夢』があるってんだよ俺の着替えに……)


 深くは考えないようにしつつ、ローラッドは渡された衣服をすべて着用した。

 留め紐のない服で最初は混乱したが、要はすっぽりと頭からかぶってしまえばいいらしかった。

 ローブにも思えるが腰あたりの丈の服と丈の長めなズボンはどちらもオーバーサイズで、なんというかだるめのシルエットが出来上がっているように思える。


(確かにマリュースはこんなんだったよな)


 と思いつつ、品評してもらおうかとローラッドは試着ブースのカーテンを開けた。


「んー、まあまあいいかんじね」

「ぶはっ」


 反応は2つに分かれた。

 細かく見定めるように上へ下へと視線を走らせるファレニアと、なぜか後ろ向きにぶっ倒れた店員。


 いつもなら店員の体調を心配するところだが、彼(ないし彼女)はローラッドの中ですでに『変人』に分類されてしまっている。

 どうせロクな理由ではない、と思いつつ眺めていると、店員はカクカク震えながら起き上がり、


「解釈一致すぎる……デーモンロード様が現世に降臨為されたかと思った……」


 などとのたまった。


(ご主人、いま翼と尻尾出したら多分コイツ死ぬぞ)

(死なれたら困るからお前も出てくるなよブラッディ)


 小声で使い魔に釘を刺しつつ、羊角の少年は「それでどうだ、この服をプレゼントすんの?」とファレニアに問うてみる。


「うーん、まだほかのも見たいかな」

「ぜぜぜっぜひっ!ほかにも、あ、あ、あれとかこれとか、いっぱいあります似合いそうなの!」

「あなた、いっとくけどこのにもつもちに合う服じゃないからね探してるのは。あにさまの服だからね」

「ぞぞぞ、ぞ、存じております!う、うひょ……存在自体が暴虐であり陽キャの権化マリュースさんの服を選べるだなんて光栄だなぁ嬉しいなぁえへへへへへ」


 その後、多分まともな状態ではなくなってしまっている店員と、なかなか納得しないファレニアによって着せ替え回数は10回にも及んだ。


 そして、だんだん面倒になってきたローラッドがそれに辛抱強く付き合い続けた11回目。


「なあ、あんたはどうしてこんな店を?表のイバラもそうだが、なんかあんた自身とあんまり合ってない気もするんだが」


 暇が極まった結果、めんどくさいはずの店員に自ら話しかけていた。

 突然のことに、店員がビクゥ!と身体を震わせたのがカーテンの内側からでも分かる


「デーモンロード様からお言葉を頂けるなんて……!」

「認知機能が壊れてるぞ」

「ごご、ごめんなさい、えへへ……じじ、じぶんは元々、陽キャとか悪魔とかそういう怖いものにあこがれがありましてですね」

「そこ同じカテゴリなのか……」

「だから、こ、こ、こわい人たちが着る服を売ってれば合法的に会えるかなと」

「陽キャに会うのは特に違法じゃないんじゃないか?」

「あ、あとイバラは自分の『根源資質』で、植物が動くようになったり元気に育ったりして……」

「あんたが制御してんのか。ついてた血は?」

「あれは飾るときに自分が怪我してるやつです」

「ダメじゃねえか」


 などと会話しつつ、カーテンが開く。


「ぶはっ」

「何回やるんだそれは」

「うーん、あまりぴんとこない」


 ファレニアはぶっ倒れた店員には目を向けず、よし、と何かを決心して言う。


「ほかのところでさがそう」

「10回以上も着せ替えさせてそれかよ……」


 ため息は虚空に消えていく。

『策』のためとはいえ、長そうな道のりを思うとローラッドは億劫だった。

読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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