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【第5章】藍の迷宮と羊の夢_002

「ぜ、ぜったいひみつだからね」

「わかった、わかったよ。だからいったん『藍色』をしまってくれ」


 腐食性の『藍色』を溢れさせた少女と、自らの能力をフル活用して迫る『藍色』からなんとか逃れた少年は対峙し、互いに息が上がりつつも一時停戦の旨を合意した。

 ただ、残念ながら少年少女の争いによって『庭園』のよく手入れされた草花がめちゃくちゃになってしまっっていた。

 この広い『庭園』を隅から隅まで手入れしている人間の心労を思い、羊角の少年は胸が痛かった。


「でも、まあ、もともとへんたいひつじには、そろそろ言おうかなとおもっていた、けどね。あにさまのこと」


 藍色の少女、ファレニアは荒れた息を整えつつ語る。


「おぼえてる?おまえは勝負にまけたから、わたしの言うことをひとつ聞かなくちゃいけないの」

「ダンジョン攻略の競争か。確かにそんな感じだったけど……何か別のことを言ってなかったか?なんか男の好みがどうとか」

「そう、そのこと」


 ローラッドが思い出したことに機嫌を良くしたのか、藍色の少女は腰に手を当て自信満々にその薄い胸を張った。


「あにさま、来週たんじょうび。いいかんじのプレゼントをあげたいから、へんたいひつじは手伝え。おとこが気に入るものとか、わかるだろ」

「……ああ、そういうことか」


 羊角の少年は喉に引っかかっていた小骨が取れたような感覚を覚えた。

 なぜファレニアはよくわからない競争を仕掛けてきたのか、すべてはこの遠まわしな愛情表現を成功させるためだったのだ。


「それだったら、俺の頼みも聞いてもらわなくちゃ困る」

「ちがうよ。これは競争で勝ったわたしのけんり。おまえの頼みを聞く気は……」

「いいや、違わない」

「っ!」


 ローラッドが割り込んで主張したので、驚いたファレニアはびくっと肩を小さく震わせた。


 困惑の表情を浮かべる少女が少しかわいそうだが、ここで退いてはいけない。

 黄金の令嬢が見せたように、主張を力で押し通すのも『交渉』には必要だ。


「俺はあんたの秘密を黙っているという『お願い』を聞いている。それで、競争の分はチャラだ」

「まだいうの!?『藍色』が足りないっていうなら、もっと味わわせてもいいんだよ……!」

「そうはさせない」


 ずずっ、と、再び少女の輪郭が『藍色』に溶け始める。

 だが少年も譲らない。

 その獣の瞳は、すでに少女の目を捉えている。


「あ、あれ?からだが、うごかない……!?」

「そして目も逸らせないはずだ。ファレニア、あんたが腕ずくで来るなら、俺にだって手はある」

「くっ……!」


 少女は今にもその『藍色』で少年を洗い流さんばかりに睨みつける。

 対して、ローラッドは短くため息をついた。


「こんな風にずっと争っていたってしょうがないだろ」

「だからって、あにさまにめいわくをかけたくない」

「ファレニア、俺には時間が無い。『手段』を選んでいられる場合じゃないんだ。だから、ここにエルミーナがいない意味を、その誠意を汲み取ってほしい」

「誠意……?」

「あいつはいま俺たちの『策』のために別行動をしている。他の協力者たちと一緒にな。けど本当は、ここであんたを一緒に『説得』する予定だったんだ。あんたは危険な『根源資質』もあるし、脅すような形になるなら危険だから、と。それを押し切って、俺はここにひとりで来ている。あんたを信用してのことだ」

「……」


 ローラッドはいったん目を閉じ、黙り込んだ少女を『夢』から解放する。

 そのうえで、ゆっくりと目を開け、歩み寄っていく。


「だからどうか、俺に力を貸してほしい。代わりに、俺もできる限りのことはする」


 そして羊角の少年は少女の前に片膝を突き、(こうべ)を垂れた。

 脅迫や実力行使の伴わない、純粋な誠意。


「……ん~~~っ!」


 藍色の少女は声にならない声でうめき、少し頭を抱えて、考えて。


「……ちゃんと、あにさまが喜ぶものが見つかるまで協力すること!」


 (かしず)く少年の角を掴み顔を上げさせて、『条件』を提示した。


「言っておくけど、べつに脅迫のことをゆるしたわけじゃない。おまえの力に屈したわけでもない。ただ、あにさまにまぐれでも勝つくらいのやつが頭を下げているのがみっともなさすぎただけ!これはわたしの『じひ』だから!」

「助かるよ、ファレニア」


 眉をつり上げて威嚇する少女に、ローラッドは微笑みながら右手を差し出した。


「これからよろしく頼む」

「……ふん。手袋なんかしてるやつとはあくしゅしないっ!」


 少女はそれを拒否したが、すたすたと『庭園』出口に向かって歩きつつ振り返る。


「時間がないんでしょ。ぎりぎりのところで時間をいいわけにされたらこまるから、はやく!」

「あ、ああ!すまない、行こうか!」

「それと、あにさまに話してみて、それでもあにさまが断ったらそれでおわりだからね!」

「大丈夫、あんたの頼みならきっと聞いてくれる」

「な、なに言ってるの、まったくもう……とんだ『悪魔の取引』だよこんなの……」


 ぶつくさと文句を言う幼い背中に羊角の少年はついていく。


 目指すは『市場』。

 いくつか店を回れば、適切なプレゼントが見つかるはずだ。

読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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