【第3章】ダンジョン攻略狂騒曲_033
「ここで寝る?床で?どういうことだ。あ、ケルベロスと一緒に寝ていたら安全とかそういう」
「何をとぼけていますの。寝るのはベッドでしょう」
「じゃああんたが寝るのは?」
「え?わたくしもベッドですけど」
「…………?」
やっぱり意味が分からない。
それでは、2人で同じベッドに寝ることになるのでは?
「ほら、先にお布団の中を温めておいてくださいな」
「ちょちょちょっと待った!」
ボケッとしている間に布団に押し込まれかけるところまで行ったローラッドは一応抵抗してみる。
「な、なんで俺をあんたと同じベッドで寝かせようとする!?さっきの俺の話聞いてたか?俺は『淫魔』で」
「リリスの息子で『指輪』をしてて、あと何があります?」
指折り数えてすっとぼけるエルミーナ。
「さっき夢の干渉の話もしたよな!?俺の近くで寝たら、夢を介してリリスが……」
「わたくしも言いましたわよね?わたくし、夢は見ませんの。だから夢の干渉は問題ないですわ」
「いや、でも」
「あっ、もしかして初日にわたくしを避けて隣の部屋に行ったのはそういう……?」
「そうだけど!いや、それだけじゃないっていうか」
ローラッドは焦っていた。
彼は魑魅魍魎の巣くう『魔界』では、そりゃあもう『精霊界』の倫理観では考えられないような淫猥でタガの外れた格好をした者や出来事を飽きるほど見てきた。
しかしながら、である。
逆になんか純粋な寛容さというか、そういう感情には依然慣れていないのだった。
「ほらごちゃごちゃ言ってないでさっさと布団に入っていなさいな。わたくしも身体を清めないといけないのですから」
「待て!なんでここで脱ぎだす!?」
「え?だから身体を清めるために……」
「俺もいるのに!?」
「あなたはとっくの昔にわたくしの裸を見ているではありませんか。見苦しいという話でしたら、『輝いて』おくので目の感度を適宜調整していただければ」
「わ、わかった!わかったから!!」
もうお手上げだ。
ローラッドは指示通りベッドに横たわって布団を被った。
もちろん、目はエルミーナとは逆方向の壁を見つめている。
別に裸の女などいくらでも見てきたし、エルミーナの裸も見たことがあるはずなのに、背後で黄金の令嬢が身体を拭く音や、ごそごそと衣擦れの音を立てるのがやけに大きく聞こえる。
(い、意味が分からない……!一体なんの冗談だこれは!)
「ローラッド?もうこっちを見てもいいですわよ。パジャマを着ましたので」
ローラッドを気遣う(?)声に彼が恐る恐る振り向くと、そこには彼が今着せられているのと同じパジャマを着た黄金令嬢がふふん、と胸を張って立っていた。
「ほら、おそろいですわ!こういうの一回やってみたかったんですのよね」
「こういうのは普通同性でやるものなんじゃ」
「『常識の上で足踏みをせず進め』とは、アルゴノート家の家訓ですわ!」
「倒すべき『敵』がより明確になったようだな……!」
「さ、お隣を空けてくださいな。わたくしも入りますので」
「っ!」
エルミーナはランプを消し、ぽやーと少し輝きながら全く躊躇なく布団の中へと入ってきた。
慌てて壁へ向き直ったローラッドは自分の鼓動が加速するのを感じる。
「ほら、温かいでしょう?これならぐっすり眠れること間違いなしですわね」
「あ、ああ」
「わたくしが眩しいのは許してくださいな。寝れなさそうなら、そのまま壁の方を向いていて構いませんので」
「そうさせてもらうよ……っ!?」
もうここまで来たら気にした方が負けだ。
このまま黙って寝てしまおうと考えていたローラッドは、腕に何かが触れたことで身体を強張らせた。
その正体はもちろんエルミーナの手だ。
「あ、ごめんなさい。嫌でしたか?」
「嫌とかじゃなくて、な、なにゆえ俺に触れる?」
「言葉遣いがヘンですわよ」
ローラッドはお前が言うなよ、と言いかけたのを飲み込んだ。
そうしている間にも、令嬢の細指がローラッドの腕をゆっくりと這う。
「こうして触れ合っているほうがきっとよく眠れますわ」
「……何を根拠に?」
「昨晩はキスティさんがこうして寝てくださったのです。根拠はそれです」
「な、なるほど」
目つきの悪いあの女も役得をたっぷり楽しんだらしい。
(背に腹は変えられない状態だったとはいえ、『親衛隊』にいるような女とエルミーナを2人きりにしたのは失敗だったか?)とローラッドの脳裏に薄い後悔がよぎる。
「ではおやすみなさい、ローラッド」
「お、おやすみ」
ローラッドは言いつつ諦め半分で決意し、まぶたを閉じた。
しばらく経つと、背後からすうすうと寝息が聞こえ始める。
「……寝るの早いな」
少年が呟いても返事はない。
さて、相変わらずの花の香りがする。
背中に触れる感触も温もりも初めてだ。
あとは、黄金色の光。
(ブラッディが寝れないって言ってたのはこれか……!)
羊角の少年は以前に使い魔が言っていたことをようやく身体と心で理解できた気がした。
確かに、気になるものが多すぎて寝れたものではない。
(それでも気にしなければ「)んっ……!?」
またも未知の感触が少年の思考にがっつり割り込んできた。
さわさわ、と。
令嬢の手が移動し、今度は角を撫で始めたのだ。
すごくむず痒い。
「エルミーナ?何をひゃっ」
ぎゅ、と。
しなやかな手が少年の角を強く握った。
あまり体感したことのない感触が角の付け根から迸る。
「こんなことされて眠れるか……!」
ローラッドは振り向いてやめさせようとしたが、角をホールドされているために首が回らない。
というか、なんだか心地が良くなってきた。
(なんだこの、敗北感というか、なんとも言えない感覚は……)
謎の敗北感に、なんとかエルミーナを起こさずに対処できないか、と思案するローラッド。
しかし彼も蓄積しすぎた疲労がまぶたへと砂のように被さっていくのには耐えられず、どこかの段階で、深い眠りへと落ちていった。
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