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【第1章】指輪と光と犬とキスと_002

洞窟探検(ピクニック)』。

『学園』に入学後4ヶ月で生徒に課される試験であり、指定のダンジョン最奥に安置された指定の物品の取得を目指す。

 試験場となるダンジョンはすでに『完全踏破(マップアウト)』済みのものが指定されるため比較的安全ではあるものの、内部に生息する魔物や罠はそのまま。数年前に施行された『未解明生態保護法』によって『完全踏破』された国有ダンジョンの大規模改変は禁じられている。

 ただ、未知の部分が多いダンジョンの生態系を研究するため、とはあくまでも立て付けの話。

 実態としては、『完全踏破』されたダンジョンに正式な買い手がつくまでの期間、部外者が勝手に占領してしまうのを阻止するために立てられた法律だ。


「実のところわたくし、入学時点からあなたには注目していたの」


 ローラッドより数歩先を行くエルミーナは軽く振り向いて言う。


「覚えていらして?『資質検査(プライマルチェック)』のとき、あなたの次の順番待ちをしていたのはわたくしだった。てっきり一番乗りかと思ったのに、まさか二番手に甘んじることになるなんてね」

「別にいいだろ順番くらい。そんなに待たなかったはずだぜ」

「一番ではない、ってところが問題なの。それで、わたくしを差し置いて一番になるような殿方がどんなやつなのか気になって、あなたの『資質検査』をこっそり覗かせてもらったのよ」

「覗くって、仕切りがあっただろ。どうやったんだよ」

「簡単な仕切りくらい、光の反射でどうとでも掻い潜れる」


 薄暗闇の中、エルミーナの瞳がキラッと明るく輝いた。


「お嬢様らしからぬ手癖の悪さだな……話し方といい、本当は貴族じゃないみたいだ」

「そう思う?ま、多少の失礼には『目』をつぶってあげるわ」


 オホホ〜、と笑うエルミーナ。どこか男勝りな口調に貴族言葉が入り混じる彼女の奇妙な話し方に対してローラッドはイヤミを言ったつもりだったのだが、当の本人は何故だか嬉しそうに見えた。


「で、よ。わたくしが気になったのは、あなたの検査結果」


 そして、続く言葉にローラッドの肩がぴくり、と震えた。


「『未解明(アンノウン)』ってどういうこと?そんなプライマル、聞いたことがない」

「あんたが知らないプライマルが俺に備わっていたってだけのことだろ。そんなに……」

「珍しいことじゃない、って?言っておくけど、わたくしこれでもプライマルについては詳しいの。学園が行ったこれまでの『資質検査』で発見されたプライマルなら全て知っている。それでも『未解明』なんて結果は初めて見たわ」


 エルミーナの脚が早まった。合わせる義理はないが、ローラッドも後を追う。


「今までだって、発見されていなかった珍しいプライマルが『資質検査』に引っかかることはあったんだろ。だいたい、『根源資質(プライマルセンス)』っていうくらいだ。大雑把には分類できても、厳密には一人ひとりの資質(センス)は異なるわけだし、今回はたまたま俺が『未解明』とやらに分類されただけだって。アルゴノート家のお嬢様が、夜昼逆転(やちゅうぎゃくてん)のネクラ男なんぞに構う理由にはならねえよ」

「そう……あくまでも、シラを切るというのね」


 エルミーナが足を止めたので、ローラッドも自然と立ち止まった。蹴飛ばした石ころが床に跳ねる音が辺りに反響し、彼はいつの間にか自分がかなり開けた空間に出ていることに気づいた。

 洞窟内にぽっかりと空いた、ドーム状の空間。発光苔の深緑色よりも遥かに明るく輝く金色が、ローラッドと対峙している。


「ねえ、ローラッド。他人(ひと)の『根源資質(プライマルセンス)』をいちばん手っ取り早く、かつ正確に把握する方法って知ってる?」

「……さあ」

「なら教えてあげるわ。他人の『根源資質』を把握する方法、それは実際に目の前で使っている瞬間を見ること。『根源資質』は特異技能(スキル)なんて呼ばれていた時代があるくらい、それを持つ者の努力によって鍛えたり、逆にクセがついてしまうような代物なのよ」


 技能(スキル)ではなく資質(センス)と呼び方が変わったことや、その理由はあくまで余談。重要ではない。

 それが分かっていたから、ローラッドは「なあ」と割り込んだ。


「やめておいた方がいい。俺もまだまだ未熟なんだ、このままじゃきっと……お互い、後悔することになる」


 ローラッドはエルミーナを刺激しないよう、慎重に言葉を選び、紡いだ。

 だが、彼女はそれを一笑に付した。


「ご忠告どうも、ですわ。でもこれは、わたくしのプライド以上に興味の問題でもあるの。わたくしはあなのことが知りたい。ねえ、きっと痛くはしないから……!」


 興味に引きずられ、うわずった声。

 綺麗に巻かれた麗しき髪が、黄金の瞳が、ひときわ明るく輝いて。


「あなたの資質(センス)を、わたくしに見せてくださいなっ!!!」


 空気を焼き焦がし音を置き去りにする熱視線、いや熱光線が、ローラッドめがけて放たれる。

 ズバアアアアアアアッと、黄金色の光線が岩肌を焼き焦がす音が響き渡り、空気を分解する熱っぽい匂いがあたりに漂う。


「あっぶねえマジで殺す気かよっ!」


 だが、ローラッドは焦げてなどいない。

 エルミーナの瞳から黄金の熱光線が放たれる直前、彼女の視界が光でいっぱいになる一瞬の隙を突いて、その視線上から退避していたのだ。


「やはり避けられた……反射神経を強化する効果がある?それとも未来予知?」

「そのどちらも、なんとも言えないな!なあ、今からでも遅くない。今日俺らは会わなかったことにしよう。そして、今後一切関わらない!それがお互いのためだ!」

「聞き入れられませんわ、そんなの!」


 エルミーナの瞳がカッ、と光り、再び光線が放たれる。

 威力を抑えた代わりにさらに予兆のない、一瞬の攻撃。

 だが、それでもローラッドは再び避けていた。

 健全無事な男は声を張り上げる。


「最後の提案だ!もうやめにしよう!でないと、俺はお前を後悔させなくちゃならなくなる!」

「そんな虚仮脅しが通用するとでも!?わたくしを止めたければ、あなたのプライマルを見せなさいよ!わたくしの知らない、『未分類』のプライマルとやらをね!」


 再びエルミーナが光を纏った。

 最初の一撃ではだめ。それよりも早くてもダメ。

 ならば、と、ローラッドから見ても明らかにオーバーチャージな一撃。

 少し広い場所とはいえ、こんな狭い洞窟ではどうしようもないほどの光と熱が放たれようとしている。


「さあ止めなさい!避けなさい!なんでもいい。わたくしに、あなたの資質(センス)を見せてみなさいっ!」

「ああクソッやるしかねえのかっ……」


 ローラッドは頭を振り、半ばヤケクソに指を掲げた。


「俺は、忠告したからなっ!」


 パチンっ、と。

 何の変哲もない指鳴らし(フィンガースナップ)が洞窟にこだまする。


「指なんか鳴らして、いったい何のつも」


 興奮したエルミーナが叫びかけた、その直後だった。

 パチンッ、パチパチパチパチパチッ、と。

 留め金が弾け飛び、装甲が剥がれ、布がはだけ、帯が抜け。


 エルミーナの鎧付きドレスが一瞬で崩壊し、その色白な肌が、豊満な胸が、その肢体の全てが、露わになる。


「きゃあああああああああああああああああああああっ!?」

「だから忠告したんだぞ」


 光線のチャージも忘れてあたふたと身体を隠すエルミーナに、ローラッドはため息交じりに告げる。


「後悔することになる、って」

読んでいただきありがとうございます!

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