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【第4章】娯楽と交渉は紙一重_019

 ばぎばぎばぎっ!と割れてしまいそうな金属音が響く。


 両腕を失ったゴーレムはまだ戦闘を続ける気だ。

 では、どうやって攻撃するのか?

 金属の巨人が出した答えはひどく単純だった。


「ちょおっ!?」


 白金色の髪の少女が思わず驚愕の声を上げる。


 金属音を響かせながら、ゴーレムは跳んでいた。

 そのまま足を放り出すように横向きに蹴りを放ち、身体ごと横向倒しに宙を舞う。

 ありていに言ってしまえば、ドロップキックだ。


「こんな閉鎖空間でその攻撃は反則でしょおおおっ!?」


 右肩をかばいつつキスティはその場からダッシュで離れ、その背後に巨大質量が墜落する。

 ズゥン!ともはやダンジョン全体を揺らしているのではないかと思うほどの衝撃が壁を伝って走り抜けた。


「おいおい滅茶苦茶元気いっぱいじゃないか……!」

「ローラッド、これはチャンスですわ!」

「チャンス!?」


 冷や汗を垂らしているローラッドとは対照的に、エルミーナはその手に『輝き』を溜めながら叫ぶ。


「ああして倒れる攻撃を選んでくれているのだから、顔によじ登りやすいじゃないですか!わたくしも気を引いて来ますので、ちゃちゃっとやっちゃってくださいましっ」

「あっおい!」


 羊角の少年が止める間もなく、エルミーナは立ち上がりつつあるゴーレムの方へと駆け出した。


「そう簡単に、立ち上がらせませんわ!」


 宣言と共に、キュガッ!と黄金が輝く。

 最大までチャージされた光線がゴーレムが足を突いている地面を焼き払い、吹き飛ばした。

 両腕を失ってバランスを取りにくい状況でいきなり踏んでいる場所の形を変えられ、さらに溶けて粘性が増した岩に足を絡め取られたゴーレムが再び転倒する。


「よしっ!」


 ガッツポーズを決める黄金の令嬢。

 だがゴーレムもただで転げているつもりはない。

 金属の巨人はうつ伏せのままヒビ割れた胴体を揺らし、その隙間からキラキラと光る何かをこぼし始めた。

 いや、何か、ではない。

 エメラルド色の円盤が、ゴーレムの身体からボロボロとばら撒かれ始めたのだ。


「わわっ、なんですの!?」

「あいつまさかっ」


 ゴーレムの『意図』に気が付いたローラッドは夢魔の翼を展開し、全力で飛んだ。


(あいつ、寝返りで円盤を押しつぶす気だ……!)


 半分自爆のような攻撃だが、ゴーレムの足が円盤に吹っ飛ばされなかったのを見るに、コア以外であればダメージを抑えられるという算段なのだろう。

 背中で無数の円盤を一気に押しつぶし、一気に起爆しようとしているのだ。


「もうやるしかねえっ!」

「いけーっ!ローラッド!やっておしまいなさいっ!!」


 眼下でぴょん、ぴょんと跳ねている金髪の令嬢に苦笑しつつ、ローラッドは身体を半分回転させつつあるゴーレムの顔に取りついた。


「で、どこが目なんだこいつは!?」

「さすがに光ってるココだろ、ご主人」

「ブラッディお前いつの間に!?」

「まーここが一番安全だからな。ご主人が死なない前提でだが」


 要領よく影の中に戻っていた使い魔が皮肉っぽく笑いながら言う。


(なんだかんだ悪態をつきつつ、いざという時は一番近くに来てくれるんだよなっ……!)


 本人に言うと怒りそうだったので感謝は心中に留めつつ、ローラッドは影の中から使い魔が指を出して差すエメラルド色の宝玉(?)を覗き込む。


「眩しすぎるっ!『感度自在』で目を……」


 視覚感度を調整すると、だんだんとその表玉の表面の模様まで見えてきた。

 宝玉の表面に刻まれた呪文が二重に円を描いていて、その中心には確かに瞳のように揺らぐ何かが嵌めこまれている。


 だが構造に気を取られている時間はない。

 こうしている間にも、ゴーレムは身体を傾けつつある。


 イチかバチかの賭けだがやるしかない。


「効いてくれよ、『夢幻夜行』っ」


 獣の瞳がエメラルド色の(あな)を覗き込む。


「っ!?」


 途端、ローラッドに見えたのは強烈な極彩色の景色。

 視界に入れているだけで脳を揺さぶられる鮮烈な幻影だ。

 極彩色の幻影は歪み、時折こちらを覗き込む人影になっては形を失い溶けていく。


(これが、ゴーレムの『夢』か……!?)


 いつも覗いている『人』の夢とは違い、輪郭がはっきりしているか、溶けているかがキッパリ分かれていてその中間はない。

 この輪郭に語り掛け、任意の形を与えることで、ローラッドは任意の『夢』を見せるわけだが。


(こんな感触の『夢』の加工なんざしたことねえぞ!)


 ゴーレムの『夢』はローラッドの語り掛けにも中々反応しない。

 だが、わずかに手ごたえはある。


(あと一押し、何か、一手押し込む方法が……!)

「おいご主人!そろそろやべーぞっ」


 ゴーレムの傾きが大きくなり、使い魔が影の中から叫ぶ。


(……『手段』は、選ばないって決めたんだ)


 ローラッドは、ずっと頭の片隅にあったが、見ないふりをしていた『手段』を意識する。


(それがたとえ、リリスの罠だとしてもだっ!)


 決断してからは早かった。


 羊角の少年は、右手の手袋を取り去った。

 いつだったか、甘い風を吹かせたあの時のように。

 外気に晒され『欲望の指輪』が紅く輝く。


「『指輪』ッ!俺はこのゴーレムに夢を見せたい!金属が抱く『欲望』に興味があるなら、テメエも力を貸しやがれッ!!!」

「アハハ!いいね、面白そう!でもちゃーんと『名前』で呼んでくれなきゃヤダ。ボクも悪魔だからね、『ママ譲りの方』の名前で命じてくれたらやるよ」


 ケタケタと笑いながら土壇場で足元を見てくる『指輪』。

 悪魔との契約において名前は重要事項。

 特に本名は、使うと基本的にロクなことにならない。


「わかったよ、贅沢なやつだなまったくっ」


 だが手段は選ばない。

 舌打ちしつつ、ローラッドは叫ぶ。


「『ローラッド・リリス・ナイトメア』の命令だ『指輪野郎(サマエラ)』!俺の『夢幻夜行』をテメエの力で増幅しろッ」

「はーい!」


 ぎょろり、と指輪の紅い眼が嗤い、鮮やかな光を放つ。

 途端にローラッドの視界に流れ込む極彩色が紅く染め上げられ、その輪郭が一気にあいまいなものとなった。


「『夢幻夜行(ハブアグッドナイト)』、ゴーレム野郎!」


 羊角の少年は再度叫んだ。

 瞬間、ギギギギギギィッ!と金属音が響き渡った。


「……止まり、ました?」


 ゴーレムを見上げるエルミーナがぽつりとつぶやく。

 金属の巨体の『寝返り』は、その背中が倒れ込む直前で停止していた。


「ゴーレム、『伏せ』っ!」


 そして羊角の少年が命じるままに、ゴーレムはまるで犬のように、うつ伏せの状態へと戻った。

 洞窟内に、ひとまずの静寂が訪れた。

以前『指輪』が力を発揮してローラッドの技を強化した事なんかありましたっけ?

と思った方は「【第2章】金と羊はトラブルの目印_008」の描写にご注目。

それと久しぶりに喋った『欲望の指輪』ことサマエラは初登場時に名乗っています。

忘れていた方は「【第3章】ダンジョン攻略狂騒曲_027」にて彼女(?)の初登場シーンをご覧ください。

以下テンプレ↓

読んでいただきありがとうございます!

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