【第4章】娯楽と交渉は紙一重_015
ローラッドの額に冷や汗が滲んでいる間に、一時は爆風で体勢を崩したゴーレムは体勢を直していた。
轟音を響かせ、金属の巨体が駆動する。
「また投擲がきますわっ!散って!」
エルミーナの忠告に合わせ、4人はバラバラに位置取った。
「狙いは、またオレかっ!」
ゴーレムは背中から取り出した鋼弾をブラッディの足元にめがけて再び投擲する。
そして着弾と同時に、中からエメラルド色の円盤が出現。
「アイツ自身の攻撃でアイツを倒す武器が供給される仕組み。馬鹿馬鹿しいが、いかにも『娯楽』っぽくはあるよな」
「……」
翼を使って回避した使い魔は軽口っぽく言うが、ローラッドは口を閉ざしたままだ。
「ねえローラッド、どうしましたの?さっきから様子がヘンですわよ」
異常にいち早く気が付いたのは黄金の令嬢だ。
エルミーナはゴーレムの様子を伺いつつ、思い詰めた表情をしている羊角の少年に駆け寄る。
「……あなた、また何か自分だけ知っていることを隠そうとしていますわね」
「うぐっ」
「そして、どうせ開始前に貰ったジタリーさんからの手紙の内容でしょう。話しなさい」
呆れた口調のエルミーナに、ローラッドは少し逡巡したが。
互いを『手段』として信頼する。
その約束を、違えるわけにはいかない。
「……俺がジタリーから貰った手紙に書かれていたことは2つだ。ひとつは、この『アトラクション』は娯楽用だが、普通に怪我……最悪死ぬレベルの『罠』が仕掛けられている、ということ」
「それは見れば分かりますわね。流石に」
2人が話している間にも振り下ろされるゴーレムの腕。
だがエルミーナは何でもないと言わんばかりに、ローラッドの手を軽く引いてその場からズレ、重たい一撃を躱した。
その動きはまるで、舞踏会のよう。
「それで2つ目は?」
「2つ目は……全部の試練を『ズル』して攻略する方法だ」
「……まあ」
ローラッドはゴーレムの背後にある壁を指さした。
「ほかの試練にもあったみたいだが、壁のあたりに『非常口』があるらしい。もし時間が無いなら、指定の数字を非常口のダイヤルで入力すれば、そこは『攻略』扱いにすると。それなら、もう一度会うだけ会ってやる、と書いてあった」
「罠ですわね」
黄金の令嬢は即断する。
「会うだけ会う、とは本当に会う『だけ』ですわ。だって彼女の目的はこのアトラクションのテスト。4人揃っていないという『だけ』でわたくしたちを追い返した彼女が、そんな『ズル』を認めるはずがない。まんまと乗ってしまえば交渉もさせてもらえないか、最悪陣地のど真ん中で集中砲火を浴びることになる。あの方、ローラッドのお母様に何か恨みがあるご様子でしたし、多少の嫌がらせはありそうな話ですわ」
「でも、あのゴーレムの『攻略法』は……実行するわけにはいかない」
ローラッドは拳を握りしめる。
「おそらく、あの円盤を持った状態でゴーレムにわざと掴まれれば、手のひらの弱点を狙って起爆できる。それが『攻略法』。だけどこの方法じゃ……!」
「フツーに死ねますわね。わたくしとしてもお断りですわ」
「だったらもう……!」
「だったら、別な方法を考え出すしかないでしょう」
羊角の少年の唇に、真白い細指を添えて。
「そのためにわたくしたちは4人いるのですわ」
少女は黄金色に微笑む。
「お二方、聞いていましたか?ゴーレムの手のひらで自爆したくなければ、円盤をうまく当てる方法が必要です!」
「エルミーナ様、わたしもちょうどそれを考えている所で……」
「おう!それだったらオレにいっこいい考えがあるぜ!」
令嬢の呼びかけに答えたうち、桃色の使い魔から嬉しそうな声が聞こえる。
「ご主人と金ぴかの協力が必要だ!そこのレズ女は要らないけど」
「まっまたしてもあなたはバカにしてっ!」
「ほら見なさい。皆あなたに頼られるのを待っているのです」
エルミーナの言葉にローラッドは固く頷き、使い魔の元へと駆け寄った。
「それで方法ってのは」
「まあちょっと危なっかしい方法ではあるんだがな、円盤抱えて掴まれに行くところまでは同じだ」
「それって自爆じゃ……!」
「だから、そうならないために協力が必要だって言ってんだよ。ちゃんと脳みそ詰まってんのか?『ご主人サマ』」
桃色の使い魔は呆れ顔でローラッドのこめかみをつつきつつ、少し笑った。
「ご主人は自分の使い魔がどういう存在か忘れたのかよ。作戦は至ってシンプル、金ぴかがご主人の影をゴーレムの手まで伸ばしていてくれればいい」
「影に避難するのか!」
「やっと気づいたかよ。それじゃちょっくら行ってくる」
死の危険があるなどとは微塵も思っていないような軽い足取りで、エメラルド色の円盤を抱えた使い魔がゴーレムの元へと駆けていく。
「エルミーナ、俺の影をあいつの足元まで伸ばせ!」
「もちろんですわ!」
エルミーナが黄金色の光を強め、ローラッドの足元から影が伸びる。
「おらっ、コッチだでくの坊が!」
伸びた影が使い魔のそれと接続するのとほぼ同時、投石によって気を引かれたゴーレムが桃色の使い魔を叩き潰そうと手を振りかぶった。
動きは鈍いがその圧倒的な巨体の長い腕が、あっという間にブラッディへと迫る。
「ブラッディッ」
手が叩きつけられると同時、地鳴りとエメラルド色の閃光が走り、ローラッドの叫びをかき消す。
ばぎばぎばぎっ、と金属が避ける音と共に、吹き飛ばされたゴーレムの右腕がバラバラに砕け散り、肩口まで一気に崩壊した。
「お、おいブラッディ!返事を……」
「なんだよ」
派手に転倒するゴーレムと舞い上がった土煙に向かって叫ぶ主人の後ろの影から現れた桃色の使い魔はニヤニヤ笑いながらその背中を肘でつついた。
「オレの身がそんなに心配か?これくらいあと百回でもやれるぜ」
「ブラッディさん!無事でよかったっ!!」
「ぐえっ!?」
エルミーナに抱きしめられて苦しそうにしている使い魔を見て少し笑いつつ、ローラッドはゴーレムの方へ向き直る。
右腕を失いつつも、再び起き上がったゴーレムの様子は明らかに変わっていた。
眼光はより鋭くなり、そして、姿勢も攻撃的な前傾姿勢となっている。
「……第二形態開始、ってところか」
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