【第2章】金と羊はトラブルの目印_011
先を行く教官の後ろを歩いていると、ローラッドは否が応でも視線を集めた。
主に側頭部の『角』が目立ちすぎである。
「どうも『洞窟探検』ではなかなかの活躍だったそうじゃないか。私との『訓練』の成果が出たか?ん?」
少年の緊張を汲み取ってか、アンナ教官は軽い調子で言う。
「まあもっとも、最近は来てくれなかったがね」
「なんというか、お久しぶり……です」
「まったくだ。君とは個人的に話したいことも『色々』あるが」
アンナ教官は言いながら少年の『角』を軽く撫でると、そのまま「そらっ」と彼の尻を叩いて壇に上がらせた。
百の視線がローラッドに注ぎ込まれ、彼は助けを求めて教官の顔を見る。
「あ、あの、俺に一体何を……」
「君、さては本当に話を聞いていなかったな?まあいい、すぐにわかる……さて!」
教官は意地悪く笑うと、聴衆に向き直り、告げた。
「彼はこの中で唯一、『洞窟探検』中に『仲間』が倒れるトラブルに遭遇しながらも、課題の達成と『仲間』の救出に成功した唯一の学生だ!そんな彼ならわかるはず。ダンジョンを攻略するにあたり、最も大事なものは何か!」
「なっ……!」
突然の無茶振りに、ローラッドは硬直した。
ただでさえ衆目を集めている中、謎に持ち上げられた上に何かそれっぽいことを言えと?
これが話を聞いていなかったことの『罰』であることは明白だが、幸にしてアンナ教官は前口上としてヒントをくれていた。
(わざわざこんなことを言わせるのが『罰』の本体か……!)
歯噛みしても状況は好転しない。
ローラッドは覚悟を決め、むず痒くなるような『答え』を宣言する。
「正確な知識と技術、そして……」
「そして?」
「仲間との、『信頼と絆』、ですっ……!」
「その通り!」
教官はローラッドが教本の1ページ目に書いてある『お題目』を恥ずかしがりながら暗唱したことで、意地の悪い満面の笑みで大袈裟に拍手した。
聴衆からも、釣られてちらほらと手を叩く音が聞こえる。
(帰りたいっ……切実に……!)
目立つことを徹底的に避けてきた少年のメンタルはもうボロボロだった。
「はい、と言うわけで君たち、適当に気の合うやつと2人組を作れ。今後の課題は、基本的に組んだバディとこなしてもらうから」
だが、教官は追撃の手を緩めるつもりはないようであった。
聴衆がにわかにざわつき出す。
「『洞窟探検』を終えた君たちには今後、『完全踏破』されていないダンジョンにも調査に行ってもらうことになる。当然『洞窟探検』とは異なり明確なゴールはなく、主体的な調査と報告が求められる」
しかし、アンナ教官が今までになく真剣なトーンで語り出し、学生たちは自然と口をつぐんだ。
「そしてまた当然に『手つかずの危険』に遭遇する頻度も高くなるだろう。『洞窟探検』で原生生物……まあ最近じゃ『魔物』と呼ばれているあれらに遭遇した者も少なくないだろうが、『魔物』以外にも罠や、ダンジョンの構造そのものが文字通り『迷宮』と化していることもあるだろう」
『学園』の生徒は皆、入学から最初の半年間の座学でダンジョン攻略中の悲惨な事件・事故の事例を徹底的に叩き込まれている。
『手つかずの危険』への遭遇は、初見で対処できなければ自分が血みどろの新たな『事例』となることを意味する。
「君たちは『探宮家』、『手つかず』を開拓することでカネを得る者、その中でもかなりの未熟者だ。それらの危険をひとりで安全に乗り切るのは危険で、困難を極める」
怯えた表情すら見せる学生たちに、アンナ教官はニッと笑って見せた。
「お堅い感じになったが諸君!背中を預けるに足る『親しい友達』と手を組もう!と言っているのだ私は」
なあ!とアンナ教官はここで再びローラッドへ話を振る。
もちろん、彼がこれ以上話しかけるなと表情に出しているのは、理解した上で。
「ローラッド・フィクセン・グッドナイト。もう一度聞くが、ダンジョンを攻略するにあたり、最も大事なものは?」
「……仲間との信頼と絆です」
「もっと皆に聞こえるように!」
「仲間との信頼と絆です!!!」
もうヤケクソになりかけているローラッドが声を張り上げると、アンナ教官は満足そうに頷く。
「うむうむ、そうだとも。日頃から『仲間』のお話によぉく耳を傾けて、いざという時は言葉を交わさずとも連携が取れる。それくらい『信頼』する相手と組めたら最高だな」
「ハイッ!」
「いい返事だ!ではそんなローラッド君が組む相手は誰なんだ?」
「ハイッ!はいっ!?」
「いやなに、君は先ほど『考え事』に夢中だったよな?もしかすると私の話をよーく聞いたうえで、バディとして誘う相手を吟味していたのかもしれない、と思ってね。皆の手本になるよう、その『結論』をこの場で発表したまえ」
アンナは鬼教官なうえ、根に持つタイプだった。
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