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【第4章】娯楽と交渉は紙一重_011

 通路を進んでいると間もなくだだっ広い空間に出た。

 市場がひとつ丸ごと入ってしまいそうな大部屋の壁にはまるで神殿のように太く大きな石柱がいくつも並んでおり、そのひとつひとつに松明が掲げられている。

 その松明の灯りは、床に張られた水に反射して煌めいていた。


 ただ、あくまでもそれらは演出。

 見ただけでそうと分かるのは、ローラッドたちの目の前に2つの『コース』が存在したからだ。


 水の上に張り出した、床と同じく石でできた飛び石的な足場、何やらギミックのありそうな壁など、どう見てもここを『攻略』しながら進んでね、と言わんばかりのアスレチック。

 手前の看板には『身体の試練』と書かれている。


「おお、これこれ、これですわ!これぞダンジョン攻略アトラクションって感じです!」


 そんなコテコテの『試練』に、黄金の令嬢は文字通り目を輝かせた。


「ふたつのルートのそれぞれがそれぞれに影響を及ぼす。連携してゴールを目指せ、落ちれば失格……だとよ」


 ローラッドが看板に書かれたルールを読み上げると、エルミーナは満足げに「でしょうね」と頷く。


「つまり、二手に分かれて同時に攻略する必要があるってことですのよ。ウオオオオオオ、燃えてきましたわ!」

「な、なにゆえそんなにテンションが高いんだあんた……」


 アウトドア趣味もあるみたいだし、根本的に身体を動かすのが好きなのだろうか。

 どうでもいいことではあったが、羊角の少年はひとまず頭の中でそう結論づけた。


「それではそちらのルートはローラッドさんとブラッディさんでお願いします。わたしたちはこっちで」


 と、ローラッドがぼーっとしているうちにキスティはそう宣言しつつエルミーナの腕を抱き、右側のコースにぐいと引っ張った。


「いいですよね、エルミーナ様?」

「えっ?あー、えー……?ローラッドが良いなら、良いですけど……」


 羊の目に向けて、黄金色の瞳が何かを訴えかけている。


 ローラッドはそれに応えて交代を申し出ることもできた。

 が、黄金の令嬢の背後から白金色の刺すような視線が牽制していたこと。

 そして、仮にそうしたとして、さっきの今不仲を見せたキスティ・ブラッディペアで上手くいくとも思えないこと。

 これらの事情から、ローラッドは「まあいいんじゃねえのか」と返答する。


「ちょうどあんたらの相性も見たかったんだ。どっちがより早く向こう岸までたどり着けるか、競争してみるか?」

「競争、いいですね!!」


 ローラッドはエルミーナに向かって競争を持ちかけたつもりが、なぜかキスティの方が食いついてきた。


「わたしたちの主従を超えたコンビネーションを見せつけてあげますよ!」

「主従を超えた……って?」

「おい肝心のご令嬢に首傾げられてるぞ」

「要するに長年の友情と研鑽を見せるとき、ということですエルミーナ様」

「なるほど、それなら絶対に負けられませんわね!頑張りましょう!」

「ふっ、ふへっ!絶対勝ちます!愛の深さは負けていませんもの!」


 ぎゅう、とエルミーナに抱きつかれ、幸せに溺れつつあるキスティから謎に自慢げな表情がローラッドへと向けられる。


「……まあ、攻略が進むなら何でもいいか。ブラッディ」

「ああ。あんなお花畑に負けてられるか」

「俺から提案しておいてなんだけど、なんでお前もそんな乗り気なの……?」


 指を鳴らして影から出てきた使い魔は腕を組み、黄金白金ペアを睨みつけている。

 いつもは呼び出した瞬間は不機嫌なのに、いったいどういう風の吹き回しだろう。


「それじゃあ、位置について……」


 ローラッドは少しの疑問を抱えつつも、エルミーナが指(から出している黄金色の光線)で指示する位置に着いた。

 エルミーナたちも同じく、右のコースで前傾姿勢。


「よーい、ドン!」


 そしてそのまま、開始の合図とともに走り出した。


「飛ばしますわよっ!」


 エルミーナとそれに続くキスティはわりと全力疾走である。


「あいつら、こんな足場をよくもそんなに走れるな」


 対して、ローラッドはとりあえずジョギングレベルで軽く走り出した。

 足場は狭く、少しバランスを崩せば水へ落ちてしまうだろう。

 そして最初の説明であーちんから説明があった通り、水に落ちれば失格となってしまうハズなのだ。


「まあいいか、俺らは俺らで遅くなりすぎない程度に……」

「何モタモタしてんだご主人、オレらも急ぐぞ」

「あ?別にいいじゃねえか。確かにちょっと不利になるが、ノーミスで行ければ競争自体は……」

「ちげぇ!ヤなモンが見えたんだ……伏せろっ!」


 ブラッディは超音波探査用に開けていた口を閉じ、後ろからローラッドの頭を掴んで思い切り下げさせた。

 次の瞬間、コース前方の段差に空いた穴から飛び出した矢が、ローラッドの角を掠めて飛んで行った。


「よし、開きましたわ!」


 そして隣のコースからは歓喜の声が。


「……ん?」

「何ボケッとしてやがる!」


 ブラッディがとぼけた主人を怒鳴りつける。


「コースは相互に作用するって書いてあったろ!?超音波で『見た』感じ、あいつらが進むためのスイッチで起動する罠がこっちにあるっぽいんだよ!うかうかしてると、今みたいなのを無限に浴びる羽目になるぞ!!」

読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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