【第4章】娯楽と交渉は紙一重_016
「形態が多少変わろうとカンケーねえ。さっきと同じ方法で左腕も吹っ飛ばせばいいっ」
ブラッディは言いつつ走り、鋼弾の残骸の中から軽やかにエメラルド色の円盤を拾いあげる。
「ほらこっちだ、クソバカゴーレム!」
桃色の使い魔は再び石を投げ、ゴーレムを挑発する。
が。
ばぎんばぎんっと苦しそうな金属音を響かせながらも、ゴーレムは反対側にいるローラッドたちの方を向いた。
「なっ、なんでこちらに!」
「エルミーナ様、回避を。ゴミ、ローラッドさんもっ」
「おわっ」
予想外の展開に慌てる令嬢の手を引きつつ、ついでとばかりに羊角の少年の首根っこを掴んでキスティはブラッディからさらに遠ざかる方向へ走った。
ゴーレムの踏みつけがそれを追いかける。
途中、ずっとブラッディが投石によってゴーレムを挑発していたが、ゴーレムはブラッディには目もくれない。
「成る程、どういう仕組みかは知りませんが、何か『学習』をしたようですね」
ゴーレムの連撃によってめくれ上がった岩盤の陰に身を隠しつつ、キスティは考えを述べる。
「わたしたちがこうして隠れているのをゴーレムは探しているようですが……あちらでキャンキャン騒いでいるコウモリ……いえ、ブラッディさんにはまったく注意を向けていない。あれがわざとでなければ不自然ですね」
「さっき腕を吹っ飛ばされたのを覚えてるわけだ。同じ轍は踏まない、と。だとすると、のこり2カ所を叩くのにはそれぞれ違う方法が要るってのか?勘弁してくれ」
額の汗を拭いながら不安を口にするローラッドに「弱音を吐いていたって仕方がありませんわ」と、きっぱり返すエルミーナ。
「4人も居るのですから。あと2つくらいきっとなんとかして見せましょう!意外な方法があるかもしれませんし、レアな攻略法ならジタリーさんもご褒美をくれるかもですしね!」
「そんなボーナスとか出るタイプなのか?あの人」
突っ込んでみて、まあ確かにノリとか勢いで生きている風でもあるよな、とローラッドはジタリーのギラギラに輝く爪や奇妙な言葉遣いのことを思い出していた。
あんなでも一族をまとめる長なので油断はできないが、一方でこちらから楽しませれば甘くなりそうな、そんな予感自体は確かにある。
(まあここを生き延びなければどうしようもないわけだが)
「はい、エルミーナ様。わたしに一計あります」
「あら、何か思いついた?」
律儀に挙手し発言の許可を求めたキスティに、エルミーナは手を差し向けて発言を許可する。
「意外な攻略方法ということで考えていたら閃きました。あのゴーレム右腕のコアを破壊したら、右腕ごと取れましたよね?」
「ええ、それが?」
「逆に言えば、腕の破壊と手のひらのコアの破壊はほぼイコール……ならば逆も成り立つのではないかと」
「……なんだ、左腕を斬り落とすとでも言うつもりか?」
ローラッドの問いかけにキスティは軽く頷き「問題は……」とあごに手を当てる。
「その左腕を斬り落とす『方法』があればいいんですけど。いまあのゴーレムは手のひらのコアを円盤によって爆破されるのを相当警戒しているハズなので、直接腕を斬り落とすのは方法さえあれば上手くいくはずなんです」
「キスティ、あんた結構大胆って言うか脳筋って言うか……」
「脳みそが筋肉で出来ていると言いたいのですか失礼な!だいたい、あのピンクのコウモリ女には負けっぱなしは性に合いません。とはいえ華麗に戦果を挙げられてしまったのも事実。ならばここはひとつ、奇想天外な策で一発逆転を狙うしか……!」
そういうところが脳筋って言うんだ、と言いかけたのをローラッドは呑み込みつつ、エルミーナの方をちらっと見た。
「エルミーナ的には?」
「素敵な策だと思います!キスティのプライマルなら、刃物の調達はちょちょいのちょいですし」
「ちょちょいの……?まあいいけど、キスティ、あんたのその能力ってのは、具体的にはどんなのだっけ?」
「わたしが手に『持った』ものを刃物に変える、という能力ですね」
キスティは手にした『懲罰棒』を床に突き立てて見せる。
「ただご覧の通り『斬れる』ようになるのは元の物体よりも柔らかいものだけ。それと、わたしが『持った』認識がないといけないです。ひとまずあのゴーレムの装甲よりも硬いものを探さないことには……」
「それなら、わたくしの『光』を使えばいいのではなくて?」
エルミーナが指を立てて提案する。
「ゴーレムに『光』を何度か照射した際、きちんと熱は伝わっているように見えました。きっとあの熱くなっている瞬間なら、普通の装甲よりも柔らかくなっているハズ。そこにキスティが斬りかかれば……」
「なるほど、それなら斬れそうです!エルミーナ様はやはり頭がいい!」
金と白金がきゃっきゃと盛り上がっている間も、地鳴りが辺りを揺らしている。
ブラッディが行う挑発に完全には乗らないものの、ゴーレムがたびたびブラッディへ向けて攻撃を行い牽制しているのだ。
(作戦会議も長すぎるとブラッディが持たないな)
一か所にじっとしていれば見つかる確率はどんどん上がる。
まして、相手は『学習』機能があるのだ。
次の瞬間には発見されてもおかしくはない。
「よし、じゃあその左腕切断作戦で行くぞ」
「えっ、でもまだ方法とか、わたしが持つ『得物』も決まっていないのに……」
「じっとばかりもしてられないだろ」
ローラッドは岩陰からゴーレムの隙を伺いつつ、ブラッディに指を鳴らして合図を送る。
「俺が合図したら、エルミーナはゴーレムの左肩の関節あたりを狙って光線を撃て。その後、俺とブラッディでサポートしてキスティを切断場所まで連れていく」
「わかりましたわ!」
「だから肝心の『得物』がまだ……」
「それに関してはだな、アレを使おう」
羊角の少年が指差す先にあるもの見て、キスティは「はぁ?」と心の底からの疑問を口にする。
「さっきぶっ壊したゴーレムの右腕?アレをどうするんです」
「そりゃもちろん、持ってもらうんだよ」
「誰に?」
「あんたに」
「えっ」
戸惑う白金色の少女の手を取り、ローラッドはその目を覗き込む。
「大丈夫。ちょっとした『おまじない』をかけてやるからさ」
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