【第4章】娯楽と交渉は紙一重_003
「わあ!すごく大きい滝ですわね!」
馬車で移動していたとはいえすでに日も落ち始めたころ、ローラッドたちはケンタウロスたちが住処にしているダンジョンがあるらしい湖に到着した。
エルミーナが言葉にしたように、小さな村なら丸ごと入ると思えるほど広く水を湛えた湖にはそれ相応と言わんばかりの滝が注いでいる。
霧状になった水しぶきに夕日が差し込み、ちょっとした絶景スポットだ。
「はぁ……でも、こんなことをしていると時間があっという間に過ぎていきますわね。できれば今日中にお話ししたいところなのに、野宿も視野に入れなきゃいけないかしら。ああ、いけませんわ。こんな綺麗な湖のほとりでやることもなく、仕方なく星空を眺める一晩を過ごす羽目に……」
「いや、その心配はいらない。すぐに話せるはずだ」
不安げに呟くエルミーナに対し、ローラッドはきっぱりと断言した。
「……そこまで言うならそれなりの根拠があるのでしょうね?」
「まあな」
実はちょっとだけ野宿とやらをしてみたいと思っていた黄金令嬢が不機嫌に問い返すと、羊角の少年は滝の方を指さした。
正確には、その後ろ……滝の裏側にある洞窟を。
洞窟それだけならただの自然の一風景に過ぎなかったのだが、ご丁寧にもその手前から洞窟へと続く木の舗装路が敷かれており、燃え盛る松明が取り付けられた門らしきものもある。
距離が遠くて読めないが、その傍には看板まで立ててあった。
「いったい何のつもりか知らねえが、どうも隠れる気はないようだな」
「っ~~~、そうですわねっ!それじゃあさっさといきますわよ!!」
「そう焦らなくていいぞエルミーナ。周囲の状況を軽く確認してから……」
「あちらが隠れる気が無いなら、こちらだって堂々と入場してやればいいんですのよ!」
「あっ、おい待てって……」
ズカズカと歩いていく黄金の令嬢を追いかけながら、ローラッドの脳裏に懸念がよぎる。
(罠とか、ないといいけど)
アラクネ曰く、ケンタウロスは正々堂々とした振る舞いを好むと言うが、果たして。
ーーーーーー
「貴様ら、止まれ!」
滝の裏の洞窟に立ち入ったローラッドたちを出迎えたのは、有無を言わせない凛とした声と足元に突き刺さった矢だった。
「ほらみろ罠だ」
「ち、違いますわ!わたくしたちがなにかあの方に無礼を働いてしまったのです、たぶん!」
壁に無数の松明が設置された明るい洞窟の中。
エルミーナが指し示す前方には扉があり、その横に門番が立っていた。
半人半馬で筋肉質、衣服は胸に巻いた布のみ、そして気位の高さが釣り目に現れた女のケンタウロスだ。
頭の後ろの高い位置で縛ってある栗色の髪の毛が、洞窟内を吹き抜ける風に煽られて馬の尾のように揺れている。
「今日はもう訪問者を受け付けていない!明日の夜明けまで待って出直せ!」
門番はさらなる矢を矢筒から取り出して声高にそう告げた。
「あら、だそうですわローラッド。これはもう大人しく野宿」
「すまない、俺たちは急いでいるんだ。どうにか代表者と話をさせてくれないか?」
「それはできない」
ローラッドが前に進み出て頼み込むも、門番は頑なだ。
「リーダーは夕陽が差し始めたら湯浴みをするのだ。客と言えど、例外はない。表の看板にもそう書いてあっただろう」
「そ、そうだったのですね。おほほ……」
ローラッドが無言で振り返ると、黄金の令嬢は気まずそうに目を逸らした。
「まあ、読まなかったのは俺たちだ。仕方ねえ」
ふぅ、と息を吐きつつ、ローラッドは背後のエルミーナにちょいちょい、と手招きする。
「ごめんなさい、わたくしが急かしたばかりに話が……」
「そんなことはいい。それよりエルミーナ、もうすこし後ろの方に立てるか」
「そりゃできますけど、なぜ?」
「いいから……よし、その辺だ」
ローラッドは後ろ歩きで下がるエルミーナに、ジェスチャーで止まるように指示する。
「そしたら、そこでもう少し輝けるか?俺がいいって言うまで出力を上げろ」
「は、はあ。えっと、門番の方!」
「なんだ!」
エルミーナはケンタウロスの門番に手を振りつつ、『輝き』を増していく。
「わたくし、ちょっと明るくなりますから、眩しくなったらおっしゃってください!」
「……何のつもりだ?妙な術を使っても、ここは通さないぞ」
訪問者の不審な行動に、ケンタウロスの門番は手にした矢をつがえ、一気に引き絞れるように準備した。
(いくら目くらましをされようと、この矢は絶対に外さない)
人間のそれよりも遥かに良い視力で、訪問者たちの挙動を観察する。
(妙なことをしたらすぐさま射抜いてやる……!)
「よし、いいぞ。あと、少しだけ屈んでくれるか?」
「こ、こうですか?」
「そのくらいだ」
黄金の令嬢は少年の言葉に従い、『輝き』の出力を止めつつ、膝に手を突いて姿勢を低くした。
(何かの攻撃か……?)
ケンタウロスの門番は矢を持つ手に力を込める。
まさに臨戦態勢。
そんな中、ひとりだけ状況を把握し切っていた少年が発したのはただ一言だ。
「ブラッディ、やれ」
「りょーかい」
ずっ、と。
ケンタウロスの門番の背後まで伸びたローラッドの影からコウモリの使い魔が飛び出した。
「なっ……!」
「ゴメンなケンタウロスのねーちゃん、一瞬チクッとするぜ」
「ぐっ!?」
首筋に牙が突き立てられると同時、門番は脚から力が抜けてへたり込んだ。
「時間が無いんだ、本当にすまない」
そして、黄金の令嬢が呆気に取られている間に羊角の少年は門番に近づき、その頬に手を添えながら目を覗き込む。
「代表のところまで案内してくれ」
「は、はい……❤仰せのままにっ」
ブラッディの牙から分泌された毒による神経伝達率の低下を『感度自在』で補われた門番は立ち上がり、背後の扉を開けた。
「よくやった、ブラッディ」
「おう」
短くやり取りをし、使い魔は主人の影へと帰った。
「よし、行くぞエルミーナ」
「……」
「どうした?」
「……なんでもありませんわ」
だまし打ちにするだなんて、と。
喉まで出かかった言葉を呑み込み、黄金の令嬢は先を歩く少年の背を追った。
手段は選ばないと、そう決めたのだから。
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