【第3章】ダンジョン攻略狂騒曲_007
「くそ、油断してた!」
「さっきからどうしましたの、ローラッド……?」
「ブラッディがピンチだ」
怪訝な顔をしているエルミーナに、ローラッドは端的に告げる。
「さっきあそこの通路を探索してくるように頼んだんだよ。そして、あいつはいま助けを求めている」
「ちょっと待ってくださいまし。ブラッディさんもダンジョン攻略に着いてきていましたの?それに声も聞こえませんが……」
「あいつは日頃影の中に引っ込んでるだけで、常に俺と行動しているんだ。昼間はコウモリ状態のままなんだけどな」
ローラッドはブラッディが消えた通路の方へと走り出す。
「そしてあいつが普通の人間には聞き取れない『高い声』で助けを呼ぶときはヤバい時だ!はやく助けに行かねえと……!」
「お待ちなさい!」
だが、エルミーナは駆けだした羊角の少年の手を掴んで引き留めた。
「なんだよ!?」
「落ち着きなさいなローラッド。ダンジョン内での焦燥は死を招きますわ」
「っ!」
教科書通りの警句。
だが、言葉にされた『死』が、ローラッドの思考に冷たい感覚を確実に広げていく。
彼が足を止めたのを確認し、エルミーナは手を離した。
「ブラッディさんがどういう立場の方なのかいまいち理解できていませんが……彼女はあなたにとって大事な方なのでしょう?それならば、救援に向かうのも慎重になるべきです。向かう先に危険があることを『警告』してくださっているなら、なおのこと」
「確かにそうだけど……でもどうするんだ?」
ローラッドは今いる場所よりもさらに暗くなっている細い通路を指さす。
「あの向こうから『声』がすると言ったって、反響して聞こえてきているだけで通路が何本も枝分かれしている可能性がある。慎重に進んで迷っている間にブラッディの身に何かあったら……」
「ご懸念はもっともですわね。でも、それはさっきのようにあなたひとりで闇雲に突っ込んでいった場合にはもっとひどい結果になるのではなくて?」
「それは、確かに……」
自分の短絡的な思考を恥じ、うつむくローラッドに対し、エルミーナはおほほほ、と笑う余裕を見せる。
「冷静になれたようで何よりですわ。そして安心なさい、わたくしに一計アリよ」
「何か良い手があるのか?」
「『ダンジョン攻略では環境を把握し、利用することが肝要である』と、教科書には書いてありますわ」
言いながら、黄金の令嬢は左手の指を規則的に光らせつつ、右手の指をパチン、と鳴らした。
「ワンワンッ」
すると、3頭の(というと少しややこしいが要は3匹の)ケルベロスが彼女の前に整列する。
「よし、いい子たちですわね。お座り!」
「ワンッ!」
そして更なる指令により『お座り』状態となった。
「あんたこいつらに一体何をしたんだ……?」
「事前調査でケルベロスは賢いと言われていましたから、手指の発光パターンと音、動作でちょっとしつけただけですわ」
「な、なるほど……?」
「ここは彼らの『巣穴』ですから。わたくしたちが闇雲に進むより、『住人』の方に案内していただいた方がいいでしょう?その準備をしていましたの」
困惑しつつも感心するローラッドに、エルミーナは慣れた所作でバチン、とウィンクを飛ばした。
「ただ『遊んでいた』わけじゃないんですのよ?」
「……すまん」
「分かればよいのですわ♪」
エルミーナは上機嫌そうに告げると、待機しているケルベロスの内、真ん中の頭に傷がある個体……すなわち、さきほど彼女が投げ飛ばしマウントを取った個体の元へと歩み寄ると「よっ」とその身体を抱きかかえた。
「ちょっと重たいですが、ローラッド、この子を持っていてくださいな」
「お、おう」
ローラッドは黄金の令嬢からぼすっ、と3つ首の獣を受け取って、同じように胸の前へと抱きかかえた。
受け渡された等のケルベロスはグルルルと唸りながら「ボスの指示に従っているだけで、お前をボスだと認めたわけじゃないからな。この羊野郎」とでも言いたげな目線を向けてきたが、彼は無視することにした。
「さて!残りのあなたたちは先導してあの奥へと案内なさい!」
「キャウッ!?」
黄金の令嬢からの指示を受け、残されたあと2頭のケルベロスが震え始める。
どうやら通路の奥にはよっぽど行きたくないらしい。
が。
次の瞬間、ズビィッ!と光線が照射され、ケルベロスたちの足元を丸く囲むように焼いた。
「もう一度お願いですが……案内をしてくださいな?」
「ワオン……」
にこり、と笑うエルミーナ。
ケルベロスたちは自らの身をその黄金の光に焼かれないよう、とぼとぼと通路へ向かって歩き出した。
「さ、行きますわよローラッド!絶対にブラッディさんを助け出すのです!」
「あ、ああ……!」
ローラッドは起きたことの全てをまだ呑み込めていなかったが、ビカビカと輝きながら堂々と通路へと入っていくエルミーナの後に続いた。
抱えたケルベロスが腕の中でガタガタ震えているのを、ほんの少しだけ、哀れに思いながら。
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