【第5章】藍の迷宮と羊の夢_001
ちょっと見込みが甘く4章が長くなりすぎそうだったので区切ります!
伴って4章のタイトルが変わりました!ごめんね!
ここからは5章で、6章で完結予定!たぶん!
『学園』は学び舎だが同時に『根源資質』を研究する国家機関でもあり、その敷地面積は広大だ。
建物ひとつ分の『図書室』、地元住民も祈りに来る『教会』、複数の分野の学会が同時に開けるほど多い『講堂』など、さながらひとつの街の様でさえある。
「……いた」
「来たか。すまないな、こんなややこしい場所に呼び出したりして」
まだ陽が高くない朝。
そんな『学園』の敷地内にある、貴族が休息を行うこともあるほどに手入れされた『庭園』に設置されたベンチのひとつに腰かける羊角の少年は、呼び出した少女の方を見て少し笑った。
「でも秘密の会話だからさ。あんまり他の人に聞かれない場所がいいだろ?」
「わたしをこんな手紙で脅しておいて、よくもぬけぬけとそんなことを……」
悪意を微笑みとして浮かべている少年の座るベンチに、藍色の髪の少女、ファレニア・アダミスキーは便箋を叩きつけた。
「どうやってわたしたちのいえまで来たかしらないけど、あにさまが見る前でよかったね。あにさまが読んでいたら、おまえなんかとっくに殺してる」
「そう怒るなよ、ファレニア。俺はあんたと話したいだけなんだ」
「おまえと話すことなんか……!」
「あんたが俺と話さなくても、俺があんたの『秘密』を他の誰かに話すかもよ?」
「っ!」
ローラッドは飄々とした表情で笑って、少女の表情はこわばった。
ぎり、とファレニアは奥歯を噛み羊角の『悪魔』を睨みつけるが、そのこめかみからは冷や汗が垂れた。
「手紙のことはあにさまにも、まだ言ってない。書いてあった通り、ここにもひとりで来た。なにがのぞみ……?」
「話が早くて助かるぜ。ま、とりあえず座れよ。ほら」
ローラッドはベンチの端へ少し詰め、その座面をぽんぽん、と叩いた。
藍色の少女は警戒しつつも、座面に置きっぱなしになっていた手紙を回収しつつ、促される通りに座る。
「端的に言うとだ、ファレニア。あんたから兄貴を……マリュース・アダミスキーを説得して、吸血鬼たちがいたダンジョンに戻って、あいつらに謝罪させてほしい」
「……ん?」
「悪い、ややこしかったな。もっと簡単に言うと、俺と一緒に吸血鬼たちに謝りに行くよう、あんたからマリュースに頼んでくれないか?」
「ちょ、ちょっと待って?」
会話を遮ったファレニアはじっ、とローラッドの羊の目を見る。
「わたしの『藍色』にようじがあるんじゃないの……?」
「え、なんで?」
「だって、わたしの『藍色』をわるいことに使いたいから呼んだんでしょ?」
「いや別にあんたの能力には特に用はないけど……」
沈黙。
庭園に吹く優雅な風が、ローラッドとファレニアの間にある気まずい空気ごと駆け抜けていく。
「どうやら俺とあんたの間にはなにか壮大な勘違いがある気がするな」
「か、かんちがい!?」
憤りを隠さないファレニアはガタッ!とベンチから立ち上がる。
「だってへんたいひつじ、おまえはわたしを呼び出す手紙にひとりでこいって書いてた!しかも、部屋の中にこっそりおいた手紙の中に!だれも入れてないし、カギもかけた部屋の中にだよ!?それが、どうしてそんな、正直こんなかたちじゃなくても言えそうなことのためだってことになるの!?」
「手紙を置いたのは、えっと、正確には俺じゃなくてだな……」
ローラッドはジタリーたちの元から帰った翌日、エルミーナの『親衛隊』の情報網からファレニアの部屋を突き止め、ブラッディに頼んで呼び出し用の手紙を渡しに行ってもらっていたのだ。
確かにコウモリ状態じゃまともに会えないから人型に成れる夜まで待つだろうと思っていたのに、使い魔の帰りがやけに早かったのが気になってはいたが。
(そんな空き巣みたいな方法だったら警戒されて当然だろ……!)
影に潜む技を使ってドアの隙間から部屋に侵入したのだろうか。
羊角の少年は今すぐ使い魔を叱りたいところだったが、混乱しているファレニアの誤解を解くことがなによりも先決だった。
「とにかく、俺はただあんたが兄貴と一緒にいないところで話がしたいだけだったんだ」
「なんであにさまといっしょじゃダメなの!?」
「いやホラ、こないだの決闘の件があるから、会ったらすぐ喧嘩になっちゃうかもな~って……」
「そりゃそうだよ!あにさまはへんたいひつじのことムカつくってずっと言ってるもん!でもわたしもおまえのことキライ!もとからキライだったけどいまもっとキライになった!!」
「悪かった悪かった!わかったからいったんその『藍色』を引っ込めてくれ!」
「……ふんっ!」
羊角の少年の嘆願に、ずず、と滲んでいた『藍色』の腐食液を体内に仕舞いなおしつつ、少女は再びベンチに(やや乱暴に)腰かけた。
「だいたいはなしは分かったけど、それだったらふつうにおことわり。あにさまはいそがしいから、一回行ったダンジョンにもういっかい行ってるヒマなんかないんだよ」
「そこを何とか頼むよファレニア。あんたの言うことだったら、マリュースも穏便に聞いてくれるだろ?」
「……だからけっきょく脅すの?」
ギロリ、と鋭い視線が羊角の少年の瞳を射抜く。
「わたしの『秘密』……ほんとうのなまえをみんなに言いふらすつもりなんでしょ。はなしがしたいだけとか言ってたけど、ひとのだいじなことを盾に手紙で脅迫している時点でやっぱり『悪魔』だよ。まえはわたしが別の名前をつかうの、わかるとか言ってたくせに。このクズやろう」
「名前?いや、言いふらさないよ別に」
「え?」
目を丸くして驚く少女に、ローラッドは「いや前も言ったけどさ」と続けて言う。
「俺はあんたがどんな自分になりたいかなんて知らないけど、『学園』の書類ですら別の名前を使うなんてよっぽどだ。それに、俺だって自分の名前に思うところはある。周囲に悪意を持って言いふらすだなんて、俺は絶対にしないよ」
「へんたいひつじ……」
少女がほっと安堵の息を吐いた次の瞬間だった。
「ただ俺は、あんたがもしお願いを聞いてくれないなら、ファレニア・アダミスキーは実の兄貴のことを異性として意識してるってのは言いふらすつもりだ」
「お、おまっ!?は!?な、なななななんで知って!?」
顔を真っ赤にして言語野すらも崩壊しかかっている藍色の少女に、ローラッドはため息交じりに告げる。
「ちょっと見てりゃ分かるだろ。ククク、どうする?言うことを聞いてくれないと、『学園』中であんたが重度のブラコンであることが噂に……」
「ころすしか、ないか」
「待て待て待て!いや脅しに使っておいてなんだけどこの『秘密』そんなに重要か!?俺が言うまでもなくあんたらを見たことあるやつの10人中9人は気づいてるって!俺はちょっとした嫌がらせのつもりで待ってくれその『藍色』をこんなところでその量はーーー!!?」
『庭園』に少年の悲鳴が響き渡る。
ローラッドは、やはりどうしても『交渉』が下手くそなのだった。
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