【第3章】ダンジョン攻略狂騒曲_013
「あーだりぃなまったく」
教会から出て、『学園』正門へ向かって歩くマリュースは空に向かって嘆いた。
「テメェの親父、ふらっと現れては毎回こういうダルいこと言ってくるんだわ。何とかなんねーのかよ、金ピカ女」
彼は溜め込んだイライラを、そのまま少し離れた隣に歩いている黄金の令嬢にスライドさせる。
だが、エルミーナはただ苦笑するだけだ。
「お父様のお考えはわたくしには分かりませんし、わたくしから進言できることは何もありませんの」
「……」
「申し訳ありません」
「ケッ」
気に食わない、と態度で示すマリュースが蹴飛ばした小石は、何度もバウンドしながら、時には方向すらも変えて遥か彼方へと飛んで行った。
「毎回って、あんたは以前にもこういうことを頼まれてたのか?」
ローラッドが気になっていたことを問うと、マリュースは「まぁな」とぶっきらぼうに返答した。
「テメェらがクソガキだった頃から、あの親父とは『ズッ友』さ。オレの『これ』が気に入ってるんだと」
マリュースは答えながら手をぐっ、と握って上向けた。
途端、彼の傍の地面から握り拳台の土塊が浮遊する。
「念動力ってよく言われるが、念の力だか何だかでモノを動かす系統の『根源資質』とは根本的に違う。空間そのものに干渉する力」
マリュースはニヤリと笑って、ローラッドの顔へ手のひらを突きつけ、ゆっくりと握り込んだ。
「今度ケンカしようぜ。オマエの『未解明』とどっちが強いか、楽しみだよな?」
「……いいのかよ、俺に原理を喋っちまって。対策されるかもしれないぞ」
「ハッ。たったこれだけ喋った程度じゃどうにもなんねえよ。それに『図書室』に行けばいくらでも調べられるぜ。こちとら泣く子も黙る『特異零番』サマだ。この力……『神の手』には、いくらでも研究論文がある」
「あにさま、まだプライマルにヘンな名前つけてるの」
余裕たっぷりに笑う兄に、妹の(少なくともそう名乗っている)ファレニアが静かに苦言を呈した。
「分かってねえなァ~ファレニア。こんなもんはカッコよければカッコいいほどイイんだよ。オマエもそう思うだろ、羊クン?」
「……いや、別に」
「んだよどいつもこいつもノリが悪いな〜、ちゃんとチンコついてんのか?」
ローラッドがノッて来なかったからか、露骨に不機嫌になるマリュース。
(そりゃついているが、あんたと一緒にされたくはないんだよ)
内心毒づきつつ、羊角の少年は黄金の令嬢の様子を伺った。
教会を出てから……いや、正確には父親に会うとなってから、すっかり元気がなくなっている。
というか、いつ何時も身体から放たれているはずの黄金光が見るからに減退しているのだ。
口数も少なくなり、眩しいくらいの黄金の輝きを失った少女は、訪れ始めた夜の闇に消えそうになっていた。
胸に抱えたケルベロスも空気を読んでか、ずっと大人しくしている。
「……それで、あんたらはいつまで着いてくるつもりなんだ?アダミスキー兄妹」
『学園』の正門を出たところでローラッドが言うと、マリュースは「べっつにぃ~?」とおどけた。
「着いて行ってるワケじゃねえさ!ただ、オマエらが最近毎日一緒に『寝てる』って聞いてな?どうせだったらオレも混ぜてもらおうと」
「あにさま、きょうはわたしといっしょに調査結果をまとめるやくそくでしょ。よりみちしない」
「えぇ~!?それ絶対今日じゃなきゃダメェ~?」
「だめ」
幼い『藍色』の少女は兄の袖を引っ張った。
「それに、あしたからはまた競争だから」
そして、ローラッドを睨む。
「ぜったいにかつ」
「ってなわけで、じゃあなオマエら!」
マリュースは敵意マシマシの決意表明をした妹をひょいと拾い上げて肩車しつつ、適当に手を振る。
「ま、ほとんど勝負にならねえと思うけど!ギャハハハハハ!!」
そして騒がしく笑いながら、謎の力でほとんど足を動かさずに去っていった。
「……本当に仲良いなあいつら」
できればもう関わり合いにはなりたくないが、十中八九そうはいかない。
ふぅ、とため息を吐きつつ、ローラッドはエルミーナの方を向いた。
「で、なんであんたはさっきから暗くなってんだ。らしくもない」
「……ごめんなさい。でも、ええ!もう大丈夫ですわ!」
「うお眩しいっ!?」
おーっほっほっほ!と絵に描いたような貴族的高笑いと共に、黄金令嬢が光り輝く。
「心配をおかけしましたわね!でもわたくし、この通り元気ですのよ!」
「いや、あんた……」
唖然とするローラッドを無視して、エルミーナはケルベロスのベロスちゃんを地面に下ろす。
「そして、ごめんなさいベロスちゃん。あなたとはここでお別れですわ!」
そしてそのテンションのまま、連れ帰ったばかりの子犬に突如別れを宣告した。
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