【第3章】ダンジョン攻略狂騒曲_021
頬を撫でる朝日の光に、ローラッドはぱちりと目を覚ました。
結局木の根にもたれたまま寝てしまった彼は、太ももの辺りが少し暖かいことに気がつく。
見れば桃色の毛玉……いや、コウモリ状態になったブラッディがすぅすぅと寝息を立てていた。
「番をするって言ってたのに、結局寝てるじゃないか」
羊角の少年はコウモリを摘み上げてみたがそれでも起きない。
「しょうがないな……」
すっかり寝入っている使い魔を影の中へと押し込んで、立ち上がったローラッドは手足を軽く伸ばした。
「急がないと」
ローラッドは消していた翼を再び展開し、朝焼けも消えつつある空へと飛び上がった。
ーーーーーー
飛行が馬車より優れている点は、何と言ってもその移動速度の速さだ。
地形を全く気にせず、出発地点から目的地までを一直線に結んだ線に沿って突き進めばいいだけ。
もちろんローラッドも飛び続けていればあっという間に森を抜けて、数十分で『学園』へ戻ることができただろう。
ただし、当然のことながら『人間』は普通飛行しない。
朝っぱらから人型のシルエットが巨大な翼で宙を舞っていれば当然悪目立ちしてしまう。
というわけで、くだらないことで足止めを食うと厄介だと判断したローラッドは低空で飛行し、さらに森を抜ける直前で地面に降りて、そこからは徒歩で『学園』へと向かった。
当然時間はかかってしまい、彼が『学園』に到着する頃には、すっかり日が高くなってしまっていた。
「お、来たな羊野郎!調子はどうだよ、んん?」
その結果、ローラッドは『事務室』にたどり着いた瞬間、先に報告を済ませていたマリュースからイヤな笑顔で『歓迎』されることとなった。
「……」
羊角の少年は『歓迎』を無視し、無言で『完全踏破』の報告書を受付の女性に提出しようと差し出す。
が、それが受け取られる前に、背の高いマリュースが上から取り上げた。
「1、2枚!つまり、この間のも入れてお前らのスコアは3ってワケだ!一方、オレらはというと……」
結果を言う前から腕を組み自信満々のマリュースの後ろから、小柄な藍色の少女、ファレニアが進み出た。
両手でピースを2つ作り、一言。
「こないだで2、こんかいでさらに2」
「合計で……ん~いくつになるか計算できねえなァ~~~?2と2を足すといったいいくらになっちまうんだろうなァ~~~!!?オイ羊野郎、ちょっとオレに教えてくれないか?2たす2はァ~~~?????」
「……4」
「よくできまちたァ~~~!!!ファレニア、こいつらは3でオレらは4!そしてテルの野郎から言われたダンジョンはオレらが『完全踏破』したものと合わせればもう残ってねえ。ということは……」
「わたしたちの、かち」
「ギャハハハハハ!」
下品な笑い声をあげ、マリュースはファレニアの手を取って踊り出した。
ご丁寧にプライマルも使って、妹と一緒にローラッドを囲んで回ったり、跳ねまわったり、『藍色』の水で噴水を作ったりとやりたい放題。
その間、羊角の少年は真顔で棒立ちになっていた。
呆れの感情を受付に座る女性と共有しつつ、バカの興奮が収まるのをただひたすら待つことおよそ5分。
「さぁて、確か敗者は勝者のクツを舐めるんだったかなァ」
ようやく(少しだけ)落ち着いたマリュースが、ニヤニヤ顔でローラッドの顔を覗き込む。
ローラッドが無言で睨みつけていると「ンな怖い顔すんなよ、ノリが悪ぃな。冗談だっての」とつまらなさそうにしたマリュースは首をかしげて続ける。
「というかさァ、オマエ金ぴか女はどうしたよ。敗北を悟って逃げたのか?」
「……エルミーナは体調不良で病欠だ。高熱を出して倒れたから、昨日から俺ひとりでダンジョンを攻略してきた」
「体調不良だァ?あっ、女特有の周期の『アレ』か!?」
「あにさま」
「わかったわかった、言ってみただけだって」
ファレニアにたしなめられたからか、マリュースはニヤニヤ顔を引っ込める。
「その金ぴかの熱ってのは、動けないほどヤバイやつか?」
「は?」
そして真顔で、ローラッドが思ってもいなかったことを言ってきた。
「熱で倒れてんだろ、オマエが言ったんじゃねえか」
「あ、ああ。いや別に、全然元気そうだったけど」
「なんだよガチの病気かと思ったじゃねえか。んじゃ寝てりゃ治るな多分」
「……?」
先ほどまでの態度とは打って変わって真面目なマリュースに、ローラッドの思考は疑問符で埋め尽くされた。
「というかあの金ぴかが元気そうなのにオマエひとりでダンジョン回ってきたのかよ!やっぱいろんな意味で凄まじいな『未解明』サマは!」
だが一瞬で元の粗暴な態度を取り戻したマリュースは、ローラッドから取り上げていた報告書を受付に叩きつけると、背を向けて歩き出した。
「そんじゃあな。『競争』、楽しかったぜ。次はガチの『喧嘩』で頼むわ」
「あ、あにさま。あいつにあにさまをてんさいだって言わせないと」
「ファレニア~。あいつに言われなくたってオレは天才だろ?」
「そうだけど……」
未練がありそうに振り向くファレニアの手を引き、マリュースは去っていく。
「な、なんか思ってたのと違うな……」
「ですね……」
取り残されたローラッドは思わずつぶやき、受付の女性とその不思議な感情を共有した。
その時だった。
「マリュース、少し待ちなさい」
静かだが、やけに通る声。
ローラッドはマリュースが振り返り、嫌そうな表情を向ける先……つまり、自身の背後へ視線を向ける。
そこに立っていたのはえんじ色の貴族服を着た男、テル・アルゴノート。
「僕の『頼み事』は迅速に処理してくれたようで何よりだ。とてもうれしい」
ぱちぱちぱち、とゆっくり手を叩く男の目は、しかし全く笑っていなかった。
「だが、せっかくの『競争』がこうもあっさり終わってしまうなんて、君たちふたりも望んでいないだろう?」
テルは、有無を言わさない声色で提案する。
「どうだい。ここはひとつ、マリュースとローラッドで『決闘』して、勝った方を真の勝者にする、というのは」
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