【第3章】ダンジョン攻略狂騒曲_001
家具も何も……いや、家具はある部屋の中。
「……朝か」
黒髪にボサボサと寝癖が跳ねている少年、ローラッドは日光で自然に覚醒し、ベッドの上で身を起こした。
一昨日までの自分の部屋とはやや配置が異なるものの、生活に必要なものはほぼ全て揃っている。
「ローラッド?起きてます?」
あと必要なのはドアノブおよび鍵がちゃんとついているドアくらいのものだ。
さも当然といった風に元ドアの『板切れ』を押して部屋へ入ってきた黄金の令嬢を見て、ローラッドはぼんやりとそんなことを思った。
ーーーーーー
「ごめんなさい。わたくしたちが帰る頃には全て直っているはずだったのですけれど、手違いがあって……」
「まあ急な話だったしな」
学園へと歩く道すがら、エルミーナは傍の少年に謝罪を述べた。
その身に纏うオーラの光量がいつもより抑えめなのは、しょんぼりした心の表れである。
「それに、わたくしはあなたを追い出すつもりではなかったのよ?けれど、お手伝いさんたちが皆運び出してしまっていて……」
「昨日も聞いたよ、それ。鍵すらない部屋にアルゴノート家の令嬢を寝かすよりはマシだろ」
現在、彼女が寝泊まりしている『元』ローラッドの部屋は窓からドアまで改修が施され、周辺の部屋と比較してやたらと豪華になってしまっている。
「俺は構わないから気にすんな。というか逆に大丈夫なのか?」
「何がです?」
「あんたが『学園』の寮を抜けて俺の部屋に住んでることが、だ。あんたの父親、そういうの厳しそうだろ」
「まだ大丈夫ですわ!おそらく!」
「……追求はしないでおくぞ」
詳細を聞いたとて何ができるわけでもない。
厄介事をひとまず先延ばしにしつつ、ローラッドはふと我にかえった。
(なんか普通にこの生活を受け入れちまってんな)
『契約』によってリリスを遠ざけられているとはいえ、だ。
淫蕩の女王の手にかかれば、交友関係は容易く『地獄』へ変えることができる。
特に女性など、リスクでしかない。
(とはいえ、今更か……)
少年は額の上から垂れた黒髪を摘んだ。
今までであればあちこちに跳ね放題だったそれは、お節介焼きの令嬢のおかげで大人しくしている。
(半分事故とは言え、貴族令嬢に手を出したも同然なんだ。今さら手を引いたら何が起きるかわからん)
それに、バディまで組んでしまったのだし。
ローラッドは自分自身に言い聞かせて、無理やり納得した。
「今日は何からするんだっけ?」
羊角の少年が半ば無理やりに話題を変えると、エルミーナは1枚の紙を手提げカバンから取り出し「まずはこれを提出します!」と彼に見せた。
すでに色々書き込まれているが、何かの申込用紙に見える。
「なんだこれ、って目をしていますわね。アンナ教官から昨日説明されていたはずですけど」
「……すまん」
「そんなことだろうと思った。あなた、一応座学の単位は取っているはずよね?」
少し愚痴っぽくなりつつも、エルミーナは用紙の一番上を指さした。
「これはダンジョン調査の申請書です。ここに堂々と書いてあるでしょう」
「なるほど?」
紙の一番上に書かれた文字列は『自然迷宮調査立入許可願書』。
確かに注意して読めば、そう読める語が書いてある。
だがローラッドには、古語に近い言葉遣いで書かれているそれをすぐに読み取るのは難しかったのだ。
「確かにちょっと堅苦しく書いてはありますが、これくらいは読めてしかるべきよ?」
「……『こっち』の古語までは流石にカバーしきれてねえな」
「どうかしました?」
エルミーナが心配そうに覗き込んできたので、ローラッドは少し目を逸らした。
どうやら前途多難な予感がするが、とにかく前に進むしかなさそうである。
ローラッドは「いや、なんでもない」と誤魔化しつつ、申請書の細部に目を走らせる。
幸い、申請書の本体は平易な表現で書かれていた。
「要は緊急時に救助がスムーズに来られるように、あらかじめ調査に入るダンジョンを『学園』に知らせておくのか」
「大意はそうですわね。あと誓約事項のところは目を通してくださいまし。ダンジョンの『所有者』によって規則が追加されている場合にはそれに従うという意思表示が必要ですのよ……ってことは流石に知ってますわよね?」
「流石にな。しかし『所有者』ねえ……いかにも『経済的』というか」
ローラッドは天を仰ぐ。
(そんなにいいもんかね、ダンジョンなんぞ)
言いたいことはなくもないが、言ってもしょうがないことでもある。
「まあ今回は『洞窟探検』同様『学園』の所有ダンジョンだし、基本的には問題ありませんわ。生態系を崩壊させるほどの過剰採取や、構造が変わるほどの破壊が無ければ大丈夫のハズ」
「それって俺らは大丈夫なのか?というか、主にあんただが」
「こ、この間のは緊急事態につき、仕方なかったのです。それに、ラスト一発は誰かさんがワンちゃん気分のわたくしに命令した事なので、ノーカンです!」
「……そうか」
実は命令した覚えはないローラッドだったが、ここは冷静にスルー。
大型犬はヘタに刺激しない方がうまく御せたりするのだ。
ーーーーーー
と、そのような会話をしつつ、ちょうど『図書室』の隣にある『事務室』へとたどり着いたローラッドたちだったが、受付には先客がいた。
「あ」
「「あ」」
毒も滴る危険な女、あるいはアダミスキー兄妹の妹の方。
「……ちかづかないで。へんたいひつじ男」
申請書を抱えたファレニアはローラッドを見るなり一歩後ろに下がった。
言うまでもないことだが、彼女は羊角の少年が嫌いだった。
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補足:
ローラッドくんは諸事情あって文字を読むのが少し苦手です。
日常会話や教本レベルの単語は知っていますが、ちょっと堅苦しい表現になると初見じゃ意味が分からないことがあるぞ!
よければ応援してあげてね。




