【第4章】娯楽と交渉は紙一重_006
「そりゃーっ!」
キュガッ!と。
黄金色が煌めいた次の瞬間、爆発した湖面が水しぶきを上げる。
「よぉし、あとは拾い集めるだけですわね」
ブーツを脱いだ裸足の令嬢は意気揚々と、自らが光線で爆破漁を行った湖へと入っていく。
ドレスアーマーがどれだけ濡れようと、泥にまみれようと、お構いなしである。
「ローラッド!すごいですわ!4匹もお魚が!」
「そ、そりゃよかったな」
ケンタウロスたちのいるダンジョンから少し離れた、開けた湖畔にて。
パチパチと音を立てて燃えるたき火の傍に座って火の番をしていた羊角の少年は、気絶した魚を抱えて戻ってきたエルミーナに曖昧な笑顔を見せた。
(貴族令嬢はみんなこう……なワケはないよな)
薄々感づいてきてはいたが、この令嬢はタガが外れているというか、ぶっ飛んだ行動に出ることがある。
ローラッドは今まさにそれを全身で体感しつつ、脱いで広げたドレスアーマーの上に魚を並べ始めた下着姿の令嬢を後ろから眺め、謎の無力感に包まれていた。
「あなたは何匹食べたいです?」
「い、一匹……?」
「ならわたくしが三匹食べちゃお」
露骨にテンションが上がっているエルミーナは魚の腹に指を添えると、そのままスッと横へ動かした。
一見ただなぞっただけだが、魚の腹はスパッと切り裂かれていた。
「光線で切ったのか」
「その通り!わたくしの手にかかれば、魚の一匹や二匹さばくのに刃物は要りませんわ。おーほっほっほっほ!」
高笑いしつつ、黄金の令嬢は手際よく魚の内臓を取り、下ごしらえした身をその辺で拾ったであろう木の枝に突き刺していく。
一方、ローラッドはただ火を見つめているだけだ。
「俺はこういう時まったく役に立たねえな……」
「あ~冷えた身体にたき火のぬくもりが沁みますわね!って、どうしました?」
「いや、なんでもない」
「むむっ」
枝に突き刺さった魚をたき火の周りに並べつつ、エルミーナはローラッドの隣に座った。
「そういうところですわよローラッド」
「そういうところ……?」
「今回のキャンプで、わたくしたちの認識を合わせなくてはならないところです」
燃え盛る火に手をかざしながら、黄金の令嬢は羊角の少年の顔を見た。
「あなたはわたくしのことを信頼して、色々と身の上のことを話してくれましたよね」
「あ、ああ」
「けれど、わたくしはやっぱりまだ壁を感じますの」
「うっ」
エルミーナが壁、というものにローラッドは心当たりがあった。
当然、黄金の令嬢はそれを見抜いていたから、こうして隣に座っているのだが。
「ジタリーさんへの訪問、正直もう少しうまくやれた気がします。それはいきなりだまし打ちをしたあなたにも、キャンプができそうにないからとヘソをまげて周りをよく見ずに突っ込んだわたくしにも落ち度があると考えていますの」
「キャンプの方は結局こうして敢行されているがな」
「そ、それは……確かに、親睦を深めるのを口実に使ったことは認めますけれど!それはもうごめんなさいですけれども!」
エルミーナは言い訳をしつつ、ずい、とローラッドに顔を寄せた。
「要するに、わたくしをもっとちゃんと信用してほしい、と言いたいのです。ローラッド、あなたはだまし打ちをすることをわたくしに共有したら、物事が上手くいかなくなると考えていきなりあのような行動に出たのでしょう?」
「そりゃあ……まあな」
ローラッドは迫りくる黄金色の瞳から顔をそむける。
「実際、正々堂々と交渉しよう、とか言い出してただろ。あんたは」
「そうでしょうね。でもあのような手を使った結果として、結局追い返されてしまったうえに無駄な反感を買ってしまいましたわ。ジタリーさんがまだ好意的だったからよかったものの、もしかするとここで『策』も頓挫していた可能性があったのです」
「じゃあどうしたらよかったんだ?」
「それは……正直なところ分かりませんわ」
けど、とエルミーナはローラッドが顔を逸らした先に回り込んで続ける。
「相談していただけていたら、違う結果があったかもしれませんわ。それに言っておきますが、わたくしはなにも何事も正々堂々とやろう、と言っているのではないのです」
「そうなのか……?」
「ええ。『手段を選ばない』ことにはわたくし、同意していますしね。ただし!」
黄金の令嬢はまたも目を逸らそうとした少年に前を向かせるために、その頬に手を添えた。
「わたくしという『手段』を、ちゃんと信頼して利用してください。わたくしも、あなたという『手段』を信頼していますので。結構役に立ちますのよ?」
「……わ、わかったよ」
見つめ続けられ、とうとう根負けしたローラッドは首肯した。
「そこまで言うなら、これからは俺はお前が期待に応えてくれることを前提に行動する。たとえ騙しでもなんでも、『手段』としてお前を信頼する」
「ええ、是非そうしてくださいまし。だから自分ひとりが非力な場面があっても、わたくしを使ってそれが解決できるなら、嘆くことはないのです」
「なっ」
「ふふふ、『夢』を持たない女の観察眼をナメてもらっては困りますの。エルミーナ・ウェスタリアス・アルゴノートは泥水を啜ってでも立ち上がる女。当然サバイバルスキルもありましてよ」
ふふん、と得意げに胸を張るエルミーナ。
そんな本人の態度に対し、泥まみれの下着姿というのがなんとも間抜けで、ローラッドは思わず笑ってしまった。
「な、なにが可笑しいんですの」
「いやなに、カッコつけるなら服くらい着ておけよと思ってな」
ローラッドは上着を脱ぎ「ほら」と差し出す。
「大事な『手段』なんだ。また熱でも出されたらたまらん」
「またって、前のはあなたがやったのでしょうに!けど、ありがとう」
差し出された上着を羽織り、黄金の令嬢は微笑みを輝かせる。
「さ、そろそろ焼けたんじゃないです?」
「なあ、やっぱ俺も二匹食べていいか」
「もちろんですわ!」
「結構うまそうに焼けてるじゃん。ところで、これってなんていう魚なんだ?」
「知りませんわ」
「ええ……」
美しい空の下、輝かしい夜が更けていく。
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