【第2章】金と羊はトラブルの目印_007
「愚か者には仕置きが必要です。今日という今日は痛い目に遭って頂きます!」
背丈では二回りも大きい相手に、ほかの『親衛隊』の女の子の制止も振り切って啖呵を切るキスティ。
ビッ、と振るわれた『懲罰棒』に合わせ、『親衛隊』の全員が身構える。
「お?威勢がいいねえチビ女。なんかたくさん集まってるからさぁ、こっちもちょっと期待してわざわざここまで来たんだって」
数十人からプライマルの矛先を向けられても、マリュースは侮りを隠さずにニィっと笑う。
「かかってこいよ弱小ども。ちったあ暇つぶしになってくれな?」
「……ッ!行きますよみなさん!お嬢様の名誉を回復する『聖戦』です!!」
「はいっ!『我らの矛はお嬢様のために』!!」
謎の掛け声に合わせ、『親衛隊』の各々がプライマルを発動する。
火球、氷塊、風刃、岩弾。
多種多様な『敵意』がマリュースを傷つけようと迫る。
だが彼は動かない。
まもなく着弾した攻撃が炸裂し、轟音が響いた。
「おいあんなことしてたらマジで死人が出るぞ……」
「いいえ」
唖然とするローラッドの隣で、エルミーナはかぶりを振る。
「この程度で倒れるなら、アダミスキー兄妹は有名人などではありませんわ」
「は?いやいや、あんなことされたら怪我じゃ済まない……」
少年の言葉に割り込むように、ゴオッ!と突風が吹いた。
土煙が晴れ、無傷で立っている兄妹の姿が露わになる。
「『試し』はいいんだよ。どうせ効かねえから」
マリュース・アダミスキーは手をぱたぱたと大袈裟に振り、自身の無事をアピールする。
「あにさま」
傍の妹が呟いたのに「ああ」と頷いた兄は正面に両手をかざす。
「ちょっと遊んでやるかァ!」
マリュースの声に続いたのは爆発のような破断の音、そして悲鳴。
「なっ……!」
ローラッドは目の前で起きた出来事が信じられない。
『親衛隊』の立つ地面が割れ、岩盤ごと抉り出されて宙に浮いているのだ。
突如出現した浮島の上に『隔離』されてしまった『親衛隊』の子達が、落ちないように島の中央部へ身を寄せているのが見える。
「貴様ァ!」
「おっとっと」
そして、他の『親衛隊』の攻撃と同時に接近を始めていた近接特化のメンバー、その先頭たるキスティがマリュースに斬りかかった。
だが、何の音も響かない。
振り下ろされた『懲罰棒』の刃が、まるで『見えない手』に摘まれているかのように、空中で静止して動かないのだ。
怒りに震えるその切先を、マリュースはポケットに手を突っ込んだ姿勢で眺めている。
「そんなんじゃオレに傷一つつけらんねーことくらい見てわかるだろ。頭悪いのか?」
「化け物め……!」
「おうともさ」
罵倒されたにも関わらず、男は愉快そうにキスティへ左手をかざす。
「ぐがっ!?」
途端、少女の身体は宙に浮いた。
苦しそうに首を抑えてもがく少女は完全に無防備。
右の拳を握りしめつつ、ゆっくりと近づいてくるマリュースにも対抗できない。
「『特異零番』からまずは一発、プレゼントだぜっ!」
加虐欲に表情を歪ませた男が拳を振り抜く。
だが、宙に浮いた少女が殴り飛ばされるその寸前に一条の黄金色の光が少女を庇うようにして割り込んだ。
「そこまでになさい」
「あ?なんだよいいところなのに」
マリュースは己の指が炙られたことなど気にも留めずに、ニヤニヤ笑いながら光線の照射元である黄金の令嬢を睨みつける。
表情こそ笑っているが、その目が物語るのは怒り。
圧倒的な力を振るう『特異零番』に怒りを向けられ、しかし、エルミーナは全く怯まない。
そしてその視線は、『見えない手』から解放されて落下し、涙目で咳き込む白金色の少女に向けられていた。
「キスティさんは今回、明らかにやりすぎです。少し反省していただくために成り行きを見守っていましたが……マリュースさん、あなたもやりすぎですわ」
「おいおい、先に喧嘩を売ってきたのはコイツだぜ?見てなかったのかよ」
「ここまでしてしまったら、先がどちらだっかは関係ありませんわ」
エルミーナは目の前の男がそうしたように、右の掌を差し向ける。
その手に浮かぶのは、太陽の如く光り輝く黄金の光球。
「『浮島』のみなさまも解放して。それとも、今度はわたくしと『お喧嘩』をいたします?」
「……」
マリュースがニヤニヤ笑いを引っ込めると同時、ずずん、と地響きと共に『浮島』が元の穴へと静かに着地する。
ようやく地面に降りられた『親衛隊』たちがキスティの方へ駆けてくるのを見て、エルミーナはふう、と息を吐く。
「いや、やるか?逆に」
その安心を、交戦的な声がかき消した。
マリュースは頬が裂けたような笑みを浮かべる。
「オマエとなら、確かに退屈しない『お喧嘩』ができそうだもんなぁ……?」
「なっ、わかっていますの!?あなたのプライマルでは……」
「知ってるさ、優等生ちゃん!オマエの攻撃は防げない。けどさぁ」
ともすれば嬉しそうに語る大男。
「オマエもオレの攻撃は避けられねえんじゃないのかなって思ってさ!」
その目は獲物に飢える獣のよう。
「おいファレニア!」
「なに、あにさま」
「あっちの連中全員と遊んでていいぜ。オレはそこの金髪女に遊んでもらうから」
「わかった」
男の呼びかけに、幼い少女はすぐに応じた。
たたた、と歩き出す間に、その輪郭がどろり、と溶け落ちる。
「じゃあ、お姉ちゃんたち。わたしと『水遊び』しよ?」
不気味に泡立つ『藍色』の液にまみれた幼い少女は、『お姉ちゃんたち』へ無垢に笑いかけた。
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