【第3章】ダンジョン攻略狂騒曲_031
「出し抜く……?」
きょとん、とするエルミーナにローラッドは力強く頷いて見せる。
「あんたの父親に会って痛感した。俺が単独でどれだけやったってあの『貴族』には勝てないし……それはたぶん、リリスについても同じだ。あっちは『手段』を選ばない。だから俺たちも」
「ま、待ってくださいな?」
力説する羊角の少年にずい、と迫られたのを、黄金の令嬢は冷静に手で押し戻した。
そして涙を拭いながら問う。
「いったい何の話ですの?その『リリスさん』はどなた?手段がどうとか、なんのこっちゃなのですけれど……」
首を傾げられた少年はハッと我に返った。
「そ、そうだった……まずは、色々共有するところから始めないといけないな」
ローラッドは額に手を当て、これからしなくちゃいけないことを整理した。
その最初の障壁は……。
(まずはエルミーナに『魔界』が本当にあること、俺が『淫魔』の息子であることを信じてもらう必要がある)
しかし、真顔でそんな、誇大妄想そのもののようなことを語って聞かせても信じるだろうか?
実際、以前にブラッディが口走ってしまった時、エルミーナは『凝った設定』だと受け取っていたが。
(けど、信じてもらうしかない)
『手段』を選ばないという決断、そのひとつにすぎないと自分に言い聞かせ、ローラッドは口を開く。
「エルミーナ。聞いてくれ、実は俺は……人間じゃない。『魔界』から来た、『淫魔』の息子なんだ」
「まあ、そんな感じはしていましたわよね」
「あ、あれっ?」
すごーく、あっさり。
エルミーナは少年の一世一代の告白をさっと流した。
「そんなにするりと呑み込めるものなのか!?『魔界』で『淫魔』だぞ!?」
「だって、以前に言っていたじゃありませんか自分で」
「いやその時は『設定』だって……」
「ええ。お父様の日記帳にも似たことが書いてあったので、以前に他の方に聞いたらそれはよく練られた設定だね、と。ただ、わたくし疑問だったのです。『夢』を禁ずるほどのお父様が、日記にそんな『設定』を書くのかしら?って」
「……あっ!」
ローラッドはつい声に出してしまったが。
そういえば、確かにエルミーナは『日記帳』を読んだと言っていた。
その反応を見て、エルミーナは「思い出したようですね?」とニコニコ笑っている。
「角があり、翼を持ち、尾の生えた、獣の目をした人間。あなたには翼と尾はないようですけれど」
「今は出してないんだ。翼の方は今日けっこう使った……って、そういうことじゃなくて!」
「ではどういうことですの?」
「百歩譲って、まあ、『魔界』だ『魔族』だはいいとして」
ローラッドは慌てつつも、「自分で言うのもなんだけど」と前置いて続ける。
「『淫魔』だぞ。吸血鬼とかじゃなく、夢に出ては淫乱なことをするで有名なエロ悪魔。その息子が俺って話は……」
「ええ、それが?」
「……気持ち悪いとか、思わないのか?」
「なーんだ、そんなことを気にしていらしたのね」
エルミーナはさっきまでの泣き顔が一転、あきれ顔でローラッドを見つめる。
「知り合った方と夜に会ったら、昼に会った時にはなかった角が生えていても、まあそんなものかな、で流しちゃうような女が、その元の種族がどうとかで気にすると本気でお思いですの?」
「そこは『根源資質』の話で誤魔化せていたのかなって……」
「まあ最初はそう思っていたのも事実ですわね。けど」
黄金の少女は自らの身体を腕で隠すようにしつつ、少し身を引いた。
「角に目にと状況証拠も積み上がっている所に『魔族』の話をされ、さらには数々の『技』まで見せられれば、誰だって普通の人間じゃなさそうだなって思います」
「……それはもう、おっしゃる通りで」
「誰かさんは自らを『吸血鬼』みたいなものと言っていましたけれど?人を裸にしたり犬にしたり興奮ガスをバラまいたりと披露しておいてよく誤魔化せるとお思いでしたわね」
「ごめんなさい」
「責めているわけじゃないのです。あなたの抱えている事情も、少しは分かってきました」
エルミーナはわざと作っていた不満顔を崩し、再び微笑んで言う。
「私たちはバディなのですから。これからは、もっと素直にお話してくださいましね?」
「はい……全部話させていただきます」
もうちょっと順を追って話すつもりだったが、ここまで来たらもう全面降伏するしかない。
ーーーーーー
それからローラッドは自分の母親、リリスのことと、襲撃に遭ったこと、『指輪』のこと。
加えてエルミーナの父親から聞いたことなど、知っていることを洗いざらい話した。
「……『魔界』からこちらの世界への侵攻、逆に『魔界』に侵攻しようとしているお父様。そして、あなたを縛る淫魔の女王、リリス。あなたこれ本当に全部ひとりで抱えようとしていましたの?」
そして話を聞き終わったエルミーナは再び呆れ顔だ。
気まずそうに頷くローラッドに「なるほど」と呟く黄金の令嬢。
「ひとつずつ対応していくしかなさそうですわね……とりあえず、その『指輪』はなんとかしないと。周辺にも被害が出てしまいます。今は休眠状態なのでしたっけ?」
「一応、そうみたいだ」
ローラッドは右手薬指に絡みついている『指輪』を見る。
先ほどまで鮮血色の輝きを放っていたその宝石が、なぜか今は色褪せて沈黙していた。
「またいつ活性化するか分からない。アラクネの説明じゃ、光を見ると影響があるって話だったけど」
「けど街の人々は活性化した光を見る前から暴動状態でしたものね……一応手袋で覆っておけば、光の直接的な影響の方は軽減できそうです」
「だといいんだが……」
「外せない上に被害もあるだなんて……まさに『呪いの指輪』ですわね」
「そんなもんを息子に探させるなよな……ったく」
愚痴りつつ、ローラッドは「でもまあ」と切り替えて続けた。
「良いこともひとつあった」
「それはどういう?」
「思いついたんだ」
聞き返すエルミーナに羊角の少年はにや、と笑って答える。
「クソババアとクソ親父を出し抜く策を、この指輪のおかげでな。悪いがこの策にはエルミーナ、あんたの協力が必要不可欠だ」
エルミーナはテルの日記帳を読んでいた……?
と、よくわからないと思った方は【第1章】指輪と光と犬とキスと_013をご参照のこと!
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