【第3章】ダンジョン攻略狂騒曲_009
『……貴様、何のつもりだ。それは』
「がるるるる」
すっかり犬になり切り四つん這いで威嚇する黄金の令嬢へ哀れみの眼差しを向け、魔獣の王は困惑の声を漏らした。
「何って、より『決闘』に適した状態にしただけだ。これなら足場の悪さも、天井の低さも気にする必要はない」
『だからって……何と言うか、これは人間にとってはかなり屈辱的なことではないのか?』
「殺されるよりマシだ。それにな」
羊角の少年はニヤリと笑う。
「こいつは、たぶんあんたより数倍強いぞ?」
『何?』
「よし、俺らは準備完了だ!『決闘を開始しろ』!」
ローラッドが魔獣たちの言葉で叫ぶと、周囲を囲むケルベロスたちがつられて一斉に遠吠えした。
『決闘』開始の合図だ。
直後、ガッ!と瞼の上から視界を塗り潰すほどの閃光が迸った。
『グッ……!?』
「わおんっ」
イヌミーナの両眼から放たれた黄金の光が魔獣の王に直撃し、荒々しい体毛を焼き焦がしたのだ。
体表面にこそ届かなかったが、牽制としては十分すぎる火力だ。
『小娘がッ!』
「イヌミーナ!右前脚だ!」
「わんっ」
魔獣の王が反撃に繰り出した右前脚を、イヌミーナは掛け声に合わせてひらり、とかわす。
「脚から潰していけ!」
ローラッドが声に出すより早く、イヌミーナは腕を振りかぶった。
じゅう、と音が鳴る。
その5本の指のそれぞれから放たれた『光線の爪』が魔獣の前脚に焦げ跡を刻みつけたのだ。
『小癪な真似をっ』
魔獣の王は苛立ちを隠さず、同族の真似事をしている人間を噛み砕こうと真ん中の大口を開ける。
直後、鋭い閃光。
獲物はとっくに狙いの場所から消えている。
『どこにいった!?』
返事はない。
代わりに魔獣の王の背後から、黄金の閃光と共に爆発が襲い掛かる。
『ぐふっ!?』
「わんっ!」
最大までチャージした光線を放ち終え、イヌミーナは元気に吠えた。
『貴様……!人間の身で、なぜそのような身体能力を』
「わおん!」
問いかけの意味は分からないが、その意図を読み取ったイヌミーナは『おすわり』の態勢で胸を張り、得意げな態度で返答とした。
(『感度自在』と『夢幻夜行』の併用、なんとか上手くいったようだな)
その様子を見ているローラッドは安堵を吐息した。
(『夢幻夜行』で完全な『夢』を見せずに、ある程度自我を残す……『明晰夢遊』とでも呼ぼうか。あいつは一度犬に成りきる『夢』を見ていたからか、完全に使いこなしている)
あるいはその適応力こそが、単純に黄金の令嬢が『優等生』たる故なのか。
イヌミーナは『夢』を見つつも自らの『黄金の光』の精度を落とすことなく、魔獣の王を圧倒している。
(このままいけば勝てそうだ……けど)
心配事があるとすれば、ひとつだけ。
魔獣の王の3つある首、そのうちのひとつ……右の口にブラッディは咥えられたままだ。
(振り回されている今ですら心配だが、盾に使われるとマズイ)
誇り高き存在だと名乗ってはいたが、『魔物』は『魔物』だ。
追い詰められれば、魔獣の王は当然ブラッディを利用して形勢の逆転を図るだろう。
(気づかれる前に、一気に倒してくれ……!)
「わおんッ!」
ローラッドの思いに答えるように、イヌミーナは次々と光線を放ち、魔獣の王を追い詰めていく。
「グルルルッ!!!」
一方の魔獣の王も闘志は尽きない。
もはや『こちら』の言葉へと変換するのも忘れ、黄金の少女を巨体で押しつぶさんと飛び掛かる。
光線での迎撃は簡単だが、巨体が落下する勢いは殺せない。
イヌミーナもそれは理解し、身を屈めて跳躍による回避の準備をする。
ここまでは、魔獣の王とて読めていた。
(『人間のメスよ。貴様の思考は手に取るようにわかる。閃光で視界を眩ませつつ、回避して最大チャージの光線を叩き込もうとしている』)
だからこそ、隠しておいた『牙』でもって仕留められる。
3つ首の犬、ケルベロスの王はそのたてがみに隠していた第4の頭とその牙を意識する。
(『この頭は閃光を受けない。そして貴様は牙と爪に包囲され、上に回避するしかない。だが、その高度には自ずと限界がある』)
手狭だが慣れた巣穴。
その天井の高さより下なら、食らいつくことなど造作もない。
思考の時間に、現実の時間が追いつき始める。
牙が迫り、爪が包囲し、黄金の令嬢はそれでも恐怖せず勝利だけを見据える。
(『さあ人間よ、避けれるものなら避けてみろ!』)
魔獣の王もまた、勝利へと獰猛に噛り付く。
(『卑劣な手だが許せ。我は、勝たねばならない……!』)
ズゥン、と。
次の瞬間、巨体の着地が地響きを起こす。
「くっ、エルミーナ!!!」
巻き上げられた粉塵の向こうへ羊角の少年は叫んだ。
煙の向こうには、動かない巨体の影が見える。
無限とも思える数秒、砂埃は徐々に収まった。
その向こうに見えた光景に、ローラッドは目を見開いた。
光り輝く黄金色。
黄金の令嬢が最大限までチャージしたそれを向ける先には、桃色のコウモリを咥えた魔獣の頭がある。
黄金の令嬢は跳ばなかった。
身のこなしだけで牙と爪の隙間を潜り、身に着けた鎧が身を守ることまで読んで、命を引き裂く攻撃を避けたのだ。
魔獣の王は動かない。
『やめろ、淫魔の息子。今度こそ、我らの誇り高き【決闘】に水を差してくれるな』
「っ……!」
だが、王は羊角の少年が高く手を掲げているのを一瞥し制した。
『見事だ、エルミーナ・ウェスタリアス・アルゴノート。そして、慈悲に感謝と敬意を』
巨大な魔獣は身を伏せ、首を垂れる。
『我の負けだ』
決着。
「わおおおおおおおおおおおおん、ですわっ!!!」
勝利を宣言する黄金の令嬢の遠吠えが、『巣穴』の中に反響した。
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