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【第4章】娯楽と交渉は紙一重_021

「そんなとこに出口があったのか……」

「かっちんを倒さないと開かないけどねー」


 岩に偽装された扉を後ろ脚で(つまり馬の後ろ蹴りで)乱暴に閉めつつ、ジタリーはのんびりと語る。


「ともかくクリアだね。らんらん、どうだった?ダンジョンの方は。難易度とか」

「難易度に関して言えば、ぶっちゃけ調整不足だ。最初のパズルは簡単すぎるし、アスレチックには片方だけを進めすぎると作動した罠がうまく働かない欠陥がある。そして最後のゴーレムは殺意高すぎだ」

「きびしーこと()うじゃーん。あんまり面白くなかった?」

「……」


 難しい問いだった。

 だが散々低評価してしまった手前、ここらでフォローが必要な気もする。


「まあ、ダンジョン攻略ごっことしては、俺はわりと楽しめたけど……」


 羊角の少年は、少しの気恥ずかしさに耐えつつ正直な心中を吐露した。

 それを見透かしたように、にまりと笑うジタリー。


「それならよかった、フィードバックあんがとね。次来る時には改善しておく。あーちんが」

「ハッ!仰せのままに」


 主人と対照的に真面目なケンタウロス、あーちんは敬礼でもって命令に応える。

 ローラッドとしてはやはり『あーちん』の本名が気になるところだが、いま聞いても答えてくれそうにないな、と問いを喉の奥へと引っ込めた。

 もう落ち着き始めているとはいえ、背後の黄金令嬢の視線も怖いし。


「そんでそこの子が4人目の子かぁ。名前は?」

「……」

「ん?聞こえなかったかな」

「あっ、ちょっと待ってくれ」


 ローラッドがパチン、と指を鳴らすと、直立不動で動かなかったキスティはぐらり、と揺れて『夢』から覚めた。


「わたしは木……はっ!?」

「こいつはキスティと言う。キスティ、あちらがケンタウロスのリーダー、ジタリーだ」

「あー木のフリしてたんだ、ウケる」

「何を納得してるんですか!?この男は本当にひどくて……いつっ!」


 烈火のごとく怒り出したキスティだったが、すぐに小さな悲鳴をあげて右肩を抑えた。


「結構派手に怪我してんね。まあお医者さんに診てもらった方がいいとおもうけど、ウチらでも応急処置くらいならできるよ。あーちん、きーてぃを医務室に連れてってあげて」

「はっ!」

「あ、ありがとうございます……でもきーてぃとは?」

「そ。かわいーでしょ」

「???」


 頭に疑問符を浮かべながらも、白金色の少女はあーちんに連れられてドアの向こうへ。

 さらにジタリーがそれに続きつつ、ローラッドたちへ手招きする。


「さて、らんらんたちもおいで。『お話』する約束だったでしょ」


 ーーーーーー


 見事な刺繍が施された絨毯が敷かれ、所狭しと並べられている細かい模様が描き込まれた香壺が独特の『空気』を生み出している部屋の中。


「あの……」

「おっと、動かないでよえーちん。いま結構細かいところやってるから」


 椅子に腰かけたエルミーナが差し出す指に、ジタリーは小さな筆で模様を描き込んでいく。

 ローラッドはその横に立って、小さなキャンバスに絵画を描くような離れ業を眺めていた。


(なんだこの状況は……)


 部屋に案内されたからさっそく『交渉』の話になるのかと思ったら、あれよあれよとネイルアートが始まってしまったのだ。

 座って大人しくしているエルミーナも、どこか嬉しそうにはしつつも困り顔だ。


「よし、できたかな。どお?テーマは夜空の一番星!」

「わ、すてきです!本物の夜空がわたくしの爪に閉じ込められているみたい……」

「でしょ。えーちん、いいやつだね。あーちんから聞いていた通りだ。一緒にいると楽しい」


 文字通り目を輝かせるエルミーナを見てジタリーは満足げだ。


「おいジタリー、楽しむのもいいが、俺たちにはもうあまり時間が……」

「あーごめんごめん、忘れてたわけじゃないよ。ただちょっと最後の一押し、見極めさせてもらっただけで」


 ジタリーはエルミーナの手を取ったままその目を見て、そしてローラッドの方を見た。


「いいよ」

「えっ?」

「リリス打倒作戦、ウチらは全面的に協力させてもらうよってこと」

「ま、まだ内容も聞いていないのに、ですか!?」


 驚愕の声を上げるエルミーナに「まーね」とジタリーは微笑み返す。


「らんらんもえーちんも悪いやつじゃないっしょ。きーてぃもいい子だし、顔を見せてくれない使い魔ちゃんもらんらんと仲良しだからね。それに、ちゃんとウチのお願いを聞いてくれたから、ギリもあるし?」

「……手紙の件はやっぱり罠だったか」

「ワナなんかじゃないよー。ただ、お友達になってもいいかなーってちょっと見てみただけ。性格診断テストみたいな?」


 ジタリーは無邪気にケラケラと笑う。


「それで、どんな大作戦なの?そろそろ教えてよ」


 そしてすぐさま、獲物を見定める狩人のような表情になった。

 やはり油断ならない。


「端的に言えば、あんたらには『魔界』に逆侵攻を仕掛けてほしい」


 下手な隠し事はしても無駄だ。

 ローラッドは改めて腹を括り、簡潔に告げた。

読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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