【第3章】ダンジョン攻略狂騒曲_006
「ローラッド!あなたのほうはどうです?『巣穴』の奥につながる入り口は見つかりました?」
「あ、ああ。いま探しているところだ」
羊角の少年は先ほどまで放心していたことを悟られないように素早く返事をする。
ローラッドが『巣穴』内未踏エリアの探索をすすめ、その間の露払いはエルミーナが担当、という分担なのだが。
(どう考えても役割は逆がよかったよな)
少年は比較的開けている現在地から左右にまっすぐ伸びる細い通路を見てそう思った。
エルミーナは自分のプライマルでどこでも自由に照らせる。
対して、羊角の少年が持っているのはちいさなランプのみだ。
うかつに『感度自在』で暗視すればよい、と目の感度を上げれば、それこそ相方に目を潰されてしまうのだし。
「まあ、俺は俺にできることをするか……」
再び振り返ると、エルミーナはすっかりケルベロスを配下に置いており「お手!伏せ!オホホホ、いい子ですわね!」などとじゃれている。
羊角の少年は(急ぐのではなかったのか?)なんて思いつつ、素早く2回手を叩いた。
「ブラッディ、出られるか」
「……」
呼びかけに答え、黄金色の光源に照らされて伸びたローラッドの影からぬっ、と桃色のコウモリが顔を出す。
「久々に呼び出したと思ったらイヌくせー場所だな。なんだ、あの金ピカ女の散歩か?」
「違……いや、当たらずとも遠からずなのか?」
力でマウントを取れているとはいえ、野犬を従えたのは単に彼女のカリスマではない、のかもしれない。
「とにかくだ。お前にはあっちの細い通路を見てきてもらいたいんだが」
「必要な情報は」
「通路の長さと、敵の数。あと珍しいものがあれば確認してきてくれ」
「ざっくりしてんな……はいはい、承知いたしました『ご主人サマ』」
今日も今日とて慇懃無礼を隠そうともしない使い魔だが、指示には思いのほか素直に従うらしい。
パタパタ、と通路の片方の奥へと消えていくコウモリの尻を見送ってから、ローラッドは洞窟の壁のそばに腰掛ける。
「さてと」
彼は別に休憩がしたいわけではない。
ローラッドはカバンから小脇に抱えられる程度のサイズのスケッチ用画板と紙、鉛筆を取り出した。
「測量は学者どもに任せるとしても、だ」
ランプとエルミーナの明かりで照らしながら、ごりごり、と荒くて硬い紙の上に鉛筆で刻みつけるように、洞窟内地形を書き込んでいく。
後に続く人たちのため、魔物の生息数や見て取れる資源の場所、明かりの程度などもメモする。
自分たちが一回入ったら終わり、ではない。
格好良くダンジョン攻略!といっても、その実態は地道なものだ。
(ケルベロスは……ここを縄張りにしてんのは成獣3頭、かな?)
少なくともエルミーナの周辺にいるのはそれだけ。
巣の中にしては少なすぎる気もする。
(ここはまだ入り口に過ぎない、ってことだろうな)
ローラッドはブラッディが消えた通路の方をちら、と見る。
彼らの『本部』があるとしたら、おそらくあの奥。
(ブラッディが戻ってきたらさっさと見てきて、攻略完了、といきたいところだが……)
「おほほ!くすぐったいですわよあなたたち!」
羊角の少年は視線を再び黄金の令嬢へと戻した。
3頭(計9つの頭)に囲まれてベロベロと舐められている。
どうやら群れのボスとして認められたようだ。
「何やってんだあいつは……」
急いでるんじゃなかったのか、と本日2回目の呆れが込み上げ、ため息と共に吐き出される。
というか、あんだけ舐められたら普通にベッタベタになっちまうが、嫌じゃないのだろうか?
ローラッドがボーッと眺めているとケルベロスのうち一頭がエルミーナを押し倒そうと躍起になっているのが見えた。
その意図するところは明確ではないが……十中八九ロクでもないことを考えているのは確かだ。
「こらこら、あまりふざけてはいけませんわ!」
エルミーナもそれに気がついたのか、なんとかケルベロスを押し除けようとする。
だがケルベロスは頭が3つあるだけでなく、単純にそこそこ大きい。
「きゃっ!?」
悪戦苦闘しているうちに、とうとう黄金の令嬢はケルベロスに押し倒されてしまった。
マウントポジションをとったケルベロスの目はギラついている。
「ちょっとあなた!自分が何をしているのか、わかっていますのっ!?」
ケルベロスの鼻息は荒く、エルミーナの身体を踏みつけながら匂いを嗅いでいる。
(さすがに助けねぇとまずいか……?)
嫌な予感にローラッドが立ちあがろうとしたその時。
「いい加減にしなさいっ!!!」
「キャウンッ!?」
鋭い閃光、犬の悲鳴。
エルミーナの目から放たれた光線がケルベロスの真ん中の頭に直撃し、焦げ跡を刻みつけたのだ。
しかもそれだけではない。
「どっせい!」
エルミーナはのしかかっていたケルベロスの腹を足で支え、後転する勢いで投げ飛ばしたのだ。
ごろごろと転がり、腹を見せるケルベロスに、今度はエルミーナが跨る。
「あなたの主人は、このわたくし!言うことを聞かなければ、お仕置きですわよ?」
それは野犬の流儀に則った勝利宣言。
「……くぅ〜ん」
「分かればいいんですのよ♪」
大人しくなったケルベロスを優しく撫でるその姿はまさに女王そのものであった。
「これがノブレス・オブリージュってやつか……」
ローラッドは謎の感動を覚えたが、ふと、嫌な予感が脳裏をよぎる。
(ブラッディ、思ったより遅いな?)
「ローラッド、調査の方はどうですか?」
「あんたが遊んでる間にここらのマッピングはしたよ」
「お、おほほ……ごめんあそばせ」
すっかり犬を従えたエルミーナに、ローラッドはぶっきらぼうに返事をした。
「それで調査なんだが……」
きぃん、と。
話を続けようとしたローラッドの耳に甲高い音が聞こえる。
「まずいっ……!」
「どうしました?」
血相を変えたローラッドと対照的に、エルミーナは事態が把握できていない。
だが、当然だ。
羊角の少年が聞き取った甲高い音は、彼にしか聞こえない、ブラッディが発した緊急信号なのだから。
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