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【第4章】娯楽と交渉は紙一重_009

 それは、実質的な制限時間だった。

 土煙をあげながらゆっくりと、しかし着実に迫りくる壁に意志は感じられない。

 ただ、一定時間後に潰すという、それだけを役割として与えられた仕掛けだ。


「ど、どうにか止められませんの!?」

「少なくとも、俺ひとりじゃ止められないなこれ」


 羊角の少年が押しかえそうとしても壁は止まらない。


「となると、破壊ですかね」

「できるとは思えんが」

「試してみる価値はあるでしょう?」


 キスティはローラッドへぶっきらぼうに返答すると、取り出した『懲罰棒』を自身のプライマルによって刃へと変換し、壁へ一太刀浴びせかける。

 だが、壁に浅く切り傷が残っただけで、機構そのものにはまったくダメージが与えられていないようだった。


「チッ。ダメですね」

「それならわたくしが……!」

「いや、早まるなエルミーナ」


 ローラッドは『輝き』を増した大出力攻撃を行おうとした黄金の令嬢を手で制した。


「これはあくまでもアトラクションだろ。ジタリーを信じるならこれもあくまで演出。普通に考えて、そこのレバーのパズルを解けば自動的に止まるはずだ」

「そうかもしれませんが……というか、あれ?」


 不安げなエルミーナはふと、部屋の位置関係を見渡して気づく。


「壁がこのまま進めばレバーにつっかえるのだからどのみちわたくしたちを潰せないのでは?」

「それはなさそうだぜ、金ぴか女」


 だが彼女の推測はすぐさまブラッディによって否定された。


「入り口にあった看板は覚えてるか。レバーごときでつっかえるなら、そもそもあの看板で止まっているはず。だけど……」

「かかか、看板がいつの間にか無くなってますわ!?」

「うぐっ!エルミーナ様、放さ……なくてもいいですけど!落ち着いて!」


 黄金の令嬢は近くにいた白金色の少女を強く抱きしめながら一気に青ざめた。


「というかあなた方、どうしてそんなに冷静でいられますの?こんなところで、どんどん狭くなっていきますのよ!?最終的には……」

「それはさっきも言っただろ。これがあくまでもアトラクションだからだ」

「本当に殺す気ならこんな回りくどいやり方じゃなくて、もっとスパッと殺れる方法を取るはずだからな」


 迫る壁を冷静に見つめつつも「でもなー」とブラッディはため息交じりに言う。


「それはそれとして結構面倒くさいぞこれ。フツーにテキトーな壁を金ぴか女の光線で破壊して出る方が早いんじゃねえか?ご主人」

「ちょっと前だったら俺もそれがいいと思ったんだが、今の俺らは招待客だ。ジタリー側から出された条件に乗っかるのが正道だろうよ。それに……」


 ちら、とローラッドはすっかり怯えている黄金の令嬢の方を見る。


「あいつにばかり毎回損な役回りをさせるわけにもいかないだろ」

「へいへい、でも結局どうするんだよ。カッコつけたって壁を止める方法が分からなければフツーに死ねるぞ」

「それは……ん?」


 ローラッドは迫る壁を見ながらふと、ある違和感に気が付いた。


「そういや、無くなった看板はどこ行ったんだ?」

「それはご主人、壁が動き出して巻き込まれちまったんだろ。オレがさっき言ったじゃねえか」

「巻き込まれても消滅するはずはない。壊れたなら、壊れた看板の残骸が壁に押されて来ているはずだが」


 土煙が舞っていてよく見えないが、壁の下部分を見てもそれらしいものは見当たらない。


「ブラッディ、音波で探ってみろ」

「はいはい」


 大あくびをするような恰好でブラッディが大口を開けると、キィン、と人間の可聴領域を超えた超音波が室内に反射した。

 それを聞き取れるのはブラッディのみだが、彼女はこれで部屋の構造を正確に把握できる。


「……ハッ!そういうことかよ」


 ブラッディは失笑した。


「ご主人、俺ら全員目が節穴だったようだな。壁の下の方、よく見てみろ」

「……?」

「隙間が開いてんだよ。ちょっとだけな」

「壁の隙間ですって!?」


 ブラッディの言葉を聞き、エルミーナは即座に地面に伏せた。


「その隙間を通れば潰されずに済むということね!?」

「人が通るほどの隙間はねえ。それに、テメーの場合はあちこち引っかかってどのみち通れねえよ」

「なっ……!」

「あー、なるほどね」


 ブラッディの失礼な物言いに顔を赤くするエルミーナ。

 一方で、ローラッドにはもうこの試練の『答え』が見えていた。


「エルミーナ、キスティ、ブラッディも。もう大丈夫だ。順番通りにレバーを倒すぞ」

「えっ壁を止める方法は!?というか、わたくしたち4人では5本のレバーは倒せないはず……」

「だから最後の一本以外を俺たちが倒す。もう時間もないから、やりながら説明するぞ!」


 言いつつ、ローラッドは壁に正対し、③のレバーを手前に引いた。

 ガコン、と音が鳴り、壁の迫るスピードが少し上がる。


「なななななんで壁の速度がっ!」

「キスティ、エルミーナにレバーを引かせろ!」

「あなたの命令なのが気に食わないですが、仕方ありませんねっ」


 キスティはすっかり腰を抜かしてしまっているエルミーナを②のレバーまで連れてきて、しがみつかせた。

 さらに壁の速度が上がる。


「ブラッディは⑤、キスティは④を順に引け!」

「はいよ」


 ガコン、ガコンと2本のレバーが引かれ、壁の速度が目に見えて早くなる。

 残るレバーは①のみ。


「これでどうするんですのよ!①を引かないと壁が……」

「心配しなくていいぞ、エルミーナ」


 半泣きになっている黄金の令嬢に、ローラッドは冷静に最後のレバーを倒す役者を指し示した。


「①はそこの壁が倒すんだよ」

「はあっ!?」


 エルミーナがさらに疑問を呈するよりも早く、壁が彼らの元へと到達。

 あれほど止まらなかった壁は、しかし、その瞬間に停止した。

読んでいただきありがとうございます!

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