【第4章】娯楽と交渉は紙一重_023
「ふーん、それじゃ次は吸血鬼のとこに行くんだ?」
「そうだが……ジタリー」
「んー?」
「どうしてもこの状態で話さなきゃダメか?」
どうにか『交渉』した数分後、椅子に座っているローラッドは背後にいるジタリーに問いかける。
彼は今、ジタリーの手によって角を徹底的に飾り付けられていた。
爪を彩る用の筆が羊の角を撫でまわす感覚がこそばゆい。
「時間もあまりないしさぁ」
「ダメ。どーせえーちんときーてぃはおフロに行ってるんだし、問題ないっしょ」
羊角の少年の控えめな嘆願は、角に細かい装飾をつけるのに集中しているケンタウロスのリーダーによってばっさりと斬り捨てられた。
こうなってしまうと、ローラッドひとりでは形勢を覆すのは難しい。
諦めた少年は素直に角を弄らせることにし、背もたれに身を預ける。
「それでさ、吸血鬼たちはいまめっちゃキゲン悪いよ。時間が無いからって無策で飛び込み訪問なんかしたら、それこそ追い返されてジ・エンドってやつ」
「……だよなぁ」
少年がふぅ、と吐く息も長い。
現状、協力を求める最後の勢力にして、最も協力してくれなさそうなのが吸血鬼なのだ。
「使い魔ちゃんの、えっと……」
「ブラッディだ」
「ぶらりんはさあ、なんか言ってないの?吸血鬼なんでしょ」
「それが……」
羊角の少年が言い淀んでいると、その陰からゆらり、と桃色の髪の少女が姿を現した。
「お、ウワサをすれば」
「やりとりは全部聞こえてんだよ、ウマ女」
「それじゃ、状況説明にやってきてくれたってこと?」
「……チッ」
使い魔は不機嫌に舌打ちしつつ「吸血鬼で一括りにされても困る」とため息交じりに言う。
「これから尋ねることになるアイツら……『血統派』の連中は『交流派』と呼ばれていたオレらとは比べ物にならん頑固者が勢ぞろいしている。だからこそリリスの完全支配を逃れてたんだ、取り込まれて飼い犬同然になっちまったオレらとは違ってな」
「ぶらりんめっちゃ自虐するじゃん」
「ソレが事実だからだ。あとクソみてーなあだ名で呼ぶな」
ブラッディは主人の角がカラフルになっていくのを内心面白く見物しつつ、続ける。
「『血統派』の連中も哀れなもんだ。『精霊界』進出の欲を出したばかりにせっかく遠ざけていたリリスに嵌められたあげく、自分らの『秘術』によく似た力を我が物顔で振り回すバカにボコされて、プライドもなにもあったもんじゃねえ」
「吸血鬼の秘術……?」
「まあ秘めてるって言うほど隠れちゃいねえんだがな、この力のことさ」
ブラッディはローラッドの影に溶け、再び姿を現して見せる。
「『影』は吸血鬼の支配領域。この力の根源は、いま居るここから『影』の中に『空間』を跨いで移動する能力だ。『血統派』はこれをひたすら内向きに磨いて磨いて磨いて……ひとつの成果を得た。『魔界』から落ちる『影』、あるいは『魔界』という『影』を持つ別の世界に、実体を持ったまま渡る技術の発明」
「えっ?でもウチらはリリスに『案内』されてコッチにきたんだけど」
「そうさ。アイツらは結局リリスに成果を掠め取られた。『夢』に潜る能力も『影』に潜る能力も似たようなもんだからってのはあるかもしれねえが、アイツのバカみてえに強大な力がそれを可能にしてんだろうよ。その証拠と言ってはなんだが、血縁者である我が『ご主人サマ』には、別にその成果は共有されていないみたいだしな」
「成果の共有だなんて、あのクソババアはそんな殊勝なことはしねえよ。俺を『精霊界』に送り込むときだって、ロクな説明はなかったんだ」
ローラッドはイヤなことを思い出し、天を仰ぐ。
が、すぐにジタリーによって首の角度を戻され、再びため息をつきつつ「とにかく聞いての通りだ」と会話を引き継いだ。
「吸血鬼たちは『魔界』と『精霊界』を渡る知識を持っている。リリスに力を取られちまっている今、自分たちでは実行できないみたいだがな。そして運良く……あるいは運悪く、こちらにはマリュース・アダミスキーという性格のひん曲がった野郎が『空間』に干渉する絶大な『根源資質』を持っている」
いざ条件を並べてみるとやはり無理がある感じがしてきたが、この細い線を通すしか『策』はない。
ローラッドは意を決して続ける。
「俺たちが目指すのは、吸血鬼『血統派』たちの知識で、マリュース・アダミスキーに『魔界』と『精霊界』を繋ぐ通路を再び開通させること。そのために、どうにかしてあいつらを仲直り……とはいかないまでも、協力できるように『説得』しなくちゃならねえ」
「……無理じゃね?」
「む、無理っぽくても、やるしかないんだっ」
「冗談冗談。いや半分冗談じゃないけど、半分は冗談だよ」
必死な羊角の少年の黒髪をわしわしと撫でつつ、ジタリーはケラケラと笑った。
「うーん若い!らんらんはやっぱ若いよ。そんならんらんを、ウチは全力で応援する」
「頭を撫でるのをやめろ!」
「いいんだよ、ウチに全力で甘えてくれても。ウチはかわいいらんらんのことが大好きだからね」
「てっ、適当なことを……!」
「よしよしよしよし……おろ?」
ぱし、と。
黒髪をもみくちゃにしている手を、使い魔が掴んで制止させた。
その目は真っすぐジタリーを睨みつけている。
「ご主人がやめろ、と言ってるだろ」
「……ごめんごめん、マジにならないでよぶらりん。ただのスキンシップだからさ?」
ローラッドは睨み合う視線が交差する火花が頭上に見えた気がした。
一瞬の沈黙の後、ケッ、と不機嫌に吐き捨てつつ、ブラッディは掴んだ手を離した。
「ま、アレだよ。ウチからできるアドバイスはひとつ!」
凍り付いた空気を無理やり砕くかのように、ジタリーはわざとらしいくらい明るく言う。
「まずは外堀を固めるべし!個人的には、あのデカ男の隣にいた子がねらい目だと思うね!」
「……実は同意見だ」
「お、そうなの?」
「ああ」
ローラッドは待ち受けている事態の重大さと滑稽さに頭を抱えてしまう。
「俺たちは吸血鬼を『説得』するための手段として、まずはアダミスキーの妹を『攻略』する」
いつもは皮肉と憎まれ口を叩きそうなブラッディすらも閉口する中、ジタリーだけが「ウケる」と言い残した。
そして沈黙は、共に入浴した少女に(案の定)襲われた黄金の令嬢が叫びながら全裸で部屋に飛び込んでくるまで続いたのだった。
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