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【第3章】ダンジョン攻略狂騒曲_011

「ねえローラッド」

「なんだ」

「この子の名前は『ケルベ』ちゃんと『ベロス』ちゃんだったらどちらがいいかしら?」

「どっちでもいいんじゃないか」


 すっかり日も傾いてきた夕刻。

 ダンジョンから出、森を抜け、ようやく街へと戻ってきたローラッドは適当に返事を返した。


「さてはあまり興味がありませんわね。なんとひどい……せっかくこれからは一緒に暮らすというのに、ねえ?」

「ワンッ」


 真ん中の頭に傷のあるケルベロスがエルミーナの腕の中で元気よく吠えた。


(よくそのテンションで喋り続けられるな……)


 羊角の少年がふぅ、とため息を吐くのには理由がある。

 エルミーナはダンジョンから出てからこっち、ずっとこの調子なのである。

 正直けっこう疲れていたローラッドは心中呆れつつも感心してしまった。


「もしかして3つの頭それぞれに名前をつける必要があるのかしら……でも身体はひとつだし」


 心底どうでもいいことで悩んでいる様子の黄金令嬢は放っておくとして、ローラッドは『猟犬の洞』を去る際に言われたことを思い出していた。


 ーーー数時間前ーーー


「よし、マッピングはだいたいこんなもんだろ。行こう、エルミーナ」

「分かりましたわ!それでは、ごきげんよう。キングわんちゃん様。この子は大切にいたしますわ!」


 ダダダ、と転ぶんじゃないかという勢いで入り口の方へと走っていくエルミーナ。

 ローラッドもその背を追って歩き出そうとしたとき『待て』とキングわんちゃん様に引き留められた。


「あの犬ならたぶん返品できないぞ」

『いやなに。ついでだから、ひとつ教えておいてやろうと思ってな』

「なんだよもったいぶって」

『【精霊界(こちら)】に留め置かれているのは何も我らだけではない。さっきも言ったが、貴様があのあばずれ女の手によって送り込まれたように、一方通行でも構わんと【精霊界】にやってきている者は他にもいる』

「それが?俺には関係ない」

『そして最近、連中が何やら動き出しているようだ』

「……」


 ローラッドが興味を持ったのを察し、4つ首の王は『詳しいことは知らんが』と前置いて続ける。


『警戒しておくことだ。我々はただ現状を受け入れたが……他の連中がそうとは限らん。もしかしたら、自分たちだけで()()()()()かもしれない。貴様は、そうなれば困るのではないか?』

「あんたは俺の何を知っている?」

『ハッ。舐めてくれるな小僧』


 少年の羊の瞳を、猟犬の瞳が覗き込む。


『貴様の考えていることなど、その不愉快な目を見ればわかる』

「……とりあえず、警告は受け取っておいてやる」

『そうするがいい。なに、我はこれでも貴様に感謝しているのだ。あのメスとの【決闘】は、久々に心が躍った』

「そうかい」


 再び歩き出したローラッドの背に、低い声が告げる。


『存分に現状を謳歌しておけ。だが忘れるな……【魔界(あちら)】にはまだ【精霊界(こちら)】への侵攻を諦めていない勢力がいることを。手を打っておくなら、今の内だぞ』


 それはまるで老骨が若者に向けるような優しい警告だったが、少年の胸に深く突き刺さることとなった。


 ーーー回想おわりーーー


(手を打つと言ったって……俺はクソババアのことで手一杯だってのに)


 この身は所詮『精霊界』から除かれるべき異物。

 その事実が、鎖のように重く身体に巻き付いているよう。


「おっ、羊野郎に金ピカ女!こんな時間に2人してどうしたよ、もしかして野外でヤッた帰りか?」

「うげっ、この品性下劣で最悪の声は……!」


 だがそんな懸念も暗い気分も吹き飛ぶくらい最低の声が耳に入ったことで、ローラッドはハッと我に返った。


 声の主、下品にニヤニヤと笑っている大男、マリュースは『学園』の正門、その門柱にもたれかかっている。

 その妹、ファレニアも同じように柱にもたれかかって腕を組んでいた。


(仲の良いことで……)

「あなたたち、どうしてここに!?」


 内心呆れているローラッドの傍らではエルミーナがしっかり驚いていた。


「どうしてって……偶然だよ偶然!今日届を出していたダンジョン攻略が早めに終わっちまったからぶらついてたんだよ!なあファレニア」

「そうそう。べつにまちかまえていたとかじゃない」

「じゃあ偶然じゃねえじゃねえかよ……で、何の用事なんだ。暇人兄妹」


 アダミスキー兄妹が『偶然』現れた理由など察せる。

 だが話を前に進めるため、羊角の少年はあえて自分から問いかけた。

 対するマリュースはそれを読んでかどうかは知らないが「用事なんかねえさ!」と聞いているだけでダルさに拍車がかかるオーバーリアクションを返してきた。


「ただ、ファレニアからオマエらとダンジョン攻略数で競争をしているって聞いたんだよ。だから進捗はどうかって聞きたくてなァ!ちなみにだがオレらは……ほら、言ってやれファレニア」


兄が小声で促すと、妹はややゆっくりと指を2本立てた。


「ふたつ」

「そう、2つだ!俺らは今日だけで2つも『完全踏破』したが、お前らはどうだ?」

「くっ……!わたくしたちはまだひとつですわっ」

「あららそうだったか!イヤーすまんな妙なことを聞いちまって!ちょっとはハンディが無いと勝負にならないだろって心配してたんだが、やっぱそうだったか!あ、待てよ、もしかしてお前らホントにヤッてた?だから遅れたとか?なるほどなるほど……確かにそこいらの『洞窟』よりは調査のしがいがあるってもんだギャハハハハハ!」

「なんと下品な……!」

「あにさま、きたない」


 もはや返事をする気すら失せてきたローラッドは対応をエルミーナに任せることにしたが、彼女は彼女で何を思ったのか「でも、こちらにはこの子がいますわ!」とケルベロスを高く掲げた。


「かわいいでしょう、ケルベロスのベロスちゃんですわ!攻略の際に譲っていただいたんですのよ!」


 いつの間にか名前が決まっていたベロスちゃんが元気よく「ワン」と吠える。


「犬だぁ?そんなもんが何の自慢に」

「か、かわいい……あにさま、わたしたちのまけだ」

「まあ今日のところは引き分けってところだな!だけどそんなズルい手が次も通用すると思うなよ。攻略ペースはこっちが上なんだ。それにそういうかわいい?やつのひとつやふたつ、オレがその気になれば……」


 ほら見ろ、妙なことをするから話が妙な方向に向かっているじゃないか。


(というか、もしかしてこいつら全員アホなのか……?)


 ローラッドが呆れ果てていた時だった。


「エルミーナ嬢、ローラッド!」


 遠くから甲冑姿の女性……アンナ教官が近づいてきた。


「やーいオマエら何かやらかしたんだろ」

「せんせいにおこられろ」

「アダミスキー兄妹もいるな、ちょうどいい。逃げるんじゃないぞ」

「え、オレらも?」


 何かを察知して逃げ出そうとしていたアダミスキー兄妹にも釘を刺しつつ、アンナ教官は告げる。


「エルミーナ嬢、あなたの父上がいらしている。アルゴノート家の所有ダンジョンについて、緊急の用件だそうだ」

「お父様が……?」


 そしてその言葉を聞いた黄金の令嬢は雷にでも打たれたかのように、固まってしまっていた。

読んでいただきありがとうございます!

遅くても3日ごとに更新予定!

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