【第4章】娯楽と交渉は紙一重_004
「こちらです❤」
「助かる」
正気を失った門番のケンタウロスに案内され、ローラッドたちは一対の大扉の前まで来た。
扉は上質な木材の上から一見それとわからないように丁寧に塗装され、使われている金具にも鯖ひとつ浮いていない。
その大きさもあってか、金銀で飾られているわけでもないのに、石炭の坑道を補強したようなアドベンチャー感たっぷりの道中と異なる高級感が漂っている。
「失礼のないようにお願いします❤ジタリー様は偉大なお方ですので❤」
「分かった。開けてくれ」
門番が両手で押すと、重量感はありつつも殆ど音を立てずに扉が開いていく。
「ジタリー様、お連れしました!」
「あいあいなるほど。おフロを楽しんでたのに出ろって言うならどんなのが乗り込んできたのかと思ったら……」
門番がかしずくと、人間側の胴体を載せる台にしなだれかかるようにして横になっているケンタウロスがいる。
肩にかかるほどの長さの焦茶色の髪はウェーブしていて、さらに赤色の染料で少しだけ染められている。
身体は少し濡れていて、耳にはいくつかのピアスが光るその女ケンタウロス、ジタリーは不安顔の訪問者を見てにやにやと笑った。
「りーりーのとこのおちびさんじゃん、ウケる。そんな怖い顔してどしたん」
「りーりー……?」
「リリスのこと。もー、察しが悪いぞ少年!」
何がおかしいのか、ジタリーはケラケラと笑って告げる。
「リリスの血を引く淫魔がわざわざこんなケンカ相手のど真ん中になんの話?ってこと」
ジタリーは笑っているだけでなんの合図もしない。
だがローラッドは、周囲の闇の中から自分に向けられる殺気のようなものを感じ取った。
「いちょ言っとくと、ウチらりーりーとはけっこうバチバチだからね。今回もあーちんに余計なちょっかいをしてくれたみたいだし、何。ケンカ売りに来たの?」
「怒らせたならすまない。無理やりここまで侵入したことは謝らせてくれ」
だが、とローラッドは続ける。
「俺たちは協力を打診しに来たんだ。必要ならそこのそいつは『夢』から覚めさせる」
「協力ってなんのー?」
「リリスを倒す」
「……へえ」
リリスを打倒する。
そう言った瞬間に、ジタリーの空気が少し変わった。
(やっぱ結構嫌われてるな、リリスのやつ)
少し情けないような気持ちになりつつも、そうでなくては『策』も成り立たないので、ローラッドはとりあえず状況に感謝した。
「そんじゃまずあーちんを元に戻してくれる?語尾にハートつけて喋るの、ぜんぜんこのコのキャラじゃないから」
「わかった」
ローラッドがパチン、と指を鳴らした瞬間「はっ!?」と、門番ことあーちんは我に返った。
「わ、私は一体何を……!?」
「だいじょーぶ。とりまそこの、えっと」
「ローラッドだ」
「……らんらんとお喋りしてるとこ」
「ら、らんらん……」
羊角の少年は先ほどからジタリーの独特な言語センスが気になって仕方ないが、指摘しても話がややこしくなるのでぐっと堪えた。
「そだ。ついでに聞いとくけどその後ろの子は?」
「はいっ!エルミーナ・ウェスタリアス・アルゴノートです!ローラッドのお友達ですわ!」
「ふーん。なんだ、らんらんのぴではないのか。よろしくー」
「よ、よろしくお願いします……?」
社交経験の豊富なエルミーナも、ジタリーの独自言語には流石についていけていない。
「あとひとりいるよね。らんらんの影の中かな?」
だが、ジタリーの抜け目のなさは一級品だった。
「……ブラッディ」
「ちっ」
ローラッドが小さく声をかけると、その影から少しだけ桃色の少女が顔を出し、舌打ちをして、すぐに引っ込んでいった。
「なるほど吸血鬼の子かぁ……うーん」
「どうした?協力の具体的な話がしたい。アラクネにはすでに話がついていて、ここに手紙が……」
「いやあのね、らんらんの距離感のヤバさは一旦置いておくにしてもだよ」
ジタリーは少しあくびをしながら、ローラッドの話を遮った。
「焦りすぎー。ウチらは敵かもしれないらんらんをここまで入れてあげているんだから、ウチらの話から聞くのがスジじゃない?」
「……わかった」
「よろしい。それじゃあらんらんの話を聞く前にー、ウチらの状況から言わせてもらおうかな」
ジタリーは伸びをして、のろのろと立ち上がった。
寝ている時の何倍も背が高くなり、ローラッドは少し威圧感を覚えた。
それが彼女の狙いでもある。
「すごく簡単に言うと、『魔界』締め出されて、お金がなくて、ちょータイクツしてる。だから元凶を作ったりーりーにはちょっと謝って欲しいし、無理やりここまできたらんらんのこともしょーじき嫌いかも」
「っ……!」
「あはは、怖い顔しないでってば。だから、話を聞く前にお願いがあってさ」
ジタリーは再びケラケラと笑いながら告げる。
「ウチに話を聞いて欲しかったら、ごめんけどもう1人連れて出直して来て。『おもてなし』の準備をしておくからさ」
「おもてなし……?」
「そ」
ケンタウロスのリーダーはばばーん、と両手を広げて、
「ここ、ぜんぶ娯楽施設にするからさ。そのテストをさせてよ」
と、ローラッドが思わず耳を疑うことを宣言した。
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