【第1章】指輪と光と犬とキスと_005
「よいしょ、と」
ローラッドは意識を失ったエルミーナを床に寝かせた。気絶してもなおぼんやりと光っているのがちょっと面白い。
とはいえ胸も尻もむき出しのままというのは不憫だったので、上着をかけてやる。
彼女が元々着てきた服の残骸もあったはずだが見当たらない。『装甲解除』は服を消滅させるわけではないので、どうやら先ほどまでの戦闘の流れ弾で消し飛んでしまったらしい。
「とんだ危険人物だったな……さて、あとは『洞窟探検』だが」
ローラッドは辺りを見渡す。
開けた空間には道がひとつしか接続していないようで、自分たちが入ってきた通路以外に出口らしきものは見当たらない。
行き止まりか。それともここがゴールなのか。
「まいったな。指輪が置いてあるって話だったと思うが」
『洞窟探検』では毎回異なる物品がダンジョンの最奥に配置される。それは杖だったり、瓶だったりで、つまりはテキトーに選ばれる。それが今回はたまたま指輪なのだ。
しかしながらローラッドにとって、その『指輪』こそが最重要だった。
「こんなとこにあんのは課題用に製造されたどうでもいいやつだとは分かってるけど、確認しないわけにもいかないしな」
ローラッドは呟きつつ、ふぅとため息をついた。
彼の目的は『指輪』を持って帰ること。ここまで来るのも面倒だったのに、『指輪』もないんじゃ骨折り損である。
「『洞窟探検』で複雑なダンジョンが選ばれることはないって話だったのに、まさか迷ったか?いや待て、もしかして……」
ローラッドは最悪の可能性に思い至り、床に横たえたエルミーナをちら、と見た。
この女のせいで、さっきまで岩を溶解させるほどのヤバい光線がこの空間を飛び交っていたのだ。
もし、『指輪』が流れ弾に当たっていたら。
「いや、探す前から考えてもムダか。もしかすると吹っ飛んでその辺に転がっているだけかもしんないしな」
ローラッドは首を振ってイヤな予感を振り払い、前向きに行動を起こすことにした。
「ブラッディ!」
名を呼びつつ、軽く手を叩く。間を置かず、ローラッドの影から小さな何かが飛び出した。
「……なに」
飛び出したそれ……薄桃色のコウモリは、ローラッドを見て不機嫌そうに一言だけ問いかける。
「『指輪』探しだ。悪いけど手伝ってくれ」
「はいはい、また『指輪』ね。ご主人はいっつも無くしものをオレに探させてくれるから、すっかり地べたに這いつくばるのが上手くなったよ。飛ぶのはヘタになる一方だけど」
「相変わらずキツいなぁ」
「キツいもなにも、こんな薄暗い中でちっこい『指輪』ひとつを探しまわる方がキツいぜ?いくら暗闇が得意とは言ったってな」
「それなら俺が灯りを……あれ?」
暗い方が好きなのでつけていなかったが、ローラッドは『洞窟探検』用に腰に下げて使う小さなランプを用意していたはずだった。が、今やベルトには固定用の金具が残っているのみだ。
無くなっている理由は明白。
「あんたか」
ローラッドはまたも足元に転がっている光線娘に目をやり、再びため息をついた。
「ランプは流れ弾でやられてたか。ご主人、お目当ての指輪も吹っ飛んでんじゃないのか?」
「考えたくはないけどな。ハァ、こんなことになるなら、せめてピカピカ光るあんたも一緒に探してくれれば……ん?待てよ」
そこまで言って、ローラッドは電撃的に閃いた。彼は足元にしゃがみ、倒れているエルミーナの頬をぺちぺちと叩く。
「おい、起きろ金ピカ女。おはようの時間だ」
「んぇ?むにゃむにょ……」
しばらく頬を叩いていると、エルミーナが目を開けた。完全に寝ぼけていて、何を言っているのか分からない。
だが、目が開いていれば十分だ。
「おはようエルミーナ。だがあんたはまだ『夢』の中だ。夢だから、いろんなことが起きる」
「うん……」
「突然空を飛んだり……動物に変身することがあるかもしれない」
「うん……」
エルミーナが寝ぼけつつも肯定の返事をしていることを確認したローラッドは目を見開き、彼女の瞳を深く覗き込む。
「エルミーナ、あんたは犬になったみたいだぞ。俺の飼い犬だ。主人を助けたくてたまらない忠犬、イヌミーナだ」
言い切って、ローラッドは指を鳴らした。
するとさっきまで寝ぼけていたエルミーナが飛び起き、
「……わんっ!わんわんわんわんわんっ!!」
四つん這いで、勢いよく吠え出した。
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