【第4章】娯楽と交渉は紙一重_012
『身体の試練』の仕掛けはその名の通り、基本的には身体能力を試すものばかりだ。
直前の『知恵の試練』と対のつもりらしく、例えば高い段差をよじ登るとか、ロープにつかまって飛ぶとかした先にスイッチがあり、それを押すことでドアが開いたり、梯子が降りたりして先に進んで行けるようになっているのだ。
いままさにローラッドとブラッディが対しているのもまた、向かい合わせの高い壁を交互に蹴って上らなければスイッチが押せないようになっている。
はずだったのだが。
「ブラッディ、上のスイッチだ!」
「了解ッ!」
ばさり、とコウモリの翼を羽ばたかせ、ブラッディは難なく壁の上部にあるスイッチを押した。
直後、ガコン!と何かの仕掛けが動く音と共にローラッドの目の前にあった壁が倒れ、先に進めるようになる。
「なんかズルしている気分だな」
「ご主人、今更なに言ってやがる」
微妙な表情で走り出した羊角の少年に追走する桃色の使い魔少女はにやりと笑った。
「看板のどこにも『飛行禁止』とは書いてなかっただろ。飛ぶくらい良いに決まってるさ。もし想定していなかったんだとしたら、それは設計者のタイマンってもんだ」
「……まぁそうか」
未だに少し納得いっていない雰囲気の主人の肩をバシッと叩き、「いいじゃねえか」と桃色の使い魔は上機嫌だ。
「ほらみろあっちのコースを。あいつらは結構苦戦しているみたいだぜ?」
ブラッディの指さす先、つまりもう片方のコースでは確かに、ローラッドたちの進んでいる所よりも後ろの方で黄金と白金が団子になっていた。
ーーーーーー
「キスティ、あなたもうちょっとちゃんと立っていられませんの!?」
「いやぁ立っていたいのはわたしもやまやまなんですがね!エルミーナ様を、か、か、肩車しているかと思うとっ!!!」
「ああもうほとんど壊れ始めていますわこの方っ」
ーーーーーー
……単純な身体能力の欠如ではない部分に問題がありそうだ。
ローラッドはエルミーナがすこし哀れになったが、今は先に進まなければ。
「クククッ……!笑えるぜ。ご主人、また邪魔されないうちにどんどん進んじまおう」
まあそれもそうなのだ。
桃色の使い魔が言った通り、先行し始めたことでローラッドたちはエルミーナたちの仕掛けに連動した罠を食らわなくなっていた。
もちろんその逆も然りなので、ローラッドは余計に後ろ髪をひかれつつも使い魔の提案に首肯する。
数秒後、ローラッドたちの目の前には上下に分かれた通路が現れていた。
透明な板に仕切られた上下の通路は上からロープを引かなければいけない壁、下から持ち上げないと通れない床など、相互にタイミングを合わせなければならない仕掛けが見えている範囲だけでもいくつかある。
「オレが上を行く」
「ああ」
だがローラッドもブラッディもひるまない。
少しの目くばせでリズムよくギミックを作動させながら、お互いの通路から妨害を取り除いて走っていく。
そのままあっという間に上下通路を突破。
ハイタッチすらせずに主人と使い魔は突き進む。
「ケケケッ。楽勝だな、ご主人。こんなの、リリスのカス野郎が振ってくる理不尽に比べりゃ」
「危ないっ!」
直後、閃光にすぐ反応したのは羊角の少年。
軽口を叩く使い魔をローラッドは抱きかかえ、押し倒すように伏せさせる。
「なんだよご主人、いきなりスケベなヤローだな。乱暴なのがお望みか」
「ふざけているわけじゃないのは伝わってるよな?」
「当然だろ。こっちの罠が作動したってことは……」
目の前の壁から噴き出した炎に髪の毛が焼けたのをパタパタと手で払いながら立ち上がり、使い魔はもうひとつのコースの方を見た。
ーーーーーー
「ここから巻き返しますわよっ!」
「ハイ、エルミーナサマ」
こっぴどく叱られたのか、あるいは『閃光パターン』による暗示を受けたのか。
打って変わって真面目になったキスティがエルミーナと共に進む。
「それっ」
閃光が瞬き、コースの壁に微細な傷の模様を描き出した。
「ふっ」
それを足掛かりに、身軽なキスティが駆けのぼり、時に『懲罰棒』を壁に突き刺してさらなる足場として壁の上部にあったギミックを作動させている。
ーーーーーー
「あいつら的にも、スイッチを作動させているから不正じゃない、って線引きみたいだな」
「それならもう吹っ切れるな」
ローラッドの目に覚悟の炎が灯る。
「すまないブラッディ。俺たちも急ごう、全力で」
「そうこなくっちゃな!我が『ご主人サマ』!!」
結局のところ、そう。
冷静を気取っていた羊角の少年とて、ダンジョンをまともに攻略する競争をずっとしたいと思っていたのだった。
読んでいただきありがとうございます!
遅くても3日ごとに更新予定!
ゲリラ更新するときはTwitter(@avata_futahako)でお知らせするのでフォローしてね!
あと、評価やブクマ、感想をもらえると嬉しいです!




