【第4章】娯楽と交渉は紙一重_013
「「だりゃああああっ!」」
ダァン!と、叫び声と共にそれぞれのコースのゴールスイッチはほぼ同時に踏まれた。
オーバーランしたローラッドとエルミーナは肩で息をしながら正面にある扉を見る。
大きな両扉の左右それぞれにある松明が同時にーーーいや、わずかに右側の方が早くーーー点灯し「しゃああああああああああああああああああっ!!!」黄金令嬢の雄たけびに呼応するように重たい扉がずずず、と仰々しく開いた。
「おーっほっほっほごほっほうぇっ!どっ、どーやらわたくしたちのほうが僅かばかり先んじていたようですわね!?」
「くっ、最後の直線でプライマルの出力差が……!」
むせつつも勝ち誇るエルミーナに、ローラッドはがくり、とうなだれた。
コース最後の直線に差し掛かった時、ローラッドは『感度自在』で筋肉の反応速度を強化しダッシュした。
ある種の反則技であり、羊角の少年がいかに手段を選ばず勝ちに行ったのかを示す出来事だったが……対する黄金の令嬢の方が一枚上手だった。
エルミーナは束ねた『光』を背後の水面へ照射したのだ。
瞬間的に熱せられた水が蒸発・膨張・爆発を起こし、その爆風に半ば投げ飛ばされるような形で少女は加速、その時点ではわずかに先んじていたローラッドを抜き去り、見事1位でゴールしたのである。
「チッ。最後に抜かれたか、ご主人」
「わ、悪い」
「まあいいさ。元々別に競争する必要もなかったんだしな。花を持たせてやったってことで」
桃色の使い魔は懸命に悔しくないアピールをするが、ローラッドはその目の端がピクピク震えていることに気が付いていた。
使い魔が悔しがっているサインである。
「……ブラッディ、良い動きだった。よく頑張ったな」
「ぬあっ!?」
せめてねぎらってやろう、とローラッドが使い魔の肩に触れた瞬間、よくわからない悲鳴のようなものをあげた使い魔にババッと振り払われてしまった。
「気安く触んなっ!」
「いや、あの」
「フンッ」
そしてそのままそっぽを向かれてしまった。
それと同時、手袋の下、ローラッドの右薬指に嵌った『指輪』がカタカタと揺れる。
(欲望に反応するってことは、ブラッディの勝利欲に反応したのか?)
『指輪』は欲望を溜めすぎると、リリスの新たな『分身』を生み出す。
手袋で覆っておくことで周囲への影響を緩和できると期待していたが、この距離で勝利欲に反応してしまうのは少し危険だ。
(テルの期日以上に、この『指輪』の『容量』も気をつけねえと)
「ほらキスティ、この指をよーく見ていてくださいな……3、2、1、はいっ!」
「んがっ!?」
ローラッドの心配をよそに、エルミーナはマイペースにも人差し指の発光パターンでキスティにかけた『暗示』を解除していた。
「エルミーナ様、コースは!?競争は!?」
「もう全部終わりましたわよ。わたくしたちの勝利です!」
「い、いえーい?」
よくわからないままガッツポーズを取っているキスティ。
ローラッド目線、光を操って洗脳のようなことまでできてしまっているエルミーナは本当にとてつもない『根源資質』を持っていると見えているわけだが、本人には大してその自覚がないのが恐ろしい。
「さて!」
ひと仕事終えたエルミーナは試練の出口で両手を腰に堂々と立ち、力強く発声する。
「知恵の試練と身体の試練ではそれぞれが持ち味を活かし、見事に困難を突破することができましたわね!」
「あっなるほど。エルミーナ、さてはお前最初のレバーパズルの時に対して活躍できなかったからあんなに張り切って」
「おっ、お静かになさいローラッド!わたくしはいま大事なお話をしているんですのよ!」
野暮な指摘に少し頬を赤らめつつ、おほん、と黄金の令嬢は仕切り直す。
「ここまでの試練は、ちょっと、とても娯楽施設というには物騒すぎではありませんかと思わないことはなかったものの、楽しく協力しながら攻略してくることができましたわ。しかぁし!」
エルミーナは特に拡声用の筒を使っているわけでもないのにどこからそんな声が出るのかというくらい声を張り上げる。
後光もいつにもましてビッカビカだ。
「この手の試練は、最後の一個が本番だと相場が決まっていますわ!ここまでの試練以上に、しっかりとした連携が大事になるはずですのよ。だからここでひとつ、皆の結束を高める音頭を取ろうと思います!」
そう得意げに宣言したエルミーナは手の甲を上にしてバッと右腕を突き出した。
「……えっと」
「ホラ早く、手を重ねるんですのよ」
「あ、ああ?」
いまいち要領が掴めていなかったが、ローラッドは言われた通り、その色白な手に自らの手のひらを重ねた。
「キスティ、ブラッディさんも!」
「あっ、はいエルミーナ様!」
「……」
「ブラッディ、手を重ねるだけだ」
「……ケッ」
ひとつ、またひとつと掌が重なったのを見て、エルミーナは満足げに頷くと、
「頑張るぞー!えいっ、えいっ、おーっ!!!」
上下に勢いをつけて手を揺らし、力強く叫んだ。
「「「おー」!」?」
呼吸ピッタリとは行かないが、他の3人もそれに続く。
「これで次の試練もバッチリ攻略できますわね!さあ皆さん、行きますわよ!」
おーっほっほっほ!と上機嫌に高笑いしながらずんずん歩いていくエルミーナ。
ローラッドには何が何だかよく分からなかったが、今まで見てきたどの姿よりも楽しそうな黄金の令嬢に、安心感のようなものを覚えていた。
(根拠はないが、確かに今ならどんな困難でも突破できちまうような気がするな)
らしくもなく中てられている自覚はあったが。
羊角の少年には、なぜだかそれが心地よかった。
ーーーーーー
さて、ダンジョンに待ち受ける最後の試練と言えば何だろうか。
巨大な迷路、あるいはなぞかけ?
いやいや、もっとふさわしいのは、強力で、強大な宝の番人だろう。
(それにしたって、これはあまりにも)
「で、デカすぎますわっ……!」
通路の先の部屋に待ち受けていた巨大なゴーレムを見上げ、ローラッドの心中の続きを黄金の令嬢が代弁した。
番人を倒すだけの単純明快な『最後の試練』、開始である。
読んでいただきありがとうございます!
遅くても3日ごとに更新予定!
ゲリラ更新するときはTwitter(@avata_futahako)でお知らせするのでフォローしてね!
あと、評価やブクマ、感想をもらえると嬉しいです!




