【第2章】金と羊はトラブルの目印_012
(親しい友人とバディを組めって?)
ローラッドは聴衆を見渡して顔をしかめる。
(そもそもの前提として、俺に友人なんかいねえよ)
当然であった。
彼は『学園』入学以来ほとんど座学にも顔を出さず、試験の日だけ現れてはとりあえずの合格点を取るだけの不良生徒。
ましてや『夢』の混濁により人の顔と名前をまともに覚えられない以上、彼に興味を持って話しかけてきた貴重な何人かとすら友情が芽生えるわけがなかったのである。
(どうする?ブラッディをなんとか起こして誤魔化せるか?)
ローラッドは目の前の光景から目を逸らしながら必死に選択肢を探った。
(……いやダメだ。まず制服が無い。そもそも昼だとコウモリ体だし、あんないかにもな吸血鬼なんか人前に出すわけにはいかねえし)
『使い魔』を使う線は消えた。
ならば、どうにかこの場は乗り切って後々なんとかするしか無いか?
ローラッドはふと、目を逸らした先にある姿鏡を見た。
講堂の隅、誰が設置したのかも分からず放置されているそれに、壇上に立つ自分の姿が左右反転して映る。
漆黒の髪、獣の瞳孔、羊の角。
(こんな異様な姿をしたやつと関わり合いになるやつなんか普通は居ねえ)
素直に友達がいないと言おう。
決断したローラッドが鏡から目を逸らそうとした瞬間、文字通り光の速さで鏡から照射された黄金が網膜を焼いた。
「目がぁ!?」
「なぜ!わたくしの『立候補』を!!無視するの!!!」
感嘆符で短く区切られ気合十分な怒声が聴衆の一番後ろから壇上へと届けられた。
「こんなにも手を上げていますのよ!」
ビシィ!と音が聞こえるかと思うほど、金色の令嬢はその右手を天高く掲げている。
彼女はローラッドがおろおろと聴衆を眺めた瞬間から手を上げて、次第に立ち上がり、それでも視線をよこさない彼を振り向かせるため、鏡の反射越しに『輝いた』のである。
「ただでさえ面倒な状況なのに、トラブルが生きて歩いているような女と組んでいられるかよ」
ローラッドは網膜に焼き付いた閃光にくらくらしながら言う。
「あんたにしたって、俺なんかよりもっと優秀なやつと組んだ方がいいと思うが」
「なんですって!?わたくしは本気であなたと……」
「なるほどな、状況は理解したぞエルミーナ嬢」
アンナ教官は言い合いをする金と羊を仲裁するように割って入った。
「『洞窟探検』までの半年間、座学で優秀な成績を修め続けていた君はローラッドと同じダンジョンに入り、そして彼に救出されていたな?」
「その通りですわ」
エルミーナは自信満々に頷く。
ローラッドには理解しがたいが、どうやら彼女は『完全踏破』済みのある種『安全』なダンジョンから『救助』されたことをあまり恥と思っていないらしかった。
「結果として君は、せっかく『満点』だった成績に傷をつけることになってしまった。何せ君は……君の証言によれば、彼と協力してダンジョンを攻略するどころか、彼の攻略を邪魔していたのだからな」
「ッ!?」
そしてアンナ教官が続けた言葉に、羊角の少年は声にならない衝撃を受けた。
聴衆もにわかにざわつき出す。
「それも、間違いはありませんわね」
「ま、待てよ!」
黄金の令嬢がまたも力強く肯定したので、ローラッドは思わず割り込んだ。
「攻略の邪魔だって、俺は別にそんな」
「違うのか?」
教官は全てを見透かしたように微笑みながら軽く首を傾げた。
「エルミーナ嬢は『洞窟探検』中、彼女から君に失礼な態度を取ったことで喧嘩になり、その結果『事故』で昏倒したと証言している。何か違うところがあるのか?」
「あ、いや……」
ローラッドは混乱していた。
何せ、エルミーナの証言は全て彼女に都合の『悪い』ように曲げられているうえ、肝心な個所が抜けているのだ。
(なぜ俺から『反撃』されたことを言わない……!?)
確かに、昨日から不自然な点があった。
ローラッドが洞窟内で起きたと報告した『事故』は、救護室で厳密に調査すればすぐにバレるでっち上げ。
実際、『親衛隊』のキスティにはほぼ見抜かれていたくらいだ。
そして彼の洞窟内での所業が表に出れば、元の印象・地位も相まってエルミーナに有利な条件で裁かれるのは必至。
彼女が言えば、羊角の少年に無実の罪を着せることすら可能だったはずだ。
だが黄金の令嬢の証言は明らかに、羊角の少年を庇うものだった。
『未解明』のプライマルへの興味があるにしろやりすぎだ。
彼女がなぜここまで自分に固執するのか分からず、ローラッドは何も考えられなくなる。
「先ほどは取り乱しましたわ。無礼を詫びます、ごめんなさい。そして改めて、『救助』してくれてありがとうローラッド」
『善く』あろうとするのに理由は要らない。
少年の疑問にそう返答するかのように、黄金の令嬢は腰を折り、深く頭を下げる。
それだけでも彼女の『地位』を知る者は恐れおののくほどだが、エルミーナは顔を上げると、困惑するローラッドを自信に満ちた表情で撃ち抜くように見つめた。
「出会いは最悪の形になってしまったけれど、せっかくこうして姿を見せてくれたのですもの。昨日は少し事を急いてしまったけれど……わたくしはもっとあなたのことが知りたい」
エルミーナは微笑んで、真っすぐ、高く右手を挙げた。
「まずはわたくしと『お友達』になりましょう!あなたも同じ気持ちなら、わたくしとーっても嬉しいですわ!」
「っ!」
ハッキリとその意志を示すことが大事だと少女は言った。
その言葉通りの、ひたむきでまっすぐな友好の意志に、羊角の少年は返す言葉を持たなかった。
「……ローラッド?」
「エルミーナ嬢、君の気持ちは十二分に伝わったが、このへそ曲がり男にはちょっと過激すぎたようだな。完全に思考が止まってしまっている」
小声で「あの、えっと」としか言えなくなっているローラッドを見て小さくため息をついたアンナ教官は「そういえば」とエルミーナに話を振る。
「君は今日時間ギリギリにここに来たが、確か『学園』内の寮に住んでいるのではなかったか?エルミーナ嬢ともあろう者が、寝坊『できる』とも思えないが」
「ああそれはですねわたくし昨日から」
「きっ決めた!俺はエルミーナ・ウェスタリアス・アルゴノートの申し出を受ける!受けるからもう席に戻っていいか!?」
あれやこれやと話されてはたまったものではない。
必死に『主張』するローラッドを見て「どうぞお好きに」と呟くと、アンナ教官は壇を降りるよう手振りした。
席に戻るまでの短い時間は、羊角の少年には無限の長さに感じられた。
だが、今度の視線は『角』ではなく、不思議と自分自身に集まっているように思えた。
「ふぅ……」
ようやく席に戻る頃にはまるで数時間歩いたかのような疲れが押し寄せ、ローラッドは机に突っ伏す。
「これからもよろしくお願いしますね、ローラッド」
「……ああ」
隣の席から聞こえた小声の『挨拶』に、羊角の少年はそちらを見ないまま、静かに頷いた。
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