【第4章】娯楽と交渉は紙一重_017
「エルミーナ、ブラッディと協力してゴーレムの気を引いていてくれ」
「任せてくださいなっ」
黄金の令嬢は固く頷き、隠れていた岩陰から飛び出した。
「ほらほら!こっちですわよゴーレムさん!」
「うおっ眩しい!ちょっとは加減できねえのか金ぴか女ァ!?」
使い魔の元気な叫び声も聞きつつ、ローラッドは改めてキスティの手を取った。
「キスティ、俺と一緒に右腕の残骸まで行くぞ」
「し、しょうがないですね……!さっき目を見られてからあなたに逆らう気がしないのがムカつきますけどっ」
「おまじないの一環だ、すまないが少しの間我慢しててくれっ」
エルミーナに向かってゴーレムが足を振り上げた瞬間、ローラッドはキスティと一緒に岩陰から走り出す。
だが、金属製の巨体は『敵』の数を正確に把握していた。
目だけを黒髪の少年と白金色の少女に向けたゴーレムは素早く反転し、踏みつけた足とは逆の足で岩を蹴り上げた。
当たればまず間違いなく無事では済まない塊がローラッドたちへ迫る。
「きゃあっ!」
「大丈夫っ」
思わず目をつぶったキスティは身体が浮き上がるのを感じた。
次に聞こえたのは羽ばたく音。
下を見れば着弾した岩が砕けるのが見え、見上げれば、羊角の少年の顎が見えた。
ローラッドが少女の胸の下あたりを抱きかかえ、夢魔の翼で飛行しているのだ。
「逆らえないからってヘンなところを触ってます!?『おまじない』が解けたら三枚おろしにしてやりますから!」
「言ってる場合かよっ!飛ぶのは後々に取っておきたいからもう下ろすぞ!」
ローラッドは宣言通りに翼をしまいつつ、少女を地面に降ろす。
飛行によってすこしショートカットでき、ちょうどゴーレムの右腕の残骸近くまで来ていた。
「それで?わたしがこれをどうするって言ってましたっけ。こんな重いの持ち上げられませんよ」
「当然全部は無理だろうが……よし、この辺ならどうだ」
羊角の少年は適当に見繕い、ゴーレムの右手からもげかけていた小指を選択した。
両手で掴み、多少揺すると金属が自重で裂け、抱えればなんとか持ち上がるサイズにちぎり取ることができた。
「よっし……!これならなんとか持てるんじゃないか?」
「おっも!!!無理ですってこれぇ!」
ローラッドに任された『小指』を両手と全身を使って支えるキスティ。
少女の体格と比べ、大きすぎるのは明らかだ。
「いーや、持てる。大丈夫」
だが、羊角の少年は慌てない。
ゆらり、と少女の前に回り込み、その目を見る。
「『あんたは結構力持ちだったよな?』『その小指も、ほら、ちょっと小さく見えてきた』」
「しまっ……また『おまじない』をかけましたね!?でも気持ちだけじゃ……」
「そしてほいっと『感度自在』」
「んんっ!?」
ローラッドは少女の細腕に触れた。
それだけで、キスティは突然重さをさほど感じなくなってしまう。
依然重たいが、これなら持ち上げられる……気がする。
「何したんですか」
「大丈夫だ。いつもよりちょっとだけ限界を超えた力が出るだけだから」
「それって後遺症とか大丈夫なんでしょうね!?」
「『大丈夫』」
「クソッ大丈夫な気がしてきた……!」
にこり、と悪気無く笑っている羊角の少年に怒りのような感情を湧きあがらせつつも、キスティは『夢幻夜行』の効果でそれを正確に知覚できない。
(なにが『おまじない』だ、このたらしっ……!こんなクズの言うことを聞きたくなるなんて!)
その身に流れる『淫魔』の血は本物。
半分だけだとしても、その本質は魔性だ。
「で、どうだ。能力は適用できそうか」
「やってますけど、これを『持ってる』っていうのはちょっと無理がありますよ。全然馴染む感じがしない」
「……あんたが『持ってる』と思えばいいんだったっけ?」
「ハァ……」
すっとぼけて言う羊角の少年の顔を見て、もう次に何が起きるか想像できたが。
少女はもう、腹をくくることにした。
「ほらっ、とっとと『おまじない』をかけなさいよっ」
「話が早くて助かる」
少年は少女の顎に手を添え、再びその魔性の瞳で覗き込む。
「キスティ、『その小指、まるであんたの一部みたいに馴染んでいる』な!」
「……きたっ!」
道具を手に持って使っているとき、人は道具をまるで身体の一部のように感じるという。
いわゆる身体論、その応用。
まるで身体の一部のように感じられるとき、逆に言えば人はその道具を『持って』いる。
キスティのプライマルが、少女の身と同じくらいの大きさにすら見える『小指』を刃物に変えた。
証拠に、少女が『小指』を地面に突き立てると、その切っ先が地面へ食い込み沈む。
「準備完了だ!」
「あなた本当に全部が終わった後に報いてもらいますからねっ」
ローラッドとキスティがゴーレムに向かって走り出す。
それを見たエルミーナは表情をぱっと輝かせた。
「やるのですね!」
「ああ!エルミーナ、撃てっ」
「了解ですわっ!!!」
黄金の令嬢がゴーレムの方を向いた次の瞬間。
ビガァアアアアアアアアアッ!とこれまでにない高出力の黄金光線が、ゴーレムの左肩関節へ一直線に振り下ろされた。
ゴーレムの金属の関節部は赤熱し、そこから漏れた光が洞窟の背後の岩を焼く。
「ブラッディは下、俺が上で足場になる!キスティ、行けっ」
「ちょご主人オレもアレの踏み台になんの!?聞いてねえけどクソッやるしかねえっ」
悪態をつきつつも、翼をはためかせたブラッディは地面から少しだけ浮いて待機する。
「それでは、気兼ねなく踏ませてもらいますっ」
ぎゃぎゃぎゃっ!と引きずった『小指』で地面を切り裂きつつ、キスティはまずブラッディへ向かって跳躍。
以前、黄金令嬢の認識と感覚を変容し、3つ首の獣の王と渡り合わせた『感度自在』と『夢幻夜行』の合わせ技。
ローラッドが『明晰夢遊』と名付けたその技で限界を超えて引き出された筋肉が、少女を空中へと運ぶ。
「次はっ、ご主人っ!」
キスティに踏まれつつ、ブラッディはさらに少女の足を持って投げ上げる。
「おうよっ!そっ……れ!」
さらに飛んできた白金色の少女を、ローラッドは抱き替えるようにしてぐるりとぶん回し、目標とする関節部へ投げつけた。
「キスティ、やっておしまい!」
「はい、エルミーナ様っ!!!」
そして、少女は肩に担ぎなおした『小指』を、赤熱する装甲へ向かって振り下ろす。
バギンッ!!!と。
重たい金属同士が衝突し、両断。
その衝撃がゴーレムをよろめかせる。
当然、反動で少女も吹っ飛び。
「よっと、大丈夫か?」
「……どうせならエルミーナ様にキャッチしてほしかったですが、無事です」
飛行していた羊角の少年がしっかりとその身体を抱きとめる。
「けど、もう『おまじない』が解け始めてます。あー、右肩からすごく嫌な感触が」
「あとでしっかり治療しよう。ありがとうな、キスティ」
「……フンッ」
相変わらずそっけない少女を地面へ下ろし、ローラッドは自らも着地する。
「さて……」
一仕事終えた感じになっているが、まだだ。
ローラッドたちは、両腕を失ってなお、立ち上がったゴーレムの、その腹部に光るエメラルド色のコアを睨みつける。
「最後の一個、どうすっかな」
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