【第3章】ダンジョン攻略狂騒曲_018
今回死ぬほど蜘蛛が出てきてます、
まあまあリアル寄りな描写があるので、イヤだなーと思う人は次回を待ってください!
次回はたぶん、リアルなやつは薄めになります。
かなり急いだつもりだったのに、ローラッドが次のダンジョンに到着したのは日が暮れ始めたころだった。
『猟犬の洞』のあった場所にも似た森だが、生い茂るのは全て木材用に植樹された、真っすぐ成長する種類の樹木ばかりの人工森林。
当然ここもアルゴノート家の『資産』らしく、土の坂の途中に空いた洞窟の入り口には「無断立ち入り禁止」と書かれた看板が立てられている。
「こんなところ、許可を貰っても入りたくなんかないけどな」
ローラッドは、大量の蜘蛛の糸で覆われた看板を見て呟いた。
「だからご主人みたいな駆け出しの『探宮者』ですら『完全踏破』したがらないんだろ。手柄を立てるのにいい機会だと思えば悪くない」
からかうように言いつつ、彼の使い魔が闇に溶けつつある影からずるり、と這い出した。
その姿は桃色のコウモリではなく、短く刈った桃色の髪の少女。
夜が訪れつつある今、吸血鬼の姿に戻っているのだ。
少女は足に這い上ってくる小さな蜘蛛を適当に払い落としつつ、にやりと笑う
「見たところ、ここは蜘蛛どもの巣になってるみてえだな。久しぶりに憂さ晴らしができそうだ」
その口からは尖った吸血歯が覗いていた。
「……」
「あん?なんだよご主人、じろじろ見て」
ローラッドは改めて、使い魔の少女の全身を見る。
引き締まった肉体は筋肉質で、スレンダーだがか弱さは感じない。
だが、いかんせん露出が多いのだ。
艶っぽい皮質のダークな服は胸元と腰回りを必要最低限隠しているだけ。
コウモリの翼や攻撃的に尖った尾は黒っぽい分まだマシだが、肩や脇、ウエストなどあらゆる場所から肌色が見えているため、長めのブーツが足を覆っているのがむしろ不自然に思えるほど。
吸血鬼は月光を浴びると強くなると言うが、毒牙を持っている蜘蛛が大量にいると思われるダンジョンに今から入ろうとするのに適している服装とはどうしても思えなかった。
「いまかなり気持ち悪ぃこと考えてるだろ『ご主人サマ』」
「なんだよ気持ち悪いって。ただもうちょっと着込むことはできないのかなって思っただけだよ」
「ハァ……オレだって別に好き好んでこのカッコをしてるワケねえだろ。テメエの母親との『契約』でこうなってんだろが」
「そうだったのか……あ、それなら」
ローラッドはとことん『終わっている』母親にもう何回目になるかもわからない失望を覚えつつ、ダンジョン攻略用に着てきた上着を脱ぎ、ブラッディの肩にばさりとかけた。
小柄な彼女にはややオーバーサイズだが、前を閉めればなんとかなりそうだ。
「なんのつもりだよ」
使い魔に睨まれ、ローラッドは「いやさ」と弁解する。
「これで多少マシになるだろ。この先が蜘蛛だらけなのは分かってるから、噛まれないように」
「ケッ。偽善者ぶりやがって。オレがあの犬っころどもに負けたのをまだ根に持ってんのかよ」
「いや別にそんなんじゃないけどさ……要らないなら俺が」
ローラッドが手を伸ばすと、しかし、悪態をついていた使い魔はふいっとかわし、上着を着たまま洞窟の方へと歩き出した。
「さっさと行くぞご主人。蜘蛛共をさっさと蹴散らして帰ろうぜ」
「……もちろん、そのつもりだ」
素直ではない使い魔に呆れたため息を吐きつつ、羊角の少年はその後を追った。
ーーーーーー
洞窟内は多くのダンジョン内に生えている光苔すらなく、腰から下げたランプがあっても暗い。
さらにいたるところに蜘蛛の糸が張り巡らされており、普通は気にならないそれらが次々と身体に絡みつき、侵入者の自由を奪っていく。
そして動きの鈍くなった彼らを襲うのが、大型犬ほどの大きさがある巨大蜘蛛。
まともに噛まれれば毒牙から麻痺毒を注入され、そのまま消化液を流し込まれた哀れな獲物は栄養満点の肉ジュースとして最期を迎えることになる。
と、そういうダンジョンのハズだったのだが。
「オラァ!」
ローラッドの背後から飛び掛かってきた蜘蛛がブラッディの回し蹴りによって迎撃される。
「本当に、とんでもない量の蜘蛛だな……!」
もちろん彼自身も短剣で戦っているが、蜘蛛たちは次から次へと出てきてキリがない。
「なんだんだこいつらどいつもこいつも好戦的だな!待ち構えて襲うスタイルだって聞いてたけど!?」
「んなこと知らねえよ!ご主人があまりにおいしそうに見えてるんじゃないのか?」
「そんな馬鹿な!これは明らかに何か異常事態だって!」
一匹斬ってももう一匹。それに対処していてもさらに一匹。
腹を裂いた親蜘蛛の腹からも小型の蜘蛛が盛りだくさん。
さらにはもっと奥にいるはずの、さらに大型の蜘蛛までご丁寧にお出迎え。
暗さに関しては、夢魔と吸血鬼にとっては元から問題ないが、大量の『肉の壁』は確実に彼らの進行を阻んでいた。
「こんなの『精霊界』のやつらが見たらどう思うかな。あの金ぴか女を連れてきた方がよかったんじゃねえか?」
「エルミーナなんか連れて来ていたら悲鳴と共に洞窟ごと破壊しつくされちまうぞ!あいつが蜘蛛大好き女とかじゃない限り!」
「面白そうじゃねえか、試しに一匹持って帰ってみるか?」
潰した蜘蛛の体液を浴びながら、ゲラゲラと楽しそうに笑うブラッディ。
「おいブラッディ、まだなのか!?あんまり倒すと俺が処罰されちゃうんだけど!!」
「ナントカ保護法の話か?こんな蜘蛛どもなんぞいくら殺しても誰も困らねえだろ。けどまあ、そろそろかな」
桃色の吸血鬼の目が妖しく光る。
「『ご主人サマ』が仕事はまだかとお怒りだ。とっとと済ませろ、クソ虫ども!」
彼女の『命令』で、蜘蛛たちの動きが変わる。
より正確には、彼女と同じ目の色となった蜘蛛たちが他の蜘蛛へ一気に噛みつき始めたのだ。
そして噛まれた蜘蛛の目の色もまた、彼女の目と同じ桃色に。
彼女が吸血によって直々に『眷族化』したのは最初の一匹だけ。
それが加速度的に『感染』していき、ダンジョン内の勢力図を塗り替えたのだ。
「ハハハッ!『吸血』で『吸血鬼』に勝てると思うなよ蜘蛛風情が!今日からテメエらはオレの眷族だ!元の『お母さん』のことはすっかり忘れることだなァ!」
吸血鬼は嗤い、いまやその全てが目を桃色に変えた蜘蛛たちもそれに合わせて身体を揺すった。
「なんとかなったか……」
「ご主人は知性のない連中には無力だからな。全く、オレがいなかったらどうなってたんだ?」
「助かったよ、ブラッディ」
ふぅ、と一息つきつつ、ローラッドは得意げな使い魔に礼を言って短剣をしまった。
目指すは最奥。
蜘蛛たちを統括している『女王』に会えば、目的は果たせるだろう。
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