【第1章】指輪と光と犬とキスと_003
「なっなななな何!?突然、服がっ!」
「それが俺のプライマルだ」
慌てふためくエルミーナに、ローラッドはため息混じりに告げる。
「対象の防具を完全に無力化できる。俺はこれを『装甲解除』と呼んでいる」
「人の服を脱がすだけの技をあなたがどう呼んでいるかなんて知ったこっちゃないですわよ!早く元に戻しなさいよこの変態!」
「残念ながら元に戻すことはできない。『装甲解除』はその名の通り、相手の防具を無力化するだけの技だからな」
「なんかキメ顔でカッコつけてるところ悪いですけど、どう解釈してもあなたがわたくしを突然辱めた事実は変わらないわよ!?」
顔を真っ赤にして吠えるエルミーナ。ローラッドにはだんだん彼女がタチの悪い好奇心を持つ大型犬のように見えてきた。もっとも、犬と認識するにはいろんなものにボリュームがありすぎるのだが。
腕で覆っても全く隠しきれていないあれやこれやが、彼女が身をよじるたびにばるばる弾んでいる。はみ出た部分が腕に乗っかって強調され、むしろ状況は悪化しているとさえ思えた。
自分でやったとはいえ、流石に見ていられなくなってきたローラッドは顔を背ける。
「まあとにかく、これでもう俺のプライマルもわかっただろ。さっさと引き返して、手下なりなんなりから服を調達してくるのをおすすめする」
「こんな状態で入口まで戻れるものですか!誰かに見られたらどう責任を取ってくれるの!?」
「『洞窟探検』にハプニングはつきものということで……」
「洞窟の奥から金髪縦ロールの強気美少女お嬢様が裸に剥かれた状態でよたよた歩み出てくる官能的ハプニングなんざ誰も想定してねえですわよ!!!」
「己の外見に自覚はあるんだ」
「アルゴノート家令嬢として当然でしょう!というかあなた、なんでさっきから目を逸らしているわけ?わたくしの肢体を拝めるなんて滅多にあることではないのよ!?」
「見てほしくないんじゃなかったのかよ!」
「あなたにすら見られなかったらとんだ脱ぎ損じゃありませんの!」
「お嬢様があんまり脱ぎ損とか言わないほうがいいと思う」
「うるさいですわねとっとと観念してこっちを見なさい!」
「わかったわかった!そんなに見て欲しけりゃ乳の先から尻の先まで見てや……」
口調以外にも大切な何かを破壊しているとしか思えない女の要求に応え、ローラッドはその裸体に目線を戻した。
その刹那、強烈な閃光が放たれる。
「ぐおおおおっ!?」
「おーっほっほっほ!引っかかったわね!」
エルミーナは口に手をやり、目を抑えてのたうち回るローラッドへ高笑いを浴びせる。もちろんその柔肌はもはや覆われておらず、頭の先からつま先まですべて空気に晒されている。
だが彼女は自分の肌を誰にも『見せる』つもりはない。
エルミーナはローラッドが見た瞬間に身体をさらに強く発光させて『光撃』し、さらに自らの身体を黄金色の光の中へと隠したのだ。これなら赤面もバレない。
「この野郎……光で目隠ししようってか?」
「正しくは『目眩し』ですわね、文字通り!服がなければ放つ光の量を全身の肌面積分増やすことができる……考えたこともなかった。気づかせてくれてありがとうローラッド。これで形勢逆転ね!」
エルミーナは勝ち誇っていた。暗い洞窟にいたことが功を奏したのだ。
(ロクに光源のない洞窟内において今のわたくしを見ることは太陽を直視する行為に等しい。無理をすればシルエットくらいは掴めるかも知れないけど、それも長くは保たないはず!)
経験則に基づいた推論が確信へと変わり、確信が自信へと変換されていく。
「ほら、本気を出しなさいよ『未解明』!それともわたくしの『輝き』に焼かれたいのかしら!?」
「やっぱお前俺を殺す気だろ!?俺のプライマルくらいあとでだったらいくらでも見せてやるからいったんやめろって!」
「やめないわ。死ぬ気でやってこそ人間の『資質』が出るって話でしょう!」
「ああもう聞き分けがねえなこのバカは!」
「なんとでも言いなさいな!」
エルミーナはよろよろと立ち上がるローラッドに両手の指を向けた。全身を発光させている分を除いた全力を集中させ、『未解明』を穿つ10の光線をチャージする。
「きっと痛いから覚悟しなさいっ!」
返事は待たず、エルミーナはすべての指先から光線を放った。
網のように包囲する10の光線は、しかし、対象の男を絡め焼くことができない。
「あなた、なぜ避けられるの!?」
「……」
ローラッドは答えない。それでも、エルミーナは小さな違和感に気がついた。
光を当てているのはこちら側だ。当然、ローラッドの動きは全て見えている。背後に伸びる影もヒントになって、先の動きも多少予測できているほどだ。
だが、ローラッドがこちらを見ているのはどういうことだ?
「光が眩しいのは、その明るさが目の感度に対して過剰すぎるからだ。なら、もし目の感度を下げることができたら?」
「あなたまさか」
エルミーナはさらに光線を放った。だが、やはり避けられる。まるで、こちらの動きが読まれているかのように……。
いや、違う。
エルミーナは確信する。
ローラッドは光線を見てから避けている。
より正確には、光線を放つ指や腕の動きを。
「身体の反応感度をコントロールしているの……!?」
「ご明察だ、金ピカお嬢様」
ローラッドはエルミーナを正面から見つめる。
少しも目を細めることなく。
「俺はこの技を『感度自在』、と呼んでいる。今は目の受光感度を10分の1に、反射反応感度を10倍にしている」
「なにが技よ!サイコキネシスを使ったと思ったら今度は身体強化!?そんなデタラメな『根源資質』聞いたことが無い!」
「そういうところが『未解明』たる所以なんじゃねえか?まあ俺自身よくわかってねえが……要するに今のあんたは俺から見たら、惜しげもなく裸体を晒しながら後光を背負って立つただの変態だ。上着は貸してやるから、俺に構わず引き返してくれ」
「へ、変態ですって!?わたくしをこんな状態にしたのはどこの誰よ!意味不明なプライマルで人をおちょくるのもいい加減にしろ!もう本当の本気で消し炭にするわよ!?」
結局見えていると知ったエルミ-ナは腕で身体を隠しつつ半狂乱で叫んだ。
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