【第3章】ダンジョン攻略狂騒曲_028
「クソッ!」
「あいつらを止めたければ、全員眠らせたら?いい『夢』が集まりそうだし、グッドアイデア~♪」
おちょくる声を無視し、ローラッドはまず妻らしき女に馬乗りになって拳を振るう男の元へと駆けた。
「おい、俺の目を見ろっ!」
「なんだおま、え……」
獣の目を見た瞬間、男はばたり、と倒れる。
ローラッドは男が殴っていた女を確かめたが、気絶しているだけのようだった。
もっとも、内部的なダメージがどれほどあるかは未知数。
それを判断する知識も、時間もない。
「『感度自在』ッ」
脚力を強化し、ローラッドは包丁を持って子供を追い詰めている女の肩を掴み、振り向かせる。
「もうやめろ!」
「なによあんた!家庭の問題に口を出すなぁッ!」
「ぐっ……!」
包丁で切り付けられ、顔を庇った左手から赤色が滲む。
だが目を合わせることには成功。女は『眠り』、地に伏せた。
「これでなんっ」
直後、羊角の少年のこめかみに鈍痛が走る。
揺らぐ視界が捉えたのは、母に追い詰められていた子供が投げた、こぶし大の石。
「おっ、お母さんを傷つけるな!この悪魔!!」
子供は更に何かを言っていたが耳鳴りの向こうに埋もれ、ローラッドには聞こえない。
(しまっ、た……)
どうしてか、ローラッドは言葉が出せなくなっていた。
言葉が出せれば、使い魔を呼び出してこの窮地を……。
窮地を、どうする?
『夢』に目が眩み、隣人にさえ暴力を振るう彼らを、どうやって救うのだ?
騎士ではない、人間ですらない『悪魔』に、何ができる?
ぼやけた思考が絶望へと沈んでいく。
「そこのあなたたち!こちらを見なさいっ!」
耳鳴りを突き破るほどの力強い、黄金色の声が聞こえたのはその時だった。
「……おい、あんたは、寝てなきゃ」
そして、声のした方向を向いた直後。
羊角の少年の視界は黄金光に塗りつぶされ、意識さえも光の中へと消滅した。
ーーーーーー
「ローラッド……ねえローラッド、起きてくださいな」
「お嬢様、ゴ……その男は先ほどの閃光で気絶しているだけでしょう。無理に起こすのはやめた方がよろしいのでは」
頬をぺちぺちと叩かれる感覚と頭上で飛び交う少女たちの話し声に、ローラッドは目を覚ました。
頭が痛いが、意識は割とはっきりしている。
だが、何かに覆われているのか目が全く開かない。
とりあえず前も後ろも何か柔らかい感じなので、心地はいいのだが。
「大丈夫、ローラッドは人一倍頑丈ですから」
「そうなんですか?」
「多分……でもどうしましょう、起きなかったら。わたくしはローラッドを助けようと……」
珍しくしょぼくれたエルミーナの声を聞き、このまま黙っていても面白いか、と一瞬頭をよぎったローラッドだったが、恩を仇で返すような性分ではない。
「多分ってなんだよ。テキトーなことを言うな」
「あっ!目を覚ましましたわ!!」
羊角の少年が身を起こすと、すぐさま令嬢の声のトーンが変わった。
クリアになった視界には夜の通りが映っているが、肝心の黄金令嬢が見当たらない。
声は……後ろから聞こえているようだが。
「ローラッド!」
「どふっ!?」
直後、後ろから柔らかい大質量に激突され、ローラッドは一瞬呼吸の仕方を忘れた。
ふわっ、と花のような香りに包まれて、少年は背後から抱きつかれているのだと気づく。
「は、放せっ」
「放しませんわ」
ローラッドが抵抗しても、黄金の令嬢は少年の胸元まで回した手にぎゅう、と力を込めるだけ。
「わたくしの謝罪を聞いてくれたら、放してもいいですわよ」
そして、すこし沈んだ声で囁いた。
「別に要らねえよ。というか何の謝罪だ」
「いいえ。わたくしが謝らないと気が済まないのです」
「……じゃあどうぞ」
「まずは熱を出してしまったこと。キスティさんから聞きました。あなた、真夜中に『学園』の寮を訪ねて『親衛隊』に助けを求めたのですよね。ご足労をおかけいたしましたわ」
「謝るなら『親衛隊』の連中に、だ。俺みたいなのにいきなり来られて、大混乱になってたぞ」
「それと『課題』をあなたひとりにさせてしまったこと。ダンジョンを2つも単独で攻略したと伺っています」
「それも別に構わん。あんたが居たら、むしろ火力過剰で収拾がつかなくなっていたかもしれない」
「……そしてもうひとつは、お父様のこと。そして、『夢』のこと」
「っ!」
エルミーナは具体的には言わなかったが、その腕にさらに力がこもったことで、ローラッドは全て知られていると悟った。
「あなたひとりに全て背負わせてしまって、ごめんなさい」
黄金の令嬢は震えた声で言うと、その吐息を少年の耳にもう少しだけ近づけた。
「お話したいことがあります。後で、ふたりきりのときに」
「……ああ」
羊角の少年が頷くと同時、エルミーナはパッと手を離し、彼の背から離れた。
「お嬢様の抱擁は堪能しましたか?ゴ、羊角の少年よ」
そして振り返った彼の顔を見るなり、苦虫を嚙み潰したような表情をしたキスティが輪郭のぼやけた罵倒を投げつけてきた。
「何か暴言を呑み込んだせいで奇妙な口調になってるぞ」
「……言っておきますけど」
キスティは胸の前で腕を組み、じとっ、とした目で羊角の少年を睨みつける。
「わたしはまだあなたがお嬢様にふさわしいなんてちっとも思っていませんから。ただ、倒れたお嬢様のことを慮った行動の実績だけは、少しだけ、評価できると考えているだけで」
「寛大な評価、助かるよ。キスティ」
「気安く呼ぶな、ゴ……角男」
ふんっ、とそっぽを向いてしまった白金髪の少女に苦笑いを返しつつ、ローラッドはあたりを見渡した。
暴徒と化していた人々は皆倒れていて、それを『親衛隊』の少女たちがロープなどで拘束している。
「安心してくださいまし。あなたと同じで、皆わたくしの『輝き』を浴びて気絶しているだけです」
ローラッドの懸念に先回りで回答しつつ、エルミーナは立ち上がって少年の手を取る。
「もうじき『学園』所属の騎士たちがやってきて場を納めてくれます。そちらの対応は『親衛隊』の方に任せて、わたくしたちは行きましょう」
「行くって……」
「わたくしたちの部屋に、です」
黄金の令嬢はボケッとしていたローラッドの手を強く引いて立たせる。
「あなた、ずっと休んでいないでしょう。今度はわたくしが『お世話』してあげますわよ?」
そう言って微笑んだエルミーナがどうやらわざと思わせぶりな言い方をしたのだと気が付いたのは、ローラッドが寮へ到着する直前になってからだった。
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